Categories: 格付:A

夢の旅 原作:花井愛子(アドベンチャーロード)

  • 作品 : 夢の旅
  • 番組 : アドベンチャーロード
  • 格付 : A+
  • 分類 : タイムトラベル
  • 初出 : 1989年10月17日~10月20日
  • 回数 : 全4回(各回15分)
  • 原作 : 花井愛子
  • 脚色 : 高谷信之
  • 演出 : 江澤俊彦
  • 主演 : 青木愛

平成元年4月1日の朝、高校入学のお祝いをもらったおしゃれ大好き少女、殊理(じゅり)は、お祝いのお金で買い物をした帰りに、浮かれ気分のまま赤信号の交差点に飛び出してしまう。
目の前に迫る車。
自分の人生はここで終わるのかと思った瞬間、風景がコマ送りのVTRのようにスローモーションになり、同時にどこからともなく飛び出してきた少年に助けられた。
今時の子にはない凛々しさを持つ坊主頭の男の子。
犬を連れた彼に一目ぼれしてしまう殊理だが、話してみるとむしろ損した気分。
なぜなら彼は美形だけど頭は思いっきり可愛そうなやつみたいなのだ。
だって「あの~ここは日本ですか?」なんて聞いてきたのだから。



本作品は花井愛子さんの少女小説を原作とするラジオドラマで1989年10月にNHK-FMのアドベンチャーロード時代で放送されました。
花井愛子さんといえば、講談社X文庫ティーズハートを主戦場として多くの少女小説を発表された方。
当時の少女小説ブームを牽引したこの分野の第一人者だったと言っても過言ではないでしょう。

少女小説

少女小説とは、一般的には少女を主人公とする作品で、会話と主人公のモノローグを中心とした改行多めの読みやすい文体が特徴で、内容も少女の夢が詰め込まれたようなロマンスあり、ロマンスあり、ちょっと冒険ありの楽しい読み物。
丁度この作品が制作された1980年代末はひとつのブームの時期で、多くの少女を小説の世界にいざないました。

アドベンチャーロードも過渡期

この頃、アドベンチャーロードも過渡期にあり、男性向けのゴリゴリの冒険ものが中心の構成からライトな作品が増えていた時期にあたります。
そのため少女小説も積極的に取り上げられ、いままで紹介した中でも以下の作品が講談社X文庫ティーズハートや集英社文庫コバルトシリーズなどで発表された少女小説的な作品を原作とする作品です

放送時期 作品名 原作者
1986.4.21 星へ行く舟 新井素子
1987.11.2 いつか猫になる日まで 新井素子
1988.2.15 少女探偵に明日はない 森脇道
1988.5.9 サハラの涙 山崎晴哉
1990.10.22 とんでもポリスは恋泥棒
愛する心に手錠して
林葉直子
1990.12.10 夢みるように愛したい
天使の降る夜
折原みと

少女の夢

さて本作品も少女の夢が満載。
銀座でひとりで洋服を買ったりタクシーを捉まえたり、普通は高1ではできないですよね(そもそも殊理は元華族を祖母に持つ結構な富裕層…)。
また描写的にも、自分のことを「殊理」と名前呼びしちゃうあたりから始めって、気分屋で内心でくるくると考えが空回り続けている殊理のモノローグが延々と続くあたり、聞いていて気恥ずかしいったらありゃしません。
この辺の心理描写のくどさは「とんでもポリスは恋泥棒」や「夢みるように愛したい」と全く同じなのですが、殊理を演じる青木愛さんがこれらの作品の中でも一番可愛らしい、幼げな声をしていることから、これらと比較して最も少女小説的な雰囲気をつくることに成功しており、恥かしいを通り越してこれはこれでありと感じました。

単純なタイムトラベルもの

ストーリーについても、タイムトラベルという目を引く要素を無理なく取り込んで飽きの来ない展開になっています。
そもそも本作品、全4回というアドベンチャーロードでも有数に短い作品であり、作中で進む時間は全部合わせても3泊4日。
複雑なタイムパラドックスはとてもとり入れられる状況にないのですが、(ちょっと強引だけど)気持ちの良いエピローグを含め、一度行って帰るだけのタイムトラベルでもちゃんとつくるとそれないに楽しめるものだなと思いました(一方、短いのに無理に複雑な展開にしてそれでも何とか成立させてしまったのが「時はそよ風、時はつむじ風」)。
なお、細かい話ですが、終戦直後の日本人の気質をお茶碗の持ち方で表現したりするのは上手いな、とも思いました。
この辺、案外ちゃんとしたタイムトラベルものです。

出演者

さて、本作品で主役の殊理を演じるのは青木愛さん。
同時期の「最後の惑星」、「シャングリラ」などにも出演されています。
この方、現参議院議員の青木愛さんの可能性があると思う(当時芸能活動していたので)のですが、資料がなくよくわかりません。
声が違うような気もします…
ご存知の方がいらっしゃいましたらご教示ください。
他の出演者は殊理の思い人・カツオを演じる西川弘志さん(漫才師・西川きよしさんの息子さん)、母親役の竹井みどりさん、祖父役の久米明さんといったところ。
終盤しか登場しないのですが、久米明さんが効いています。

Hirokazu

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