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三銃士 原作:アレクサンドル・デュマ(青春アドベンチャー

  • 作品 : 三銃士
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A
  • 分類 : 歴史時代(海外)
  • 初出 : 1995年1月4日~1月27日
  • 回数 : 全13回(各回15分)
  • 原作 : アレクサンドル・デュマ
  • 脚色 : 福田卓郎
  • 演出 : 伊藤豊英
  • 主演 : 佐藤淳

頑固で、短期で、無鉄砲。
ガスコン(ガスコーニュ出身者)はいつだって一直線だ。
時は13世紀、ガスコーニュ出身の青年ダルタニャンもまた、紹介状1枚だけを握りしめ、同郷の出世頭・銃士隊のトレヴィルを訪ねてパリに上京してきた。
目指すは国王陛下の銃士隊に入っての立身出世!
でもなぜか到着早々、よりにもよってその銃士隊の名物三銃士アトス、ポルトス、アラミスと決闘することになってしまった。
でもダルタニャンはへこたれない。
ガスコンは一直線なのだ。



このブログはNHK-FMのラジオドラマ番組「青春アドベンチャー」で放送されたラジオドラマを紹介するブログであり、各作品の記事は原作の紹介から始めるのが通常なのですが…
さすがに「三銃士」のストーリーの紹介は必要ないですよね。
史上屈指の大衆小説作家として知られる“文豪”アレクサンドル・デュマの「モンテ・クリスト伯」に並ぶ代表作にして、多くの派生作品を生んだ大傑作。
今さら何も書くことがない…のではありますが、ドラゴンクエスト9でパーティメンバーにダルタニャンの名前を付けた(ただし文字数制限で少し短くした気がする)私としては、余計なお節介と思いつつ、一応いくつかトリビア的なことを書きます。

ダルタニャンは三銃士ではない

まず「三銃士」といいつつ、主人公は三銃士アトス・ポルトス・アラミスではなくダルタニャン。
「ではなんでこんなタイトル?」と思うのが当然だと思うのですが、実は「三銃士」は「ダルタニャン物語」という長編の「第1部」に過ぎず、第2部「二十年後」と3部「ブラジュロンヌ子爵」まで含めてひとつの作品なのです。
つまり「三銃士」は作品タイトルではなく章のタイトルにすぎない。
しかも「二十年後」というタイトルからもわかるとおり、作品全体を見ると、あの颯爽としていたダルタニャンや三銃士が、権力者にこき使われ、世俗の埃にまみれ衰えていく様まで描かれているという、「三銃士」しか知らない人にとっては衝撃の展開。

ダルタニャンにはモデルがいる

また、ダルタニャンには実在のモデルがいて、もちろん「三銃士」のような事件はなかったとしても実際に結構、出世しているのもなかなか驚きの事実です。
この辺の詳細は佐藤賢一さんの「ダルタニャンの生涯-史実の『三銃士』」に譲ります。
そして、これらを踏まえて第1部と第2部の間の時期のダルタニャンを描いた「ふたりのガスコン」も併せてお勧めです。

銃士といっても普段は剣士

さらに「銃士」といいつつ「あの人たち「剣」で決闘ばかりしてるよね?」というのも素直な疑問だと思います。
この場合の「銃士」とはルイ13世時代に、前時代の「軽騎兵」に対抗して設置された新たな兵科であるマスケット銃を装備する部隊(mousquetaires)です。
銃士は新設の兵科で、銃士隊には年少者や下級貴族の次男坊・三男坊が多かったため、新時代の出世手段として人気が高く、自然、隊員たちも鼻息が荒く血気盛んだったようです。
ただ、当時のマスケット銃は、先込め式かつ火縄式だった(フリントロック式が導入されるのは17世紀後半)ため、日常的に携行などできる代物ではなく、日常茶飯事のように起きる諍いは当然、剣で対応することになります。
ちなみに主人公のダルタニャンが三銃士のひとりではないことは先に書きましたが、実は本作品中のかなりの時間では「銃士」ですらありません。
このラジオドラマ版で彼が銃士になるのは、全13話中、終盤の10話になってからです。

アレクサンドル・デュマはふたりいる

最後のトリビアとしては、これも知っている人は当然ご存知だと思うのですが、「三銃士」を書いたアレクサンドル・デュマと「椿姫」を書いたアレクサンドル・デュマは別人。
「三銃士」のデュマ・ペールが父親で、「椿姫」のデュマ・フィスが息子です。
これに加えてデュマ・ペールの父親、デュマ将軍(フランス革命軍で活躍)を含めた三代の「デュマ」を描いた小説がこれも佐藤賢一さんの「黒い悪魔」、「褐色の文豪」、「象牙色の賢者」。
ディテールはともかくこの三代は実在の人物ですので、事実は小説よりも…です。

おっとストーリーは?

