10月、秋の初め。
大学を中退した真生（まお）は、今、四国、徳島の道をバイクで走っている。
走って走って走りつくしたら何かが見えるかもしれない。
そんな思いを胸に一人走り続ける彼が徳島の田舎町で、ある老人に出会う。
売れるかもわからない野菜を暢気に売っている老人をうさん臭く見ていた真生だが、飄々としていた老人が彼に言い放った一言に心臓がドクンと鳴った。
「お前、後ろにだれか背負うているな」
本作品「時の旅人」は佐藤ひろみさんオリジナル脚本のオーディオドラマで、1999年FMシアターで放送されました。
ちなみに眉村卓さんの小説とそれを原作とするアニメ映画「時空の旅人」とは何の関係もありませんが、タイムトラベルが絡んでいることだけは同じです。
本作品に主演されたの俳優の高橋一生さん。
2010年代以降に、癖の強い数々の役を演じて人気になる高橋さんですが、本作品に出演された1999年時点では高校を卒業したばかりで役者としては無名に近い存在。
実は子役時代の1993年にジブリアニメ「耳をすませば」に出演しており、キャリア初期から声の演技の経験があります。
その高橋さんと本作品でタッグを組んだのは名声優・俳優として知られた納谷悟朗さん。
声優としては「ルパン三世」の銭形警部や「宇宙戦艦ヤマト」の沖田艦長などの当たり役を持ち、NHK-FMのラジオドラマにもたくさん出演（最近紹介した作品では「長く孤独な狙撃」とか）しています。
ただ、大御所すぎて「闇の守り人」のようにワンポイントで起用されることが多く、特にキャリア後期に本作品のようにメインキャストで配役されることは稀でした。
高橋さんが有名になりつつある2013年に納谷さんは亡くなられていますので、本作品はあとからみると貴重な「高橋一生×納谷悟朗」の作品です。
さて、ストーリー紹介に移りますと、冒頭のとおりの若者と老人が出会うところから物語は始まります。
老人は実は不老不死となり1200年を生き続けている弘法大師・空海なのですが、ひょんなことから若者・真生は、空海とその仲間が暮らす山里で過ごすことになります。
言うまでもなく空海と言えば日本宗教史でも有数の巨人なのですが、本作の空海はどこか軽やかで、からりとした言動が気持ちよいナイスなじいさんなのです。
昔のことを語っても過度に湿っぽくなることはありませんし、人生訓をたれ流すこともありません。
もちろん若者の成長がテーマであろうことからして、途中多少はうじうじとした展開になるのですが、決してジリジリとした緊張感が漂う作品ではありません。
本ブログでは一応「タイムトラベル」に分類はしましたがSF的な展開も特にありません。
最終的に明確な結論が提示されるわけではなく、リスナーもわかり安い何かを得られる作品でもないのですが、とても気持ちの良い聴きやすい作品だと思います。
なお、高橋一生さんはこの7年後、「金春屋ゴメス」にて青春アドベンチャーの方でも主演されます。
7年間の成長を知るためには是非聞き比べをして頂きたいところです。
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