【2022年NHK-FMオーディオドラマ・リスナー人気アンケート①:青春アドベンチャー・作品編】
8年目を迎えたNHK-FMオーディオドラマの人気アンケート。
今年も多くの方にご協力いただきました。
ありがとうございます。この場を借りてお礼申し上げます。
さて、まずは青春アドベンチャーに対するアンケートのうち作品に対する投票結果及びご感想です。
以下の諸点にご注意ください。
それでは早速、結果を発表します。
(注意)コメントには一部ネタバレ要素があります!
◆六人の嘘つきな大学生
原作を読んで感じるのは、この作品に15分×10回という青春アドベンチャーの枠は狭すぎたということ。
特に後半のインタビューを大幅カットしているのが痛く、6人の細かい心の内は表現できていなかった。
しかし、何とかつじつまを合わせた脚本、少しオーバー気味の演技や演出を含めて、青春アドベンチャーの形態でできることはやり切っているとも感じた。
また全15回にしてダレるよりこのくらいキツキツの構成の方が満足感は高いという考え方もあろう。
原作のファンにもお勧めできる作品という意味で、納得の1位。
◆あたふたオペラ「からめん」
最も有名なオペラ演目「カルメン」を、替え歌にして、本職の声楽家が歌い上げるという奇天烈な作品。
ストレートプレイとオペラが混ざっている点でミュージカル的でもある。
ミュージカルはよく「登場人物が突然歌い出して不自然」といわれるが、これほど真面目に本職に美声を披露されると、もはや笑うしかない。
プロが本気でくだらないことをすることの凄さを感じる。
◆軽業師タチアナと大帝の娘
2022年に小説「斜陽の国のルスダン」が宝塚歌劇団で舞台化された並木陽さんによる、青春アドベンチャー向け5作品目のオリジナル歴史ドラマで、主演の朝夏まなとさんとセットでの投票が多かった。
2人の女性を主人公とするのは「紺碧のアルカディア」と同じだが、全15回と長いことと、2人が別々に動くことがややストーリーを薄味にしたように感じる。
しかし、マイナーな国、マイナーな時代を楽しめるのは並木さんの作品ならでは。
◆夢胡蝶~羽州ぼろ鳶組
武家火消をテーマにした娯楽時代劇の第5弾。
今回は、新庄藩火消組の面々を主役に据えた列伝的な作品のひとつで、ぼろ鳶組の纏師、彦弥の物語。
前作「菩薩花」が2021年アンケートで第1位であった割に序盤は伸び悩んだが、中盤以降着実に投票があり3位に滑り込んだ。
◆白銀騎士団 シルバー・ナイツ
同じ田中芳樹さん原作であるヴィクトリア朝怪奇冒険譚の少し後の時代の英国が舞台。
主人公が怪奇ハンターであるのに、作中で展開された事件はかなり現実的な内容だったのが意外だった。
「軽業師タチアナ~」以上に主演者とのセット投票が多く、かつその多くが他の作品に投票しないパターンだった。
主演の相葉裕樹さんには相当熱心なファンが付いているものと思われる。
◆滅びの前のシャングリラ
「ひとめあなたに…」や「終末のフール」と類似した終末SFでテーマに新規性はないが、出演者の熱演と丁寧な作劇で聴かせる作品になっている。
それにしてもこの種の作品ってどうしていつも反社な存在が活躍するのだろうか。
なお、放送前にテザームービーを公開するという青春アドベンチャーではかつてない試みは大いに評価したい。
◆黒い瞳のボヘミアン
舞台は19世紀末のパリ、主人公は踊り子のフランス人女性と画家の日本人男性。
ムーラン・ルージュをモデルにした架空のキャバレーが舞台だが、どこかに本当に存在したのではないかと思わせる実在感がある。
主演の華優希さんは他の西洋歴史ものと同様に元宝塚歌劇団花組トップ娘役。
◆ウブヒメ
江戸時代を舞台にした伝奇もので、主演はアイドルから女優に脱皮中の田村芽実さん。
オールドファンとしては番組30周年を意識した渡辺いっけいさんの起用も嬉しい。
ちょっと拗らせた役をやらせると相変わらずうまい渡辺さんだが、今年はラジオドラマに対する愛のあるメッセージを寄せて頂き本当に感謝。
◆逢沢りく(再)
本年の再放送作品最上位がこの「逢沢りく」で、2016年・年間アンケートで最多投票を獲得した作品でもある。
実は2020年に特別番組「一日で聴く青春アドベンチャー」で一度再放送されているが、レギュラーのプログラムにおける再放送は初めて。
どうにも共感できない主人公の印象を最後にひっくり返す恒松祐里さんの演技は今でも語り草。
◆青髭公の五番目の花嫁
ヨーロッパの辺境モルドバを舞台にした幻想色の強い歴史もの。
「1848」で革命に身を投じるユリシュカを演じた真彩希帆さんと「ハプスブルクの宝剣」で欧州に戦乱を巻き起こすフリードリヒ2世を演じた加藤和樹さんが主演だが、本作はリリアナとガデルのふたりのごく狭い世界が舞台。
個人的にはこちらの真彩さんも魅力的だと思う。
◆鷗外 青春診療録控 千住に吹く風
番組初期の功労者である川口泰典さんが久しぶりに演出した作品で、これも番組30周年を意識した企画と思われる。
海外留学前の鬱々とした日々を過ごしていた時期の森鴎外が主人公の地味な作品なので票が集まったのは少し意外。
近年、軍官僚としての評判が悪い森鷗外だが、彼の有名な遺言を読むと彼もまた悩める一青年だったのだろうと感じる。
◆柳生非情剣
「きえー」「うむむ!」などの奇声が飛び交い男色が繰り広げられる濃い世界観に圧倒され、気が付いたら妙に爽やかな結末に無理矢理納得させられてしまっていたが、リスナーのコメントを見てやっと気が付いた。
これはハイテンションコメディだったのか!
