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遠い星からきたノーム~トラッカーズ 原作:テリー・プラチェット(特集サラウンド・アドベンチャー)

  • 作品 : 遠い星からきたノーム~トラッカーズ
  • 番組 : 特集サラウンド・アドベンチャー
  • 格付 : AA-
  • 分類 : SF(海外)
  • 初出 : 1993年1月1日
  • 回数 : 全1回(120分)
  • 原作 : テリー・プラチェット
  • 脚色 : 成田勝也
  • 音楽 : 天上昇
  • 演出 : 千葉守
  • 主演 : 小松正一

宇宙船の故障により、地球に不時着してから1万5千年。
非力なノームたちにとって、この星の自然はあまりに過酷だった。
文明が退行し過去の記憶と技術をなくしたノームたちは、強大な原住生物に圧迫され、遂に生き残りは10人、力のある若手の男性に至ってはわずか1名を残すまでに数を減らしてしまった。
このままでは全滅は必至と考えた彼らは、少しでも住みやすい新天地を目指し集団移住することを決意する。
そして自力での長距離移動の能力を持たない彼らは、ある移動手段を取ることを決めたのだった。



本作品「遠い星からきたノーム~トラッカーズ」はイギリスのベストセラー作家、テリー・プラチェットによる小説を原作とするラジオドラマで、1993年1月1日の深夜に単発の「サラウンド・アドベンチャー」として放送されました。
なお、本作品は前半と後半に分かれており、前半は1月1日の11時35分から1時間、後半は1月2日の午前1時35分から1時間の放送でしたので、厳密に言うと2日間に亘って放送されたことになります。

SF+こびと

ちなみに、テリー・プラチェットはSF&ファンタジーの書き手であり、本作品もバックボーンにSF的要素を持ちつつも、ほぼ全体が人間社会の片隅で人の目を避けながら暮らしている「不思議な小人」を描いているファンタジー作品です。
「木かげの家の小人たち」の記事でも書きましたら、私、好きなんですよね、人間社会に片隅に小人たちが隠れて暮らしているという話。
しかも本作品にはSF的な味付けもあり、なかなか楽しく聞くことが出来ました。

ノームとは

さて、今回の作品紹介は作品名をキーにして進めていきたいと思います。
本作品のタイトルでまず印象的なのは「ノーム」(Gnome)。
西洋の物語に出てくる小人(こびと=比較的小型の亜人)としては、ドワーフやゴブリン、コボルト、オーク等が有名ですが、ノームという言葉もファンタジーの世界ではそれなりに知られている言葉だと思います。

本作品のノーム

しかし、その起源は意外と新しく15~16世紀に活躍したスイスの錬金術師パラケルススが、ギリシア語の「Genomos」(地に棲む者)をもとに提唱した概念なのだそうです。
ただ本作品のノームはそれとは一切関係ない存在で、一言で言えば「異星人」。
身長は10cm程度で、寿命が短い(10歳が人間の70歳に相当)という特徴を持つ異星人が難船して地球にたどり着いた姿、という設定です。
難船してから1万5千年ということは、人間の時間感覚からすれば10万年(=1万5千年×70歳÷10歳)以上経過しているわけですので、恒星間航行が可能な技術がはすっかり忘れ去られ、独自の退行した文明(宗教や生活様式)を持っているのも納得です。
この人間とは全く異なる独自の文化という要素に、個人的には「ウォーターシップダウンのうさぎたち」等を彷彿とさせられたのですが(あちらはウサギ文明でしたが)、人間社会のパロディ(「出ストア記」とか)、風刺的な要素がありなかなか楽しい趣向になっています。

トラッカーズとは

また、もうひとつ、本作品のタイトルで興味を引かれるのは「トラッカーズ」という言葉。
トラッカーズは原題では「TRUCKERS」。
truckは名詞としてはそのまま日本語にも取り入れられている「トラック」(貨物自動車)を表すのですが、動詞としては「交換する」「取引する」などの意味があるそうです。
本作品では故郷を脱出したノームたちがたどり着いた新天地が人間の社会におけるデパート(「アーノルド・ブロス(1905年創業)」)なので、そこでは主人公たちとは違うグループのノームが全く異なる文明を形成しています。

本作品のトラッカーズ

そのため、「TRUCKERS」はそのノームたちの国で起こる「交換」や「取引」等に絡むなにか暗示したタイトルなのかな…と一瞬思ったのですが、いやいやそんなことは全くなく、もっと直接的に「トラックに乗る連中」を表したタイトルのようです。
SF的で、かつ、ファンタジー作品でもある本作品で、人間の土木文明の象徴ともいえるトラックがどう活躍するか、その辺は聴いてのお楽しみです。

出演者紹介

さて、本作品の出演者に話を移しますと、まず主人公のノーム・マスクリンを演じるのは小松正一さん。
夢の遊民社などに所属されていた舞台俳優さんで、青春アドベンチャーでは吉田鋼太郎さんと共演した「平成トム・ソーヤー」で主演されていましたが、現在は役者を廃業され、世田谷区でラーメン店を経営されているそうです(wikipedia情報)。
その他、ヒロインのグリマーを演じる藤谷果菜子さんや、「アーノルドブロス1902年創業」で出会って仲間になるドルカスを演じる塩沢兼人さんあたりが主要なキャストですが、本作品で忘れてならないのは、宇宙船スワン号のコンピューター「シング」を演じる来宮良子さんと、全体のナレーションを担当する羽佐間道夫さんの両ベテラン。
特に羽佐間さんは単なるナレーションではなく「ノームの書を読んでいる“あさくらてつぞう”なる人物」という、ラジオドラマオリジナルの登場人物として位置づけられています。

そしてDiggersへ…

この成田勝也さんによる脚色により物語がどのように締められることになるか。
それは本作品の続編を聞かないとわかりません。
そう本作品には続編があるのです。
すなわちが本作品の4カ月後に放送された「ディガーズ」と、1年後に放送された「ウイングス」。
詳しい紹介は別記事に譲りたいと思います。

Hirokazu

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