NHK名古屋局が制作した、一連のオムニバスラジオドラマ作品。
「10人作家シリーズ」、「名古屋脚本家競作シリーズ」とも呼ばれる、これらの作品群の中でも3番目に制作されたのが、この「嘘の誘惑」です。
このシリーズは、各作品ごとのテーマに沿った1回15分の短編ラジオドラマを様々な脚本家が書き下ろすものです。
ただし、同様の内容の別のシリーズ、すなわち「不思議屋シリーズ」や「ライフシリーズ」と異なり、テーマの縛りはあまり厳しくはないように感じます。
特にこの「嘘の誘惑」については、ドラマを作ればどんな作品であれ「嘘」の要素のひとつやふたつは入るでしょうから、その意味では縛りはないに等しい状況です。
各回の内容は、例によって名古屋局のラジオドラマらしく、大人っぽく、抒情的で、かつ曖昧。
よく言えば純文学的、悪く言えば「お子様はついてこれなくても構わないですよ」と言わんばかりの突き放しっぷり。
なかなかテレビドラマにはできないような作品であることは確かで、その意味ではラジオドラマの存在意義のひとつを示しているのかもしれません。
個人的には、難しすぎて付いていけないのですが、それでも同シリーズの他の作品に比べればまだ分かりやすい回が多いかもしれません…
さて、例によって各回ごとの概要を紹介すると以下のとおりです。
◆第1話 「海の卵」 (物部俊之)
ほとんど韻文というか“詩”。それにしてもこのシリーズのどこかで聴いた様な内容。
◆第2話 「自己調査報告書」 (富永智紀)
第1回に比べれば随分わかりやすいが、現実的に考えると何が何だか…
◆第3話 「赤い靴」 (一尾直樹)
これも何が何だかさっぱり…
◆第4話 「手紙」 (平賀こずえ)
わかりやすい話でホッとする。前半にヒント置いてくれたら“A”なのだが。
◆第5話 「オッパンサマ」 (大道珠貴)
閉鎖的な農村社会における女の生きざまを、微妙な淫靡さとともに描いた純文学作品。
◆第6話 「自白」 (長島槇子)
睡眠薬で眠っている時にみた夢ということか。同じ苗字であることが伏線になっている。
◆第7話 「冬のプール」 (二木美希子)
父と娘と愛人。同じ組み合わせだが「逢沢りく」とは随分違った乾いた手触りの作品。
◆第8話 「ロング・ロング・アゴー」 (伊佐治弥生)
これもさっぱりわからない。幼い少女に恋をするのはいかがかと思うが、野暮か。
◆第9話 「幻影」 (大田淳子)
双子の姉妹と二組の夫婦。やや複雑だが、この作品にあっては比較的わかりやすい回。
◆第10話 「ふえ」 (田島秀樹)
夏の午後、蝉しぐれ、バス停。抒情的な情景が浮かぶがストーリーは?
第5回「オッパンサマ」の大道珠生(だいどう・たまき)さんは、後に第128回芥川賞を受賞することになりますが、この時点ではまだ無名の、いち脚本家でした。
この作品も純文学っぽさ満載の作品です。
また、第6回「自白」の長島槇子さんも、本作品放送の後に作家デビューし、「旅芝居怪談双六」、「遊郭のはなし(さとのはなし)」などのホラー作品で活躍されているそうです。
出演者は、次作「悪戯の楽園」、次々作「マジック・タイム」も含めて3年連続の出演となる光石研さんと、前々作「新・夢十夜」、前作「記憶の城」に続き、これまた3年連続で出演された片岡礼子さん。
このおふたりを中心に何人かの役者さんを併せて制作されています。
なお、音楽は、第5回、第6回、第7回と第10回がBANANAさん、第8回と第9回が小野文栄さん。
一部だけがオリジナル音楽というのは「10人作家シリーズ」独特のやり方です。
【10人作家シリーズ(名古屋脚本家競作シリーズ)作品一覧】
その難解さとアンニョイさで青春アドベンチャーでも異彩を放つ、名古屋局制作のオムニバス作品シリーズの一覧は、こちらです。
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