◆さよなら、田中さん(再)
小学生女子の日常という舞台設定が食指を誘わないのは理解できるが、2018年の初回放送時のアンケートでは2名からしか投票がなかった。
しかし、今回、再放送なのに5人から投票があり、この作品の良さがちゃんと伝わっているようで安心した。
続編小説も良い作品なので是非、続きが聞きたい。
◆エヴリシング・フロウズ(再)
中学生男子の日常という舞台設定が食指を………あれ?どこかで書いたような(笑)
とにかくこの作品も日常系でも十分エンターテイメントになることを示した良作。
再放送でも評価されていてうれしい。
◆かがみ池のからくり
2021年は青春アドベンチャーではかつてないオリジナル脚本作品が多い年だったが、2022年は(西洋歴史もの以外は)原作付き作品主体に戻った。
そうした中、本作品は数少ない現在日本を舞台としたオリジナル脚本作品。
後半の急展開は完全に予想外だった。
◆四捨五入殺人事件
11年前に他界された名脚本家・小説家、井上ひさしさん原作の作品がなぜか令和の世の中に登場。
原作は農業問題を絡めた社会派の作品らしいのだが現代風にアレンジした意義はよくわからなかった。
むしろ「十二人の手紙」のように文筆家としての技巧を前面に出した作品を聴きたい気がする。
◆かおる、ストーリーボックス
オムニバス作品の「ストーリボックスシリーズ」の第3弾だが、この作品から公式にシリーズとして扱われるようになった(その後、第4弾「ふれるストーリーボックス」も公開)。
過去の不思議屋シリーズやライフシリーズと異なり全5話の形態だが、このくらいのボリュームが聞きやすい気がする。
◆優しい死神の飼い方
死神が登場する作品には「死神の精度」という前例があり、悪魔が犬の姿で登場する作品として「赤川次郎の天使と悪魔」がある。
完全に見たことがないような設定は難しいもので、設定の新規性に拘るのはあまり意味がないだろう。
本作はミステリー要素、医療要素などが絡まって医者兼ミステリー作家である知念美希人さんらしい作品になっている。
◆白狐魔記 蒙古の波(再)
2022年は青春アドベンチャー屈指の長期シリーズ「白狐魔記」が2作品、再放送された。
このシリーズはオーディオドラマ化カンスト後に、原作小説に続編が発表されているのだが、追加でのオーディオドラマ化はあるのだろうか。
◆まるみちゃんとうさぎくん
小学生女子を主人公としたファンタジー。
オブラートに包んでいるとはいえ、不登校やいじめを連想させる要素を含む作品なのだが、収録時に(恐らく)11歳であった主演・池田葵さんの素直で明るい演技が作品の雰囲気を何とも暖かにしていると感じる。
◆あなたに似た自画像(再)
全10話からなるオムニバス作品の再放送。
不思議屋やストーリーボックスなどのシリーズものと比べて共通テーマが曖昧なのは良いのか悪いのか…
なお似た名称の「あなたがいる場所」ほどきつい作品が多くないので聞きやすくはある。
◆<あの絵>のまえで(再)
こちらは同じオムニバスでも、原作者が全話同じで、モチーフに絵画という強い共通性がある作品。
キュレーター出身である原田マハさんらしい絵画をテーマにした作品だが、絵のないオーディオドラマにするには難しさもあったと思う。
◆カナコと加奈子のやり直し
女優・フィギュアスケート選手の本田望結さんが2役を演じる作品でタイムトラベル(タイムリープ)もの。
なおタイトルは文庫化後の原作小説と同じだが、単行本時の「イシイカナコが笑うなら」も良いタイトルだと思った。
◆白狐魔記 源平の風(再)
白狐魔記シリーズで唯一の全5回で構成された作品(他の作品は全10回)。
しかも第1作で、白狐魔丸が人間に化けられるようになるまでの経緯も描かなくてはいけないため、ストーリーが駆け足になってしまったのはやむを得ない所だろう。
ただ基本フォーマットはこの後の作品もほぼ同じでこの時点で完成されていた。
◆夜のストーリーボックス(再)
当初は単発のオムニバス作品と思われたが後に「ストーリーボックスシリーズ」としてシリーズ化され、第1作的位置づけとなった。
初回放送時は最終回が「今日は一日“ありがとうFM50”三昧 ~オーディオドラマ編~」の一部として、同番組の出演者(松田洋治さん、長谷川真弓さん)も出演される形で放送されたが、この再放送は普通に連続5回で放送された。
◆メゾン・ド・関ケ原(再)
“トルコ行進曲”大谷吉継vs”ラッパー”小早川秀秋という異色の作品だが、主題は若い女性の成長物語…なんだろうか?
