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もと天使松永 作:樋口ミユ(FMシアター)

  • 作品 : もと天使松永
  • 番組 : FMシアター
  • 格付 : B
  • 分類 : 幻想(日本/ライト)
  • 初出 : 2015年12月23日
  • 回数 : 全1回(50分)
  • 作  : 樋口ミユ
  • 音楽 : ミッキー吉野
  • 演出 : 江澤俊彦
  • 主演 : 市原悦子

都会の雑踏の中、生ギター一本で歌うストリートミュージシャン・セージ。
根拠のない自信を頼りに1日も欠かさず路上に立ってきた彼を待っていたのは恋人からの別れの言葉だった。
もう誰に向かって歌っているのかもわからなくなったセイジ。
そんな彼にひとりの老婆が声をかけてきた。
「感心しながら聴いていたのよ、天使の気持ちをよく知ってるなあって。もしかしてあなたも元天使?」


本作品「もと天使松永」はFMシアターで放送されたオーディオドラマで、樋口ミユさんのオリジナル脚本の作品です。

松永って?

主演は市川悦子さんと成河(ソンハ)さん。
あくまで個人的にですが、戦国武将・松永弾正久秀や「火喰鳥」松永源吾の影響からか「松永」という名字に男っぽいイメージがあり、本作品を聴く前には成河さんが演じる役が松永なのかなと思っていたのですが、「もと天使松永」は市原悦子さんが演じる老婆の役名です。

市原悦子さんが歌う?

本作品の最大の特徴は何といってもその市原悦子さんが歌うこと。
本ブログで今まで紹介した樋口ミユさん脚本の作品、例えば「僕たちの宇宙船」などでも歌を活用する傾向がみられるのですが、市原悦子さんに何曲も歌わせちゃうなんてなかなかの英断です。
ちなみに市原さんは本作品放送の約4年後に永眠されることになるのですが、本作品が放送された2015年は本作品の他、「ちょっといいですか?」、「母、逝かず」となんと3本もFMシアターに出演されており、NHK-FMのオーディオドラマに関しては最後の大活躍の年となりました。

歌う意味を見出す?

さて、本作品のストーリーラインは冒頭の粗筋から概ね予想されるとおり。
彼女にフラれた売れないミュージシャンが不思議な老婆との交流を経て、自分が歌う意味を見出していくというもの。
本作品における天使は死期を前にした人間の前に現れるのですが、できることはその人間の心を晴れやかにすることだけで何らか根本的な解決をすることはできません。
それに嫌気がさして敢えて人間になった松永を通して、セージが歌う意味を考えていくのですが…

あのフォークで売れる?

うーん、樋口ミユさんらしからぬ、ふんわりとした展開、そして着地。
まあ着地という意味では「僕たちの宇宙船」の終わり方も大概曖昧ではあったのですが本作品は主人公の心情の移り変わり、ストーリーの展開が温め。
樋口さんの作品、独特の濃い世界観があったりして聴く人を選ぶとは思うのですが、「飛ばせハイウェイ、飛ばせ人生」や「ニコイナ食堂」など、ファンタジックな雰囲気の中に生き死にかかわるピリピリとした雰囲気があり私は嫌いではありません。
ただ本作品のセージは現実逃避しているようにしかみえないし、特に最後の「地球レベル」の話は何なんだか。
市原さんの声の持つどこか浮世離れした雰囲気と、いつも素晴らしい成河さんの演技(この方はどんな作品でも演技の水準がぶれない)のお蔭からか聴取後の後味は悪くないのですが、どうも全体的な納得性が薄く感じ、いまひとつ乗れませんでした。
というか、そもそもあのフォーク風の歌では売れないよねえ…

なぜゴダイゴ?

歌と言えば本作品のもうひとつの特徴はゴダイゴのミッキー吉野さんが音楽を制作していること。
そして作中のギタープレイもゴダイゴの浅野孝己さんですので、なぜかゴダイゴで統一されています。
それにしても日本のプログレッシブ・ロックの草分けでもあるゴダイゴを起用して、なぜあの、どフォークなのだろう。謎だ。
なお、最後に本記事はネタバレを防ぐために敢えて触れていないこと、誤誘導している部分があります。
聞かれた方はお分かりかと思いますが、ご容赦下さい。

Hirokazu

オーディオドラマの世界へようこそ!

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