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カムイの剣 原作:矢野徹(FMアドベンチャー)

  • 作品 : カムイの剣
  • 番組 : FMアドベンチャー
  • 格付 : AA-
  • 分類 : 歴史時代(日本)
  • 初出 : 1984年12月3日~12月21日
  • 回数 : 全15回(各回10分)
  • 原作 : 矢野徹
  • 脚色 : 石山透
  • 音楽 : 天上昇
  • 演出 : 上野友夫、大沼悠哉
  • 主演 : 志垣太郎

幕末の蝦夷。
忍びの者・次郎は、孤児の自分を育ててくれた幕府直轄隠密集団の首領・天海こそが、親を殺した張本人であるということを知ってしまう。
捨てられたときに持っていた日月螺鈿(じつげつらでん)のアイヌの宝剣「カムイの剣」だけを持って天海のもとを出奔する次郎。
だが、実は天海が敢えて次郎を手元に置いていたのは、次郎の父・太郎左(たろうざ)が隠していた秘密をわが物とするためだった。
そのため、すぐに天海は追手を差し向けるのだが。



日本SF黎明期のSF作家にして翻訳家でもあった矢野徹さんの小説を原作とするラジオドラマです。
放送された「FMアドベンチャー」という番組は1984年4月から約1年間放送された番組で、現在の「青春アドベンチャー」の直系のご先祖にあたる番組です。

カムイ伝とカムイの剣

ところで、ややこしいので先に説明しておきますが、「カムイ」と聞くと、白戸三平さんの漫画作品「カムイ伝」や「カムイ外伝」を思い起こされる方も多いと思います。
両作品は発表された時期が近い上に両方ともアニメ化されている。
主人公の名前も両方とも「カムイ」です。
しかも「カムイ外伝」もまた、NHK-FMでラジオドラマ化されているのがややこしさを増しています。
「カムイ外伝」は1995年に単発のドラマとして「カムイ外伝」と「続・カムイ外伝」に分けてラジオドラマ化されました。
言うまでもありませんが「カムイの剣」と「カムイ外伝」にはストーリー上のつながりは全くありません。

幕末の時代、蝦夷がスタートの舞台

さて、本題に戻ります。
本作品は江戸時代の日本からスタートする作品でありながら、冒頭から海賊キャプテンキッドの言葉(「余の後継者は、余の血を引くことも、英国人であることも要しない」)が出てくることが象徴するように、何ともスケールの大きい作品です。
実際、冒頭はコタンや飾り板、イオマンテなどのアイヌの風俗を織り交ぜつつ忍者物語として進んでいきますが、第6話あたりからどんどん想定外の方向に舞台が広がっていきます。
この辺はネタバレになるといけないので、是非、ご自身で読んで(聴いて)頂きたいところです。

物語は世界へ

「獅子の城塞」の記事でも書いたのですが、「日本史のあの時代が世界史のこの時代につながる」というのはなかなか魅力的な展開です。
青春アドベンチャーでも「ジャガーになった男」、「タイムスリップ大坂の陣」がこのような仕掛けを使っていますね。
個人的には村枝賢一さんの漫画「RED」で、日本の西南戦争とアメリカの西部開拓時代をうまくつなげた構成に唸った記憶がありますが、戦前の日本人が「源義経=ジンギスカン説」(青春アドベンチャーのコレ←ネタバレ注意、やアドベンチャーロードの「成吉思汗の秘密」)などを真面目に信じてしまったのを考えると、(もちろん判官びいきの心境はあるのでしょうけど)こういった発想自体にロマンがあるのでしょう。

