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異人たちとの夏 原作:山田太一(FMシアター)

  • 作品 : 異人たちとの夏
  • 番組 : FMシアター
  • 格付 : AA+
  • 分類 : ホラー
  • 初出 : 2017年7月22日・7月29日
  • 回数 : 全2回(50分・50分)
  • 原作 : 山田太一
  • 脚色 : 入山さと子
  • 音楽 : 谷川賢作
  • 演出 : 小見山佳典
  • 主演 : 国広富之

昭和62年の夏始めに離婚した私は、自宅を妻に渡し、仕事部屋として使っていたマンションで生活を始めた。
生活に不便はないが、都心部に位置するこのマンションはほとんどが事務所として利用されており、離婚直後の自分には夜が静かすぎる。
そんな夜に、突然部屋を訪ねて来た同じマンションに住む年若い女性と関係を持ってしまうことはごく自然な成り行きだろう。
そして、久しぶりに訪れた故郷・浅草で出会った、死んだ両親そっくりの夫婦と交流を持つことも、何らとがめ立てを受けるいわれはないハズだ。
しかし、私は、この、すでにこの世にいないはずの「異人」と交流を始めた頃から、日々やつれていくようになったらしいのだ…



本ラジオドラマ「異人たちとの夏」は、「男たちの旅路」、「岸辺のアルバム」、「ふぞろいの林檎たち」など数々の名作TVドラマの脚本で知られる人気シナリオライター山田太一さん原作の小説をラジオドラマ化した作品で、NHK-FMのFMシアターで前編・後編の2回(50分×2回)で放送されました。
FMシアターで2回連続で制作された作品は2013年9月の「東の国よ!」以来、ほぼ4年ぶりになります。

原作は有名な小説

さて、この「異人たちとの夏」は、山本周五郎賞を受賞した「小説家としての」山田太一さんの代表作ですし、1988年に大林宣彦さん監督、風間杜夫さん主演で映画化された他、何度も舞台化もされていますので、ご存知の方も多いかと思います。
この名作を今さらラジオドラマにするに当たって、NHK-FMが(というか恐らく演出の小見山佳典さんが)選んだキャストが、何とも豪華。

最近、国広富之さんの出演が多い

まず、主役の原田英雄を演じたのは国広富之さん。
原田は人気シナリオライターで、浅草出身という、山田太一さんの分身のようなキャラクターです(さすがに幼少期に両親が事故死、というのはフィクションでしょうけど)。
国広さんについては、個人的には1988年に主演された「遙かなる虎跡」が懐かしいところですが、2014年の「あなたがいる場所」の頃から、再び多くのラジオドラマに出演するようになりました。
国広さん、「あなたがいる場所」では「幼い子どもを亡くした父親」という役でリスナーを泣かせてくれましたが、本作品では「幼くして両親を亡くした中年男」という役どころ。
ちょっとずるいほど泣かせる役だった「幼い子どもを亡くした父親」と比較すると、今回はちょっと違う、と言いたいところだったのですが…
個人的な感想ですが、思っていた以上にエモーショナルな気分になってしまいました。
ひょっとして自分は自分が思っている以上に誰かに(恐らく両親に)褒められたいと思っていたのかも知れませんね…

鶴田真由さんはいつもながら涼し気

さて、話を出演者に戻します。
謎の女性・藤野桂(ふじの・かつら=けい)を演じたのは女優の鶴田真由さんで、英雄の両親である英吉と房子を演じたのは松田洋治さんと雛形あきこさん。
鶴田真由さんは、「想い出あずかります」などと同様、いつもどおりのどこか浮き世離れした涼しげな演技ですが、終盤すっかり雰囲気の違う演技をされる場面が聴き所でしょうか。

松田洋治さんと雛形あきこさんの下町夫婦

また、べらんめい調の松田洋治さんと、気っぷのいい雛形あきこさんの演技が、昭和の下町の夫婦風でいい感じです。
雛形さんはこういう庶民的な演技をさせると絶品ですね。
昭和と言えば、本作品の原作は昭和62年の作品なのですが、「30代半ばであまり若くない」(今では30代で結婚していなくて普通)とか「7月半ばなのに5日続けて30度を超える」(今では連日、夏日)とか色々と時代を感じます。
それにしても松田さんの声が昔と変わらないのがある意味、怖い。
今でも「シュナの旅」(1987年)の声が当てられそうです。

ホラーというほど怖くはない

怖いといえば、本作品、このブログでは一応ジャンルを「ホラー」としています。
散文的に言えば本作品は「幽霊に怖がらせられる話」ですので「ホラー」といっても間違いではないとは思いますが、「夏の魔術」の表現でいう「感情の激動を目的とするもの」(=怖がらせること自体を目的とする作品)ではありません。
終盤の一部以外は、谷川賢作さん(詩人・谷川俊太郎さんの息子さんです)の優しい音楽が象徴するように、とても詩的なファンタジーですので、その意味では「幻想(日本)」などに分類した方が良いのかも知れません。

ホラーはもっとあってよい

ただ、このブログで「ホラー」に分類される作品が極端に少ないことから、今回はホラーに入れさせて頂きました。
本作品は夏のお盆前の時期を選んで放送された作品だと思います。
同時期に青春アドベンチャーで放送された「金魚姫」もホラー風味の作品でしたが、夏はもっともっとホラー作品を放送しても良いのではないかと思います。
まあ、本当に怖がらせようとする作品は耳元でささやくような音響効果を入れたりして結構怖いのですけどね。

篠田三郎さんの落ち着いた声

…と、ここまで書いてきて何か大事なことを書き忘れているような気が?
!!そうだ!!篠田三郎さんのことを書き忘れていました!
プロデューサーであり英雄の友人でもある間宮一郎を演じた篠田三郎さんですが、落ち着いた低音で作品をとても上品にしています。
「人喰い大熊と火縄銃の少女」の、節がついた独特の抑揚のあるナレーションもいいですが、本作のような普通の大人の演技もさすがです。

映画版とのキャストの対比

最後に映画版と、このラジオドラマ版の主教キャストの対比表を載せておきます(敬称略)。
いずれ劣らぬメンバーですね。
ちなみに、この表には載せていませんが、松田洋治さんは「番組台本読み現場のキャスト、スタッフ」として映画にも出演されており、唯一、両作品に出演されています。

役名 映画版 ラジオドラマ版
原田英雄 風間杜夫 国広富之
原田英吉 片岡鶴太郎 松田洋治
原田房子 秋吉久美子 雛形あきこ
藤野桂 名取裕子 鶴田真由
間宮一郎 永島敏行 篠田三郎

(補足)
本作品は、当ブログが年末に実施した2017年のリスナー人気投票で第2位の得票を得ました。
本作品のほかに人気だった作品にご関心のある方は別記事をご参照ください。



Hirokazu

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