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ぼくら落ちこぼれ探偵団 原作:宗田理(アドベンチャーロード)

  • 作品 : ぼくら落ちこぼれ探偵団
  • 番組 : アドベンチャーロード
  • 格付 : B-
  • 分類 : 推理
  • 初出 : 1989年1月30日~2月10日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 宗田理
  • 脚色 : 清水有生
  • 演出 : 松本順
  • 主演 : (はしもとけいじ)

愛知県豊橋市にある私立彰栄学園。
美也子はこの落ちこぼれ高校のマドンナだった。
しかし、ある日、美也子の死体が三河湾に浮かんだ。
警察は、知らない男の車に乗る美也子が目撃されたといい、その男との関係をほのめかすけど美也子はそんなに軽い女の子ではない!
そう思った美也子の友人4人組(朝倉、森下、石黒、そして亜紀子)は担任のモンキーとともに捜査に乗り出すのだが。



本作品「ぼくら落ちこぼれ探偵団」は宗田理さん原作の、NHK-FMアドベンチャーロードで放送されたラジオドラマです。
宗田理さんの小説はアドベンチャーロード・青春アドベンチャーで3作品がラジオドラマ化されています。

ぼくらシリーズ?

宗田理さんといえば、1985年に同じアドベンチャーロードでラジオドラマ化され、後に映画化もされた「ぼくらの七日間戦争」。
その人気から同じ登場人物による「ぼくらシリーズ」が続々と刊行され40巻以上も続く大人気シリーズになったのですが、そのひとつがこの「ぼくら落ちこぼれ探偵団」ではないかと思ったのですが…
ない!小説の「ぼくらシリーズ」に「ぼくら落ちこぼれ探偵団」なんて作品はない!
探してみると、同じ宗田さんによる「大熱血!!落ちこぼれ探偵団」という作品を見つけました。
本ラジオドラマはこちらを原作としています。
実は「ぼくらの七日間戦争」は本ラジオドラマの半年前、1988年8月に映画化され、ヒロインを演じた宮沢りえさんのあまりのキュートさにより(?)大ヒットしました。
本ラジオ版のタイトルはこの大ヒットにあやかったものだと思います。
NHKって意外と商売っ気があるものです。

メタ展開でコメディ風

さて、本作品は、高校生4人組が、教師ふたり(文基=モンキー、純佳先生)と共に同級生の死の真相を探る話です。
と書くとシリアスな展開を予想されると思いますし、実際、原作小説はそれなりにシリアスな進行です。
しかし、本ラジオドラマは名古屋出身の落語家の三遊亭圓丈さんをナレーションに据え、その軽妙な語り口を生かしてかなりライトな作りとなっています。
冒頭からナレーションと登場人物が話を始めるメタ展開でスタートし、途中随所で、登場人物の行動に圓丈さんがツッコミを入れ、登場人物もそれに反応する場面もあります。
本作品の脚色は後に連続テレビ小説「あぐり」や「すずらん」の脚本を書くことになる清水有生(しみず・ゆうき)さんなのですが、さすがの縦横無尽ぶりです。
また、第1回で脚色の清水さんご自身が出演されたり、最終回でスタッフが自分の声で自己紹介したり(松本順さんの声が聴ける!)、本作品の次に放送された「妖精作戦」(一部キャラクターの設定の大幅改変)とは違った意味で大胆な演出でした。

ミステリーとしては粗が目立つ

なお、全体のストーリーとしては冒頭の粗筋のとおり。
仲間思いの高校生たちと、ちょっと抜けているけど生徒思いの先生たちが生徒の死の真相を探っていくのですが、ちょっと意外だったのがこの探偵団のボスになるのはこの6人のいずれでもなく、文基先生の父親であるということ。
このボスが様々な計画を巡らして真相を探っていくのですが、それが効果的なのか効果的じゃないのか…
結局、犯人の動機もいまひとつよくわからず推理ものとしては消化不良の感がなきにしもあらず(ついでにいうと犯人の声がエリート青年に聞えないのも痛い)。
そもそも本作品は推理の妙を楽しむ作品ではなく、世間で落ちこぼれと言われている人間の心のやさしさ痛みを分かち合う素晴らしさを描いた作品だと思います。

落ちこぼれの時代

これは本作品の発表年代も関係していると思います。
1989年というとちょうどバブルに差し掛かる時期。
作者の宗田さんは原作本のあとがきで「競争人間であるエリートたちによって人間としての幸せは、いったいどこへ行ってしまったのだろうか?人と競わず、自分の分に応じた生き方。これが落ちこぼれの論理である。そこには、人間の弱さや痛さをわかち合える心のやさしさがある。」「落ちこぼれ諸君、間もなく君たちの時代がやってくる」と書いています。
バブルの頃って、その狂乱をあおる言説と同時にこのように競争を忌避する言説もまた喧しく、いわゆる「ゆとり教育」がスタートしたのも1980年代でした。
心の優しさ、痛みを分かち合う尊さを否定する気は毛頭ないのですが、それから30年、むしろ頑張らないことを当たり前とし過ぎた日本が国際社会の落ちこぼれになりつつある現状を鑑みると、皮肉にも確かに宗田さんの予言があたったといえるのかもしれませんね。




Hirokazu

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