Categories: 格付:B

もしかして時代劇 原作:宮本昌孝(アドベンチャーロード)

  • 作品 : もしかして時代劇
  • 番組 : アドベンチャーロード
  • 格付 : B+
  • 分類 : タイムトラベル
  • 初出 : 1989年12月4日~12月15日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 宮本昌孝
  • 脚色 : 木皿泉
  • 演出 : 保科義久
  • 主演 : 小林聡美

芸能界志望の17歳の女の子・津田美雪は、「ミス花らっきょ」のオーディションのために訪れた福井県で、天正年間の戦国時代にタイムスリップしてしまった。
現代に帰る手段もなく、悲嘆に暮れる美雪……なんて事は全くなく、茶々姫(後の淀君)と入れ替わったのをいいことに、さっさと戦国時代に適応し、侍女や家来たちをあごで使い始める美雪。
しかも何を勘違いしたか、「歴史を変えるようなメチャクチャなことをすればタイムパトロール(←そんなものはいない)に捕まって現代に帰れるに違いない」と思い込んでしまったから、さあ大変。
のんきで世の中全部が自分中心に動いていると思っている少女の、成り行き任せの冒険が始まった。



宮本昌孝さん原作、木皿泉さん脚色の、ライトノベル風タイムスリップSFラジオドラマが、この「もしかして時代劇」です。

むしろこちらが元祖

主人公は、無知で無責任で無謀で、そしてこれら全てに無自覚な少女美雪。
ちゃらんぽらんな少女がタイムスリップして大騒動を巻き起こす、というプロットは、後年、番組が「青春アドベンチャー」になってから田村ゆかりさん主演でシリーズ化された「タイムスリップシリーズ」(「タイムスリップ明治時代」など)と同じであり、本作品はその元祖に当たるような内容です(もちろん両作には何の関連なし)。

うらら以上の悪乗り

特に、両作品の主人公、「タイムスリップシリーズ」の「麓うらら」と、本作品の津田美雪の性格は、お気楽・極楽という点でよく似ています。
しかし、タイムスリップシリーズで現代に帰るための方法が「歴史の改編を修正して歴史を一本化すること」であるのに対して、本作品では「歴史をメチャクチャにしてタイムパトロールを呼ぶこと」(美雪がそう思っているだけ)ですので、一段と展開はメチャクチャです。
いや、性格も、まだしも「うらら」の方が純真かな。
美雪は意図的に悪のりしている愉快犯のように感じます。

日本史上の有名人物たち

さて、何はさておき美雪は、超有名人の淀君と入れ替わってしまった(「小袖日記」にように心が入れ替わると言うより、もともとよく似た二人が身体ごと入れ替わっている様子)訳で、登場人物たちも、日本史上の有名人物がずらり。
豊臣秀吉(演:堀内一市さん)、服部半蔵(演:端田宏三さん)、お江(演:川上律美さん)、徳川家康(演:西山辰夫さん)、そして石川五右衞門(國村隼さん)などがメインキャラクターとして登場するほか、細かいところでは、織田信長、春日局、伊達政宗、黒田官兵衛、伊藤一刀斎、風魔小太郎から、日本版サンジェルマン伯爵(「仮想の騎士」参照)ともいうべき果心居士などが登場します。

井上真樹夫さん大活躍

そして石川五右衞門といえば、アニメ「ルパン三世」で石川五ェ門役を演じていた井上真樹夫さんがナレーションで登場し、なぜか五ェ門の声で「ルパン!」などといったり、美雪(を演じる小林聡美)さんと話し始めるメタ展開風のシーンがあったり、自由な脚本です。

脚色木皿泉、演出保科義久

本作品を脚色している木皿泉さんは、後に本作品に主演している小林聡美さんも出演した「すいか」や「やっぱり猫が好き」で名を上げた方(正確にはその片割れ。詳細はこちら)なのですが、何とも遊び心満点です。
ちなみに木皿さんは黒田官兵衛役・三好秀次役で出演もされています。
演出面でも、「独眼竜正宗」などの大河ドラマのテーマ曲が流れたり、保科義久さんらしい楽しい演出です。

ああっ正しい歴史が…

ともあれ、こんな日本史上の重要人物に囲まれてしまった美雪。
時代は小谷城の戦いのあった天正元年(1570年)から小牧・長久手の戦いのあった天正12年(1584年)まで。
茶々姫として奔放に振る舞うだけではなく、時には「出雲の阿国」となり(この作品では出雲の阿国も実は美雪であったという設定)、戦国時代で念願のアイドルになってしまう。
そして最後には日本史自体がメチャクチャなことに…
どうメチャクチャになるかは聴いての(読んでの)お楽しみです。

出演者の熱演が光る

…というように、本作品はごく単純な娯楽作品ではありますが、娯楽作品であるからこそ、出演者の熱演が作品を引き立てています。
特に、この極楽とんぼの美雪を演じた小林聡美さんと木皿さんの分身とも言うべき井上真樹夫さんの演技が際立っており、格付けの“+”はその分だといっても良いほどです。

小林聡美さんの演技がはまっている

小林さんは、実は同じ1980年代後半に別の時間帯で放送されていた「カフェテラスのふたり」の作品に頻繁に出演されており、当ブログでもすでに「星へ行く船」と「ザ・素ちゃんズ・ワールド-”ひでおと素子の愛の交換日記”から」を紹介済みです。
エッセイ風の作品の多かった「カフェテラスのふたり」への出演が多かっただけあってか?、良くも悪くも俗っぽい美雪の演技にぴったりです。
また、井上さんは、同時期に「A-10奪還チーム出動せよ」などにも出演されているのですが、どちらかというと「カラフル」や「完璧な涙」、「サハラの涙」などナレーションの方が印象的です。

【保科義久演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
名作、迷作、様々取りそろっています。
こちらを是非、ご覧ください。


Hirokazu

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