正直、名古屋局のやることはよくわからない。
◆七帝柔道記(再)
七帝柔道に掛けた暑苦しい青春物語だが、物語の半ばで終わっているのが惜しい。
なお、「北海タイムス物語」の前日譚的な位置づけもある。
◆なにわ純情ナイトメア(再)
子役時代に「風神秘抄」などに出演し、後に声優としても有名になった小野賢章さん(最近だと「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」など)の主演作品。
小野さんは2021年度(授賞式は2022年3月5日)第16回声優アワードで主演男優賞を受賞している
また、男女別のベスト10は以下のとおりです(太字は男女どちらかでのみベスト10の作品)。
下位に若干の際はありますが、傾向は概ね同じで上位で大きな男女差がある作品は「白銀騎士団 シルバー・ナイツ」くらいでしょうか。
なお、今回は性別「それ以外」を選んだ方が4名いらっしゃったため、「それ以外」の集計もしましたが、票が完全に分散しており一定の傾向は見出せませんでした。
■女性票
順位 | 票数 | 作品名 |
---|---|---|
1 | 12 | 白銀騎士団 シルバー・ナイツ |
2 | 11 | 軽業師タチアナと大帝の娘 |
3 | 10 | あたふたオペラ「からめん」 |
4 | 8 | 黒い瞳のボヘミアン |
5 | 7 | 六人の嘘つきな大学生 |
夢胡蝶~羽州ぼろ鳶組 | ||
7 | 6 | 滅びの前のシャングリラ |
8 | 4 | 逢沢りく(再) |
青髭公の五番目の花嫁 | ||
10 | 3 | ウブヒメ |
鷗外 青春診療録控 千住に吹く風 | ||
四捨五入殺人事件 |
■男性票
順位 | 票数 | 作品名 |
---|---|---|
1 | 16 | 六人の嘘つきな大学生 |
2 | 10 | 夢胡蝶~羽州ぼろ鳶組 |
3 | 9 | あたふたオペラ「からめん」 |
4 | 7 | 軽業師タチアナと大帝の娘 |
5 | 5 | 滅びの前のシャングリラ |
6 | 4 | 柳生非情剣 |
ウブヒメ | ||
逢沢りく(再) | ||
9 | 3 | かがみ池のからくり |
かおる、ストーリーボックス(再) | ||
青髭公の五番目の花嫁 | ||
優しい死神の飼い方 | ||
さよなら、田中さん(再) | ||
白狐魔記 蒙古の波(再) | ||
白銀騎士団 シルバー・ナイツ |
■その他票
順位 | 票数 | 作品名 |
---|---|---|
1 | 1 | 六人の嘘つきな大学生 |
鷗外 青春診療録控 千住に吹く風 | ||
ウブヒメ | ||
カナコと加奈子のやり直し | ||
滅びの前のシャングリラ | ||
夢胡蝶~羽州ぼろ鳶組 | ||
エヴリシング・フロウズ(再) | ||
まるみちゃんとうさぎくん |
作品編の結果は以上のとおりです。
上位4作品(六人の嘘つきな大学生、あたふたオペラ「からめん」、軽業師タチアナと大帝の娘、夢胡蝶~羽州ぼろ鳶組)は僅差ですし、これに「白銀騎士団 シルバー・ナイツ」を加えた5作品はアンケート中盤まで激しく順位を争っていました。
それぞれ特徴の違う作品であり、今年の放送作品は多彩であったと感じます。
【2022年のアンケート結果一覧】
■アンケート企画の結果
各年ごとアンケートの結果一覧はこちらから、全作品アンケートの結果一覧はこちらからご覧ください。
■2022年の放送作品
2022年に青春アドベンチャーで放送された作品の一覧はこちらです。