脇役も多様

その他、小栗上野介(演:塚本信夫さん)、マーク・トゥエイン(演:青砥洋さん)、グラバー(演:八木光生さん)、キャプテンキッド(演:木下秀雄さん、ただし遺書を読む声だけ)といった実在の歴史上の人物が出てくるのも楽しいところです。
本作品、言って見れば「モンテ・クリスト伯」のような復讐ものではあるのですが、次郎とお雪、それに黒人青年サム(演:冷泉公裕さん)、フランス生まれでネイティブアメリカン育ちの娘チコ(演:島津冴子さん)などがともに旅するロードムービーの趣もあります。
また、復讐のみに生きていた次郎が、明治維新という激動期に外の世界を知ることにより、何のために生きているのかを自問するようになる姿は、若者の成長物語ともいえ、結末もなかなか爽やかです。

1回10分は短すぎる

ただ本作品で若干、残念なのは展開が速すぎること。
FMアドベンチャーは後年のアドベンチャーロードや青春アドベンチャーとは違い1回10分の番組ですので、本作品が15回連続と言っても、全体としてのボリュームは青春アドベンチャーにおける10回連続作品と変わりません(むしろ各回にオープニング・エンディングが入る分少ない)。
それなのに本作品はスケールが大きいため、ストーリーはとにかくどんどん進んでいきます。

ナレーションも多すぎるが…

本作品は広川太一郎さんがナレーションをしているのですが、もともとナレーションの合間にセリフが挟まっているように感じられるほど、ナレーションによる状況説明が多い作品です。
それに加えてナレーション自体が早口で、急いでいるように感じられるほどのスピード感です。
ストーリー展開上、仕方がないのかもしれませんが、ダイジェスト感がでてしまうのもやむを得ない状況です。
とはいえ第6話の新展開以降は、進みもややゆっくりとなり、全体として楽しく聴くことが出来る作品でした。
後半のこの印象の変化は、明るく、広い大地が舞台になっていることも影響していると思います。

志垣太郎さん主演

さて、本作品の主人公である次郎を演じるのは俳優の志垣太郎さん。
1970年代には若い女性からアイドル的な人気があった方で、その後は「天才たけしの元気が出るテレビ!!」など、様々なバラエティ番組などにも出演されているので、若い方でもご存知の方は多いのではないでしょうか。
その他、天海役の小池朝雄さん(初代刑事コロンボの吹き替え)、ヒロイン?の松前のお雪役の麻上洋子さん(宇宙戦艦ヤマトの森雪役)などが脇を固めています。

すぐ後に映画化

最後に、本作品について、補足情報をいくつか書いておきます。
まず本ラジオドラマが放送されたわずか4カ月後の1985年3月には、同じ「カムイの剣」を原作とする劇場用のアニメーション映画も公開されています。
こちらの配役は、次郎役が俳優の真田広之さん、天海役が俳優の石田弦太郎(太郎)さん、お雪役が声優の小山茉未(茉美)さんといったところ。
石田太郎さんは2代目の刑事コロンボの吹き替えの方ですので、天海はラジオドラマとアニメで両コロンボがそろい踏みだったわけです。
それにしても、映画化と同時期にラジオドラマ化を仕掛けるやり方は後年の「ジュラシック・パーク」などにも見られるのですが、NHK-FMのドラマスタッフは昔から意外と商売っ気が逞しかったことがわかります。

そして続編へ

また、この映画化を記念して、原作では、明治維新後を描いた続編(第3巻 明治開国編・1984年12月、第4巻 世界への道編・1985年1月、第5巻 ロシア南進策編・1985年2月)が発表されているようです。
そして、本作品が好評だったからか、本作品のラストが広川さんの「シリーズはこれにて完結と致します」というナレーションで締められているにもかかわらず、NHK-FMでも続編が制作されました。
それは1986年1月に、FMアドベンチャーの後番組である「アドベンチャーロード」で放送された「カムイの剣 パート2」です。
本作品と同じ志垣太郎さん主演で、恐らく原作の第3巻以降のラジオドラマ化なのではないかと思われます。


【近代から現代にかけてのアメリカ合衆国を舞台にした作品】
第1次世界大戦後に完全にイギリスから覇権国家の座を奪い取ったアメリカ合衆国。
その発展期から現代までを舞台にした作品の一覧はこちらです。



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