沢木耕太郎さんといえば「深夜特急」、「テロルの決算」、そして「一瞬の夏」。
主にスポーツや旅をテーマにしたノンフェクション、ルポルタージュで有名な方ですが、本作品は沢木さんの初の短編小説集「あなたがいる場所」を原作としたラジオドラマです。
「直球ど真ん中の作品は採用しない」という青春アドベンチャーの方針(などというものがあるのかどうか知りません)を忠実に守った、微妙にずれた原作選択ですね。
青春アドベンチャーでは「ふたつの剣」や「闘う女。」のようにスポーツノンフェクションを原作にしたラジオドラマの実績もありますし、沢木さんでつくるならもうスポーツノンフェクションで良い気がしてなりません。
さて、本作品は公式ホームページの紹介によれば、「深い孤独の底に一筋のひかりが差し込むような物語」であるけども、「沢木耕太郎は、この短編をどんな幼い子が読んでも分かるような“わかりやすさ”を主眼に書いたという。」とされています。
実際、少年少女が主人公の回も多いのですが、実際はほぼ大人向けの内容。
子供にはわからない、と言ったら言い過ぎですが、少なくとも、青春アドベンチャーに少年ジャンプ的な展開を求める層には全く訴求しないだろうと思われる作品です。
これは別に持ち上げているわけでも否定しているわけでもなく、ただ単にそういう作品だといっているだけです。
個人的には、数ある作品の中にたまにはこのような作品があることも十分にアリだと思っています。
ただ、本作品の前に放送されたのが「幻坂」で、さらにその前が「秘密の花園」。
さすがに3作品も大人向きというか、地味というか、つまりはアドベンチャーではない作品が並ぶと、少しやりすぎのような気もしました。
青春アドベンチャーは基本的には娯楽作品の枠であってほしいと思っています。
さて、本作品の各回の概要は以下のとおりです。
第5回・第6回だけが続きの作品になっており、全9作品の小品の集合体です。
◆第1話 「銃を撃つ」
自然と知人をランク付けしてしまうのは、大人も子供も同じか。
◆第2話 「迷子」
大人は子供を相手にするとなぜか自分の考え方を押しつけてしまう。自省せねば…
◆第3話 「虹の髪」
一歩間違えると痴漢。でも誠に勝手ながら通勤電車で美人を見かけると少し幸せです。
◆第4話 「ピアノのある場所」
女の子の気持ちもよく分かるが、父親は「ガソリンが切れる」と当然のごとく捨てられるというのも切ない。
◆第5、6話 「天使のおやつ(前・後編)」
きつい。きつすぎる。しかも前編から2日を空けて後編が放送されるスケジュールがしんどかった。本当に「一筋の光」しかない話だが、光は光か。
◆第7話 「音符」
介護が大変なのは分かるが、“これ”を他人が肯定するような作品はどうなんだろう。
◆第8話 「白い鳩」
この父親は子供に何を伝えたかったのだろう。自分は所詮カラスだということか。
◆第9話 「自分の神様」
今回の9作品の中で最も微温的な作品。特段の感想なし。
◆第10話 「クリスマス・プレゼント」
“一筋の光”が過去の思い出だけという、これもなかなかに切ない話。
作品ごとに主演俳優はバラバラなのですが、ひとりを挙げるとするならば、唯一前後編で放送された「天使のおやつ」に主演された国広富之さんでしょうか。
1970年代から1980年代に一世を風靡された俳優さんで、青春アドベンチャーの前々身である「アドベンチャーロード」では「遙かなる虎跡」(1989年)で主演されていました。
四半世紀を経て、すっかり老成されたお声と演技をお聴きできるのは嬉しい限りです。
また、第8話主演の本城雄太郎さんは、2009年放送の「世界でたったひとりの子」で主演された頃はいかにも子役といった感じの声でしたが、2013年の「泥の子と狭い家の物語」や「僕たちの宇宙船」では青年の声になっていました。
本作品では(大変失礼ながら)上手くなったなあと感じます。