【2023年NHK-FMオーディオドラマアンケート結果1:青春アドベンチャー・作品編】
9年目を迎えたNHK-FMオーディオドラマの人気アンケート。
今年も多くの方にご協力いただきました。
ありがとうございます。この場を借りてお礼申し上げます。
さて、まずは青春アドベンチャーに対するアンケートのうち作品に対する投票結果及びご感想です。
以下の諸点にご注意ください。
それでは早速、結果を発表します。
(注意)コメントには一部ネタバレ要素があります!
◆嘘の木
主演の能登麻美子さんのセリフとモノローグのウエイトがとても高い作品で、リスナーさんの感想を読むとそれをどうとらえたかがこの作品へのみなさんの評価を分けている気がする。
一方、能登さんの演技に隠れがちだが「暗闇で不気味に繁茂する謎の植物」を音で表現するという難題にスタッフが挑戦していることにも注目したい。
これら2つの点が成功したか否かは、この票数とコメントが証明していると思う。
◆玉麒麟 羽州ぼろ鳶組
羽州ぼろ鳶組シリーズも遂に6作品目で、今作の実質的な主人公は「ぼろ鳶組」イチの弄られキャラ・鳥越新之助。
ただ原作者の今村翔吾さんいわく執筆初期に「ある日突然、源吾、深雪、新之助の名前が頭に浮かんだ」というくらいの重要人物でもある。
一見へらへらしているが実は誰よりも正義感とやさしさを持つ新之助の魅力があふれた作品。
◆あたふたオペラ からふる物語
2022年夏、青春アドベンチャーファンの度肝を抜いた「あたふたオペラ」。
本職のオペラ歌手が超くだらない歌詞のオペラ(替え歌)を熱唱するという奇々怪々な作品だったが、その第2弾がこの「からふる物語」である。
前作と比較されるのは第2弾の宿命だが以下コメントのとおり前作以上という声多数。
ただしやはりインパクトは前作登場時に及ばないとの声も。
順位も評価も残念ながら前作にやや及ばない結果となった。
◆とけるストーリーボックス
コメントからも窺えるとおり、特定の俳優のファンから集中投票があったことがこの順位の最大の原因であることは否めない(集中投票問題にはついては別途、反省会の記事で詳述する予定)。
ただ、2015年以降当ブログが毎年実施しているアンケートで、オリジナル脚本のオムニバス作品が上位に入ったのは初めてであり、個人的にも聞きごたえのある回が複数あったと考える。
◆昼も夜も彷徨え
原作は中村小夜さんだが脚色は中世ヨーロッパものを得意とする並木陽さんが担当。
オリジナル脚本の多い並木さんが脚色で関わるのは「ハプスブルクの宝剣」以来2作品目。
本作の舞台は北アフリカと中東なのでヨーロッパではないが、地中海世界が舞台であること、主人公がユダヤ教徒であること等から広く西洋歴史ものといえ、納得の脚色家選択である。
なお、中村小夜さんは翌2024年オリジナル脚本の「太陽の城 月の砦」が採用されることになる。
◆また、桜の国で(再)
2022年に実施した全作品アンケート第2位の実力作だけに、今年の再放送作品の中では最上位となった。
第二次世界大戦期のポーランドを舞台にした作品だが、大国から見捨てられ踏みにじられたポーランドの悲劇が、いま支援の継続が危ぶまれている隣国ウクライナの現実とクロスオーバーして聴いていてつらい。
人間は自らの獣性を克服できるのだろうか。
◆うるはしみにくし あなたのともだち
青春アドベンチャーでは2018年の「なにわ純情ナイトメア」以来のホラーで、荒唐無稽な「なにわ~」と比較するとかなりしっかりと怖い作品。
ただ、テーマがルッキズムということもあり、その怖さは見栄や嫉妬や差別感情といった人の感情に根差したものであり、「結局人の感情が一番怖い」という意味ではサスペンスに近いともいえる。
◆人工心臓(再)
全5回と短い作品だが凝った構成と独特の濃い雰囲気のため聴く人を選ぶ作品。
初出は2021年なので最近では異例に短いサイクルでの再放送。
嵌った人からのリクエストが多かったのだろうか。
◆常識のない喫茶店
2022年の全作品アンケートの出演者部門第3位の人気者、朝倉あきさんの青春アドベンチャーで5年ぶりの主演作品。