などと作品内容とは関係ないことばかり書いてしまいましたが、ストーリーはまあ、あれですよ、典型的な「三銃士」!
原作のボリュームが多すぎるので適度に内容は簡略化されていますが、ダルタニャンの上京と三銃士との出会いから、ダイヤの首飾り事件を経て、ミレディーやロシュフォールとの対決、そしてバッキンガム公の死まで。
主人公のダルタニャンは才気煥発といえば聞こえはいいですが、もめ事には悉く首を突っ込み、もめ事がなくても自分で作ってしまう(言動が始終挑発的)タイプですし、他人に対して「何と恐ろしい嫉妬心だ!」と言っておきながら自分自身も復讐のために大立ち回りするなど、かなり行き当たりばったり。
惚れたボナシュー夫人を助けるために動いているはずなのに敵方のミレディーに恋をしてしまったり、かなり無軌道です。
これに併せて他の登場人物たちもかなり感情のままに行動するキャラクターになっており、例えば、かの大宰相リシュリュー枢機卿でさえ戦争を起こした理由が個人的な嫉妬心ということにされています。
もうほとんどメロドラマ的といっていい展開であり、まさに大衆小説!
でもまあ、それがこの作品の良いところでもあり、少なくともこの「第1部 三銃士」はあまり深く考えずに楽しめば良いのだと思います。

キャスト一覧

ちなみに、本作品の主なキャストは以下のとおり(敬称略)。
佐藤淳さんという俳優さんは、1973年生まれの方と1961生まれの方がいらっしゃるのですが、本作に出演されていたのがどちらかはわかりません。
ご存じの方がいらっしゃいましたらご教示ください。

  • ダルタニャン : 佐藤淳(さとう・じゅん)
  • アトス : 早坂直家
  • アラミス : 小川隆市
  • ポルトス : 石田圭祐
  • ミレディー : 筒井真理子
  • ロシュフォール : 諸角憲一
  • ボナシュー夫人 : 飯塚由紀子
  • バッキンガム公 : 村田則男
  • アンヌ王妃 : 磯西真㐂
  • 枢機卿(リシュリュー) : 内山森彦
  • 語り手 : 田原正治

全13回?

最後に本作品の不規則な放送スケジュールについても言及しておきます。
本作品は全13回という青春アドベンチャーでは極めてイレギュラーな放送回数で制作されています。
しかも、本作品の放送中の1995年1月17日に阪神・淡路大震災が起きて、放送スケジュールが途中で変更される不運に見舞われました。

イレギュラーな放送

ただ、これは阪神・淡路大震災により放送回数が減らされたということではありません。
もともと第1週の放送スケジュールが1月4日(水)~1月6日(金)の3日のみというイレギュラーな形態で、2週目・3週目は通常通り5回ずつ放送されて13回になる予定でした。
それが第9回まで放送されたところで震災があり中断。
その後、23日(月)に再度第9回を放送して再開し、その週の金曜日(27日)にピッタリ13回で終わったようです。
混乱の中で放送され、そしてその後再放送されていないこともあり、現在では本作品を完全な形で聞くことは困難です。
ちなみに東日本大震災の発生時に放送していた「マナカナの大阪WOEKER」は落ち着いてから改めて放送されています(3月→8月)。

聞き逃し配信のスタートにより随分と便利になりましたが、是非、昔の作品の配信もお願いしたいものです。

【伊藤豊英演出の他の作品】
多くの冒険ものの演出を手掛けられた伊藤豊英さんの演出作品の記事一覧は別の記事にまとめました。
詳しくはこちらをご参照ください。



Hirokazu

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