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ダーク・ウィザード~蘇りし闇の魔道士~ 原作:寺田憲史(ダミーヘッド・ドラマスペシャル)

  • 作品 : ダーク・ウィザード~蘇りし闇の魔道士~
  • 番組 : ダミーヘッド・ドラマスペシャル
  • 格付 : C+
  • 分類 : 異世界
  • 初出 : 1996年4月29日~5月3日
  • 回数 : 全5回(各回30分)
  • 原作 : 寺田憲史
  • 脚色 : 寺田憲史
  • 演出 : 川口泰典
  • 主演 : 武岡淳一

暗黒神アーリマンが封印されてから300年が過ぎた。
しかし、300年間の安寧は、封印を守っていた魔道士ヴェロネーゼの裏切りという形で遂に幕を閉じた。
ヴェロネーゼ自ら率いる魔軍はペシャワール全土で猛威を振るい、その混乱の中、聖王ウェンリーク8世までが暗殺されてしまう。
若き新王ウェンリーク9世は、父王を殺したダークエルフを追い、奪い去られた“光の杖”を奪い返すために単身、冒険の旅に出るのだが…



本作品「ダーク・ウィザード~蘇りし闇の魔道士~」は、1993年6月に電撃文庫から発刊された同名のライトノベルを原作とするラジオドラマです。

実はTVゲームがスタート

ただし、本作品にはもうひとつのルーツがあります。
それは、1993年11月に発売されたメガドライブ用のゲームソフト「ダークウィザード~蘇りし闇の魔導師MCD」。
もともとゲーム版のシナリオを担当されていた寺田憲史さんが、ゲームのシナリオを元に大幅に改編の上、小説化したのが文庫版であり、本ラジオドラマは、その文庫版のストーリーに準じているようです。

脚色も寺田憲史さん?

なお、本ラジオドラマの放送において寺田さんは「作」として紹介されています。
青春アドベンチャーにおいて「作」とするのは通常、オリジナル脚本のラジオドラマの場合です。
本作品では「脚色」でコールされる方がいらっしゃらないので、確信はありませんが寺田さんの原作作品を寺田さんが自ら脚色されたものと考えています。
なお、1992年に放送された、もうひとつの寺田憲史さんの「作」作品の「都会島のミラージュ」の方は原作が見当たらないのでオリジナル作品のようです。

1回30分の特別番組

本作品のもうひとつの特徴としては、青春アドベンチャーは通常、1回15分×10回の放送枠ですが、本作品は「ダミーヘッド・ドラマスペシャル」と銘打って1回30分×5回という特殊な形態で放送されましたことが挙げられます。
同種の放送形態をとった作品としては、本作品の前年である1995年に放送された「アルジャーノンに花束を」があります。
これらの作品は厳密には「青春アドベンチャー」ではないのかも知れませんが、本作品がCDドラマとして発売された際には、「青春アドベンチャー」と明言されており、その一部と考えて良さそうです。

CDドラマ上のサブタイトル

ついでに、このCDドラマにも言及しますと、同CDは1997年にNHKサービスセンター/徳間ジャパンコミュニケーションズから2枚組で発売されたドラマCDで、放送当時の5回構成そのままに以下のサブタイトルを付けて収録されているようです。

  1. 宿命
  2. 竜騎士ヴィアン
  3. 愛しのジョゼ(前半はCD1に、後半はCD2に収録)
  4. 飛竜の里
  5. ジアンヌの涙

数少ないクリアなダミーヘッド

こちらに書いたように、青春アドベンチャーでCD化された作品はごくわずかです。
本作品は伊藤智則さんによるオリジナル音楽だったからCD化しやすかったという面があるのだと思います。
1990年代にダミーヘッドを積極的に推し進めたのは川口泰典さんだったのですが、川口さん演出のダミーヘッド作品でCDになっているのは、本作品と「続・カムイ外伝」くらいだと思います。
これらのダミーヘッド作品が量産されたのが今から20年も前で、現在残っているテープ録音をベースとする音源の多くが劣化してしまっています。
そのため、本作品は入手困難とはいえ、きちんとしたダミーヘッドの青春アドベンチャーを聴くことができる数少ない作品になっています。

コテコテの異世界ファンタジー

さて、本作品の舞台となるのは「ペシャワール」という世界。
この「ペシャワール」の他にも、「アーリマン」、「アフラマツダ」といった現実のゾロアスター教の用語が出てきますので、一見、現実の歴史を下敷きにした伝奇ものかと思えますが、実際は完全な架空の世界を舞台にした作品。
「ダークエルフ」や「マムクート」といった異人種たちも登場しますし、ファンタジーRPGゲームやライトノベルによくある異世界ファンタジーです。
主人公も正義の騎士である聖王ウェンリーク9世。
父の敵と世界を救うために旅立つという展開もコテコテ。
全般的にみても、最後は暗黒神を倒すのかと思っていたら意外とスケールが大きくならずに終わってしまった意外は、概ね予想どおりのストーリーで、あまり意外性のある展開ではありませんでした。

もう少しひねりがあっても…

2015年9月23日に放送された「今日は一日ラジオドラマ三昧」の中で、演出の川口泰典さんが当時を振り返って「ダミーヘッドが効果的な原作を常に探していた」と発言されています。
本作品はゲームが源流ということもあり、外連味のあるストーリーも相まって、ダミーヘッド向きと考えられたのではないかと思いますが、いかんせんストーリーが薄っぺらすぎるように感じてしまいました。
主演の武岡淳一さん(ウェンリーク9世)のほか、海津義孝さん(ヴェロネーゼ役ほか)、吉田鋼太郎さん(ウェンリーク8世・オーサ役ほか)といった芸達者な男優さん、舵一星さん(ジーナ役)を始めとする宝塚女優さんの熱演はいつもどおりなのですが、どうもパッとしないという印象です…

マルチエンディング

せっかく、ゲームがルーツ、しかもマルチ主人公ゲームということなら、放送形態にも工夫があっても良かったのではないでしょうか。
例えば最近では、マルチエンディングのゲームを原作とするアニメ作品では、ゲームの「分岐」の要素を放送に織り込む工夫がなされているようです。
具体的には、まずAがヒロインとなったという“if”で1~4話を制作したあとに、また最初の時点に戻ってBがヒロインとなった“if”5~8話をつくるとか、最初の数回は“共通編”を作って、以降、“if”ごとに結末を何パターンか作るとか。

放送上の工夫の余地はないのか

ゲームのプレイを再現するような形でのオムニバス形式。
私見ですが、15分×10回という青春アドベンチャー形式は実はこういったオムニバス形式にあっているのではないかと思います。
過去の青春アドベンチャーの例では、序盤は小さなエピソードを重ねつつ最終的に一つの大きな物語に収斂していった「ウォーターマン」が、数少ない放送形態をうまく活用した作品だと思います。
しかし、「ウォーターマン」とは逆の、序盤を共通編にしたコンピューターゲームのような構成を採った作品はないと思います。
色々と工夫の余地はまだあると思います。

【川口泰典演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
こちらをご覧ください。
傑作がたくさんありますよ。



Hirokazu

オーディオドラマの世界へようこそ!

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