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元祖江戸川乱歩の奇妙な物語 原作:江戸川乱歩(サウンド夢工房)

  • 作品 : 元祖江戸川乱歩の奇妙な物語
  • 番組 : サウンド夢工房
  • 格付 : A+
  • 分類 : ホラー
  • 初出 : 1991年11月4日~11月15日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 江戸川乱歩
  • 脚色 : 大野哲郎
  • 音楽 : 桜田誠一
  • 演出 : 上野友夫
  • 主演 : 広川太一郎

江戸川乱歩といえば、江戸川乱歩賞にも名を残す、わが国推理小説界の始祖のひとりとして有名ですが、同時に不思議な世界を早くから題材にした作家でもあります。
本作品「元祖江戸川乱歩の奇妙な物語」は江戸川乱歩の怪奇、幻想方面の名作4篇を、それぞれ2回又は3回連続(30分又は45分)でオーディオドラマ化した作品で、NHK-FMのラジオドラマ番組(本記事では昔の番組なのであえてオーディオドラマではなくラジオドラマとします)「サウンド夢工房」で放送されました。



上野友夫さんの江戸川乱歩もの

演出を担当したのは上野友夫さん。
上野さんといえば前身番組のアドベンチャーロードで合計75回も掛けて江戸川乱歩原作の少年探偵団シリーズをラジオドラマ化しています。
さらにその前、ラジオ第一の「連続ラジオ小説」では、今となっては正確にはわからないのですが、アドベンチャーロード時代以上と同等以上の話数で、明智小五郎が活躍する大人向けの推理作品をラジオドラマ化しています。
これらに共通するのは脚本が大野哲郎さんで、音楽が桜田誠一さんであること。
そして広川太一郎さんが明智小五郎を、(登場すれば)羽佐間道夫さんが怪人二十面相を演じ、中西龍さんがナレーションを担当していました。
つまりほぼ似たような雰囲気の作品が大量に作られていた訳で、この一連の作品群は1980年代のNHKのラジオドラマの一つの側面を象徴する存在でした。

最後の作品

そんな上野友夫さんの江戸川乱歩もの・明智小五郎ものも、1989年7月の「宇宙怪人と少年探偵団」で遂に終わりを遂げます。
アドベンチャーロードという番組自体が翌1990年3月に終了し、後継番組の「サウンド夢工房」では上野さんがメガホンをとる機会自体が減少したのですが…
最後の最後、上野友夫さんが演出を担当したのがこの「元祖江戸川乱歩の奇妙な物語」。
つまりやはり最後は江戸川乱歩で締めたことになります。
ただし残念ながら江戸川乱歩といっても恐怖小説が題材なので、広川さんの明智小五郎は聴けない…といいたいところですが、実は最後の4話目が明智小五郎が登場する「屋根裏の散歩者」で、最後の最後、やはり広川=明智で締めたことになります。

各話の紹介

さて、本作品で放送されたのは以下の4作品です。
いずれも怪奇色が強い作品。
「人間椅子」や「屋根裏の散歩者」などはこの方面の乱歩の代表作とも目される作品。
さすがに原作の良さを反映して聞かせる作品になっています。
ただ、方向性は「気味が悪い」であり「怖い」とは少し違います。
そのため、これをホラーと称するのは違う気もするのですが、当世風のファンタジーではなく「幻想」に分類するのも違う気がすることから、敢えて当ブログでのジャンルはホラーとしました。

押繪と旅する男(第1回~第3回)

押絵と旅する老人が話してくれたのは、のぞきからくりに映る女の絵とそれに恋した男の不思議な物語だった。


押絵とは、厚紙を花鳥・人物などの形に切り抜き、綿をのせて美しい布で包み、物に貼り合わせた細工のことで、具体的には飾り羽子板に使われているアレです。
一方、「のぞきからくり」とは江戸時代から明治にかけて実在した大道芸で、客にレンズ越しに見せる絵を回転させながら講談する見世物。
近代日本のレトロな雰囲気を背景に夢と現実の狭間の幻想的な物語が展開される。

人間椅子(第4回・第5回)

抱きとめるような座り心地の椅子が実現できず悩む醜い家具職人のもとに、天啓のような女の声が聞えてくる。「あなたが椅子の中に入ればいいのよ…」


乱歩をエログロナンス小説の書き手として一躍有名にした作品で何度も映像化されている。
しかし作家というものはどうしてこういう奇妙な発想ができるのだろう。
確かにホテルのロビーにあるような重厚な椅子は人間が入れそうではあるが…
着想自体が奇怪としか言いようがない。

目羅博士(第5回・第6回)

2人も自殺騒ぎがあったビル。その向かいの眼科医・目羅博士の診察室にはガラスの目玉が並んでいる。やがて診療室のあるビルでも…


正直、何が起こったかがわかりづらく、ストーリーは曖昧だが、この作品も道具立てが気味悪すぎる(褒めています)。

屋根裏の散歩者(第7回~第10回)

退屈しのぎに寝ていた押入れから天井裏に入れることに気が付いた男。そこには屋根裏の散歩者の奇怪な異次元の世界が広がっていた。やがて男は密室殺人の方法を思いつく。


4篇の中では本作品のみ明智小五郎が登場する推理ものになっており、一応、明智小五郎シリーズの代表作のひとつとされている。
犯人の視点から描かれる倒述式の展開だが、犯人にこれと言った動機はないし、あまり厳密なトリックでもなく、どちらかというと屋根裏の幻想的な雰囲気が魅力の作品。

主演は羽佐間道夫さん?

さて、本作品の出演者は広川太一郎さん、羽佐間道夫さん、松坂隆子さん、横田砂選さんと言ったところ。
本作品、基本的にナレーションが多い朗読に近いつくりなのですが、各作品に登場する濃いキャラクター達を広川太一郎さん、羽佐間道夫さんが気味悪く演じているのが印象的です。
特に羽佐間道夫さんの演技が強烈であり、主演は羽佐間さんと言っても良いように感じました。



Hirokazu

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