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101便着艦せよ 原作:オースチン・ファーガスン(FMアドベンチャー)

  • 作品 : 101便着艦せよ
  • 番組 : FMアドベンチャー
  • 格付 : AA
  • 分類 : サスペンス
  • 初出 : 1984年4月16日~5月4日
  • 回数 : 全15回(各回10分)
  • 原作 : オースチン・ファーガスン
  • 脚色 : 瀧沢ふじお
  • 演出 : 峯岸透
  • 主演 : 森塚敏

その日、サンフランシスコを飛び立つ101便は、センチュリー航空にとって長年の宿願であった北京への定期便の再開第1便だった。
記念式典に出席するボブス副大統領を乗せているという意味でも失敗のできないフライトである。
センチュリー航空はこの101便の運航に、同社切ってのベテランパイロットであるビーミッシュ機長を始めとする3人の機長資格を持つパイロットと練達の航空機関士を配し万全の体制を敷いた。
しかし、機関士のタッド・エリオットにはふたつの懸念事項があった。
ひとつは、貨物室に積まれた靴箱くらいの200個の箱。
積み込みの手筈が如何にも不自然だった。
そして、もう一つは、DC-10に3基搭載されているエンジンのうちの1基である第3エンジンの調子。
「第3エンジンは慢性的に温度上昇の傾向にあり。燃料制御装置を交換。試運転の結果はOK」
直前の整備状況を示す航空日誌にはこのように書かれていたのだが…



この記事が、当ブログにおける400作品目のラジオドラマの紹介記事になります(先行して公開していた「晴れたらいいね」を含む)。
思えば遠くに来たものだ、という感慨はありますが、400作品を紹介した記念特集は別途実施したいと思いますので、まずはこの「101便着艦せよ」の紹介をしたいと思います。

青春アドベンチャーの源流のひとつ

この「101便着艦せよ」は現在放送中の「青春アドベンチャー」からみると、前々々番組にあたる「FMアドベンチャー」で1984年に放送されました。
「FMアドベンチャー」では「無頼船長トラップ」に続く2番目に放送された作品であり、NHK-FMの「アドベンチャー」系の番組の中でも最も古い作品のひとつです(「ふたりの部屋」系は除く)。

ベテランの出演陣

古いだけあって出演者もレトロ。
主人公のダンカン・マニングを演じるのは、FMアドベンチャーでは「名探偵なんか怖くない」などにも出演されていた森塚敏さん(2006年没)。
その他、ボブス副大統領役の阪脩さん(「機動警察パトレイバー」の榊清太郎(おやっさん)役が懐かしい)や、ビーミッシュ機長役の原田清人さんなど、主な登場人物・出演者が中年以降(というか初老以降)という、FMアドベンチャー時代らしい大人向けの実に渋い作品です。

タイトルにも懐かし感

また、レトロと言えば、この「101便着艦せよ」というタイトルもレトロ感満載。
このような命令形のタイトルは、一昔前の翻訳物の冒険小説でよく見られたように感じます。
NHK-FMのラジオドラマでも、「ダイヤを抱いて地獄に行け」(ハドリー・チョイス原作・ふたりの部屋・1978年)、「バーニーよ銃を取れ」(トニー・ケンリック原作・アドベンチャーロード・1985年)、「A-10奪還チーム出動せよ」(スティーブン・L・トンプソン原作・アドベンチャーロード・1987年)などの例があります。
もうこのタイトルを聞いているだけでわくわくしませんか。

最近は流行らない?

この命令形のタイトル、日本人作家のものであれば、「ふたりの部屋」(1978年~1985年に放送されたアドベンチー系とは別系統の番組)では比較的頻繁に見られたのですが、1992年スタートの「青春アドベンチャー」ではほとんど見られません。
基本的にはダジャレになっている干支シリーズの「モー!いいかげんにして!」や「今夜はバード行こう!」の他には、佐藤多佳子さん原作の「一瞬の風になれ」、古内一絵さん原作の「風の向こうへ駆け抜けろ」、中村小夜さん原作の「昼も夜も彷徨え」くらいで、本格的なアクション、サスペンスものではありません。
流行っている作品の傾向が変わったのか、タイトルの付け方の流行りが変わったのか。
その両方かも知れませんね。

航空サスペンス

さて、余談はこのくらいにして作品の内容に移ります。
本作品は民間航空機を舞台とした航空サスペンス作品です。
アドベンチャー系のラジオドラマ番組では、本作品と「着陸拒否」(ジョン・J・ナンス原作・青春アドベンチャー・1998年)が、この分野の双璧でしょう。
両作品はストーリーが全く違いますし、機体の問題が起きるか否かという点で決定的な違いもありますが、似ている要素も多くあります。
例えば、両作品ともパイロットが主人公であること、「ランディング」がテーマになっていること、偶発的な出来事に政治的な思惑が絡まって事態がややこしくなること、「ウイルス」が絡んでいることなどです。
VIPが乗っていたり、パイロット間に対立が発生するのもお約束です。

軍用機とは異なる緊張感

そして何より共通しているのが「多くの乗客を乗せていることの緊張感」でしょうか。
「ドラゴン・ジェット・ファイター」や「A-10奪還チーム出動せよ」のように軍用機のアクションシーンにも迫力はあるのですが、軍人同士の戦闘は詰まるところ当人同士の命のやりとりに過ぎません。
それに対して、満載された乗客の命を一身に背負わなければなけない民間航空機の機長の責任の重さというものは、格別のものだと思います。
本作品も、その恐怖と戦うクルーたちの責任感こそが最大の魅力だと思います。

リアリティは経験から

さてさて、不調だった第3エンジンはいつ、どうなってしまうのか、謎の積み荷はフライトにどのような影響を与えるのか、そして101便のDC-10はなぜ「着陸」ではなく「着艦」しなくてはならないのか。
この辺は聴いての(読んでの)お楽しみでしょうが、それにしても気になるのは、本当にDC-10は「着艦」できるものなのか。
この辺は荒唐無稽と言えば荒唐無稽ですが、それまでのパイロットの様子が(社内力学の問題も含めて)リアルに描かれていることもあり、違和感を感じると言うよりは意外性を素直に楽しむことができました。
聞けば、原作者のオースチン・ファーガスンはユナイテッド航空で本当にパイロットをされていたとか。
やはり飛行シーンがある「魔の視聴率」の原作者の福本和也さんも元パイロットだそうですが、この辺のリアリティはやはり経験者ならではなのかも知れません。

熟年出演者と若手女優

主演者は先に述べたとおり、森塚敏さん、原田清人(原田樹世土)さん、阪脩さん、平映子さん(ボブス夫人)、北見治一さん(ブラッドリー大統領)といったところ。
見事な“熟年出演陣”ですが、一応ヒロインであるニュースキャスター、アイリーン・モーガン役の土井美加さん(放送時27歳)だけはヒロインらしい年齢です。

瀧沢ふじおさんの経歴

脚色は瀧沢ふじおさん。
瀧沢さんは放送作家かつTVディレクターの方で、放送作家としては「おとなの漫画」や「シャボン玉ホリデー」、「紅白歌のベスト・テン」など、ディレクターとしては「サンデー・スポーツ9」、「ゴルフ・スクランブル」などを担当された方だそうです。
アドベンチャー系のラジオドラマのファンの方はよくご存じの「クロスオーバーイレブン」のスクリプトも担当されていたようです。
FMアドベンチャーでは「渇きの海」も担当されています。
そういえば「渇きの海」も、舞台こそ宇宙ですが、パイロットを中心に事故に立ち向かうパニックもので、本作品と似た要素がありますね。

Hirokazu

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