ただ朝倉あきさんへの評価とは異なり、本作品の主張に共感できるかは人によって分かれたようだ。
◆白狐魔記 洛中の火(再)
2014年から年2作品ずつ制作され、青春アドベンチャーでも有数の長期シリーズになった白狐魔記。
ただ再放送のペースはゆっくり目で2023年の再放送はこの「洛中の火」1作品だけだった。
それにしても渡辺徹さんの声が懐かしい…
◆夜に星を放つ
オムニバス作品だが脚本家競作ではなくしっかりとした原作小説のある作品。
2023年は1話30分構成やキャストを各話ごとに変えるなどオムニバスの工夫が感じられた年だった。
◆時砂の王(再)
小川一水さん原作の2作品目の青春アドベンチャー化作品の再放送(一作品目は「イカロスの誕生日」)。
2023年の青春アドベンチャーは本作と「つばき、時跳び」の再放送作品2つがタイムトラベルもの。
本作は主体的に時間移動を行うこと、人類史に絡めた壮大な物語であるなど、SFらしい作品。
◆シャドー81
50年以上前のベトナム戦争の時代の作品を選んだのは、やはりロシアによるウクライナ侵攻を意識してのことなのだろうか。
ただつくりは事前に予想したより随分ライトだったような…
◆ラングドックの薔薇
2018年の「暁のハルモニア」以来毎年1作品必ず制作され、当アンケートでも人気を博してきた並木陽さん脚本のオリジナル西洋歴史物語の第6弾。
ただ、今年は不思議に票が伸びず、コメントの熱意も控えめ。
というか今年のアンケートでは全般的に宝塚ファンの方々の動きが鈍かったような気がする。偶然かも知れないが。
◆蒼のファンファーレ(再)
2023年は年始に「風の向こうへ駆け抜けろ」が再放送され、年末に続編の「蒼のファンファーレ」が再放送され、ファン感涙。
「放課後はミステリーとともに」もいいけど私はやっぱり朝倉あきさんはこのシリーズが好きだな。
◆小袖日記(再)
2004年の「タイムスリップ明治維新」以来、青春アドベンチャーでは年初のタイムスリップシリーズでその年の大河ドラマに連動した作品を放送するのが恒例だった(2005年「タイムスリップ源平合戦」、2006年「タイムスリップ戦国時代」、2007年「タイムスリップ川中島」、2011年「タイムスリップ大坂の陣」)。
そんなことを思い出したこの作品の再放送。
◆風の向こうへ駆け抜けろ(再)
この青春アドベンチャー版が初回放送されたのが2017年。
その後、2021年には平手友梨奈さん主演でTVドラマ化もされたが、主演俳優の個性のためか、先に青春アドベンチャー版を聞いてしまったからかTVドラマ版の暗さがどうにも気になってしまった。
朝倉あきさん演じる瑞穂は、真剣さの中に見える明るさ、軽やかさに何とも言えない味がある。
◆マクロプロスの処方箋
元々戯曲が原作だが、このオーディオドラマ版も登場人部や場面を絞った舞台演劇風の作品。
不思議な雰囲気を含め2021年の「人工心臓」、2024年の「影をなくした男」などと近いニュアンスを感じる。
◆あおなり道場始末(再)
同じ葉室麟さん原作でも2012年の「蜩ノ記」との落差に面食らう。
違うタイプの作品と思えば本作品もこれはこれで楽しめる。
◆ウィル
「イッツ・ア・ビューティフルワールド」、「ウブヒメ」に続く今城文恵さんのオリジナル脚本第3弾。
それにしても、ゾンビもの・時代劇・西部劇ってすごい組み合わせ。
いずれも変化球だけど。
◆雨にも負けず粗茶一服(再)
茶道の家元ジュニアを主人公にした成長物語だが、物語はやや中途半端なところで終わっている。
原作小説の続編「風にも負けず粗茶一服」で補完するしかないのか。
ただこの作品だけでも好きな人は極めて高評価していることが以下のコメントから窺える。
◆日本のヤバい女の子(再)
青春アドベンチャーはエンタメ枠なのであまり作者の主張を押しつけてくるような作品はどうかと思うが、本作は演出が巧みでそれなりにバランス感の感じられる作品だったと思う。
ただ、内容的にどうしてもジェンダー論に絡めざるを得ないのはやむを得ないところ。
◆ふれるストーリーボックス
ストーリーボックスシリーズは2023年に2作品制作されたが、そのうちの1作品がこれ。
