ノムラノブオは、成績はちょっとばかり悪いが、その他はごく普通の高校3年生…に見える。
しかし彼は、ある特殊な能力を持っていた。
センサーのような指先と飛び抜けた反射神経。
そう、「スリ」として得がたい素質を持っていたのだ。
そして彼は、不敵な同級生スウガクの誘いを受け、謎の美少女キクチとともに、名門大学・早慶大に入学するための、ある計画に荷担することになるのだが…
本作品は、原田宗典さんの青春ピカレスク小説(?)「平成トム・ソーヤー」をラジオドラマ化した作品です。
ちなみに原田宗典さんは後年「<あの絵>の前で」が青春アドベンチャーでラジオドラマ化された原田マハさんの実兄にあたります。
さて本作品は、スリの技を使って犯罪的な行為をするという時点で道徳的な作品ではないものの、主人公達が青春まっただ中の青少年ですので、陰惨だったり退廃的だったりする要素は少なく(終盤、急に死人が出て少しびっくりはしますが)、青春小説あるいは成長物語(ビルディングスロマン)として爽やかな作品です。
ムフフなシーンは省略気味ではありますが、ラブホテルが重要な舞台の一つであることもあり、モヤモヤとした青春小説的な雰囲気も割といい感じででています。
また、ななめ読み程度にしか原作を読んでいないのですが、原作の構成を微妙に変えていたり、使用する固有名詞を工夫するなど細かい工夫がみられるほか、台本も全般的にスピーディーで緊張感があり、ラジオドラマとしても聞きやすい良作になっています。
ただ、主演の小松正一さんはともかく、吉田鋼太郎さん、前田悠衣さん、武岡淳一さんといった主要キャストの声が今ひとつ高校生に聞こえないという欠点はあります。
まあこの辺はご愛敬でしょうか。
さて、出演者は、まず主人公のノムラノブオ(彼の名前は作中では基本的にカタカナで標記)役を俳優の小松正一さんが演じています。
小松さんは、スウガクを演じる吉田鋼太郎さん(ブラジルから来た少年、アナスタシア・シンドロームなど)、キクチを演じる前田悠衣さん(オズ、秘密の友人など)とともに、川口泰典さん演出作品の常連出演者でした。
「東京防衛軍」、「踊る黄金像」など多くの青春アドベンチャー作品に出演されている小松さんですが、主演しているのは本作品くらいかも知れません。
また、スタッフで注目すべきは脚色の福田卓郎さんでしょうか。
2015年の新作仮面ライダー「仮面ライダーゴースト」の脚本家に抜擢された福田さんですが、もともとは劇団「Dotoo!(ドトォ!)」を主催される脚本家さんでした。
青春アドベンチャーには、1993年に渡辺いっけいさん主演の「くたばれ!ビジネスボーグ」の脚色をされたのが初参加。
以降、2014年5月の「放課後はミステリーとともに『探偵部への挑戦状』」までの間に、名作「着陸拒否」など合計11作品を担当されています。
2002年には唯一のオリジナル作品「エドモンたちの島」も発表されていますが、これは厳密なオリジナルではなく、舞台脚本のリニューアルのようです。
それにしても、これだけ青春アドベンチャーに縁のある方が、子ども向きとは言えメジャーなテレビ番組でも活躍されているのを見ると嬉しいですね。
ところで本作、2004年から2007年にかけて漫画化もされているようです。
タイトルは「戦線スパイクヒルズ」。
全然違うタイトルです。