同一オムニバスシリーズの作品が同じ年に2作品制作されることはかつてなかったのではないかと思ったが、よく考えたら両作品とも全5話なので、あわせても10話だった。
◆つばき、時跳び(再)
「時砂の王」以外のもう1つのタイムトラベルものがこれ。
こちらは、不意のタイムスリップ+歴史改変に関係ないプライベートな時間移動もの。
こういう小さい世界の心の動きを描くのにもタイムトラベルは使いやすい小道具ではある。
そういえば映画化企画はどうなっちゃったのかな…
◆ウィッグ取ったらただの人(再)
これも2020年初出なのでかなり早い再放送。
そもそも既に「一日で聴く青春アドベンチャー」で再放送しているので合計で3回目の放送である。
男性声優が多数出演している点で異例の青春アドベンチャーなのだが、よほど人気なのだろう。
◆ベルリン1989(再)
これも衛星国家の悲劇という意味では「また、桜の国で」に通じるものがある。同様にロシアのウクライナ侵攻とも。
思えば本放送の2019年はベルリンの壁崩壊から30年目だったんだな。
歴史は繰り返すのだろうか。
◆深夜プラス1
リスナーさんのコメントが多い割には票は伸びなかった。
正直なところ冷戦下の雰囲気を再現するのはなかなか難しいと思うが、あの異常な時代を忘れないことは人類の未来にきっと必要なことだと思う。
今後も逃げずに立ち向かってドラマ化して欲しい。
男女別のベスト10は以下のとおりです(太字は男女どちらかでのみベスト10の作品)。
上位の作品は男女であまり傾向に差はありませんが、集中投票のあった「とけるストーリーボックス」だけは圧倒的に女性票優位です。
■女性票
順位 | 票数 | 作品名 |
---|---|---|
1 | 17 | とけるストーリーボックス |
2 | 14 | 嘘の木 |
3 | 11 | 玉麒麟 羽州ぼろ鳶組 |
4 | 8 | また、桜の国で |
あたふたオペラ からふる物語 | ||
6 | 9 | 昼も夜も彷徨え |
7 | 6 | うりはしみにくし あなたのともだち |
人工心臓(再) | ||
9 | 2 | 風の向こうへ駆け抜けろ(再) |
常識のない喫茶店 | ||
ラングドックの薔薇 | ||
小袖日記(再) |
■男性票
順位 | 票数 | 作品名 |
---|---|---|
1 | 13 | 嘘の木 |
2 | 10 | 玉麒麟 羽州ぼろ鳶組 |
3 | 8 | 昼も夜も彷徨え |
4 | 7 | あたふたオペラ からふる物語 |
5 | 6 | 時砂の王(再) |
6 | 5 | うりはしみにくし あなたのともだち |
また、桜の国で(再) | ||
蒼のファンファーレ(再) | ||
9 | 4 | シャドー81 |
白狐魔記 洛中の火(再) |
■その他票
順位 | 票数 | 作品名 |
---|---|---|
1 | 4 | 嘘の木 |
2 | 3 | 玉麒麟 羽州ぼろ鳶組 |
あたふたオペラ からふる物語 | ||
4 | 2 | うりはしみにくし あなたのともだち |
常識のない喫茶店 | ||
ラングドックの薔薇 | ||
夜に星を放つ | ||
8 | 1 | マクロプロスの処方箋 |
日本のヤバい女の子(再) | ||
あおなり道場始末(再) | ||
つばき、時跳び(再) | ||
白狐魔記 洛中の火(再) | ||
雨にも負けず粗茶一服(再) | ||
また、桜の国で(再) | ||
小袖日記(再) |
作品編の結果は以上のとおりです。
例年、上位に食い込んでいる並木陽さんのオリジナル西洋歴史ドラマですが、今年の「ラングドックの薔薇」は意外と伸び悩みました。
一方、その並木陽さんが脚色を担当した「昼も夜も彷徨え」は男女バランスよく支持を受けて上位に入りました。
【2023年のアンケート結果一覧】
■アンケート企画の結果
各年ごとアンケートの結果一覧はこちらから、全作品アンケートの結果一覧はこちらからご覧ください。
■2023年の放送作品
2023年に青春アドベンチャーで放送された作品の一覧はこちらです。