Categories: 格付:A

幻タクシー 作:山本雅嗣(FMシアター)

  • 作品 : 幻タクシー
  • 番組 : FMシアター
  • 格付 : A-
  • 分類 : 幻想(日本/シリアス)
  • 初出 : 2019年1月19日
  • 回数 : 全1回(50分)
  • 作  : 山本雅嗣
  • 音楽 : 冬野ユミ
  • 演出 : 川野秀昭
  • 主演 : 加藤虎ノ介

タクシー運転手の諸星は深夜、白衣のうえにウインドブレーカーを羽織った女性を乗せる。
ただ、この女性客はどことなく変だった。
乗ってから行き先を探し始め、しかも結局、陸上競技場ならどこでもいいという。
一体何者なのだろう…?
しかし、客に言われるまま、長居陸上競技場、みさき動物公園、そしてある住宅地を巡るうちに…
それはその女性と息子の物語であり、諸星と父との想い出にもつながっていくのだった。


本作品「幻タクシー」は第39回BKラジオドラマ脚本賞の最優秀賞を受賞した作品をラジオドラマ化した作品です。
ちなみに「BK」とはNHK大阪放送局のことで、同局ラジオ第一及びFMのコールサイン「JOBK」から取っているのだそうです。

ドラマの舞台としてのタクシー

さて、本作品の主人公、加藤虎ノ介さん演じる「諸星」はタクシー運転手。
タクシーは、どのような客が乗ってくるか分からない点でとても作品を作りやすい舞台設定です。
夜中に風変わりな客が乗ってくるというだけでもうドキドキの展開。
この特性を活用した作品としては、例えば「なぞタクシーにのって…」(青春アドベンチャー)をご紹介済みですし、またタクシーではなくトラックですが「飛ばせハイウェイ、飛ばせ人生」(FMシアター)も似たシチュエーションの良作でした。

穏やかで気持ちの良い話

本作品でも如何にもいわくありげな女性客が乗ってくるのですが、ホラー展開になるわけでもなく割とおとなしい話が続きます。
そして彼女の事情が徐々に主人公・諸星の過去にも絡んでくるのですが、本作品の場合、彼女と諸星の事情を無理矢理つなげるようなトリッキーな展開はなく、あくまで現実の出来事が諸星の内面に影響を与える程度の穏やかなつながりに終始します。
ただ、やっぱり親子の話は効くんですよね。
正直、諸星の父親の行動には???という部分も多いのですが、やはり親は願っているんですよね、子どもの幸せを(多くの場合は…)。
ちょっと甘いかも知れませんが、最後の女性の息子との会話を含め、気持ちの良いお話でした。

みさき公園、その後

ところで本作品で2つ目の目的地となる「みさき公園」。
1957年に南海電気鉄道が創業70周年記念事業として開業した遊園地・動物園・水族館なのですが、本作品が放送された約2か月後の2019年3月に南海が運営からの撤退を発表、その後運営を引き継ぐ事業者が現れず、2020年3月に営業を休止したのだそうです(動物園等は撤去され町営の自然公園として再開予定)。
変な話ですが、羽野晶紀さん演じる小原アイにとって間に合って良かったと思いました。

本格舞台俳優コンビ

さて、本作品の主役諸星リョウ(漢字不明)を演じるのは俳優の加藤虎ノ介さん。
本ブログでは「シュレミールと小さな潜水艦」、「know~知っている」、「夜のストーリーボックス」と主演作品を3作品も紹介済み。
いつもながらいい声です。
そして相手役の小原アイ(漢字不明)を演じたのは女優の羽野晶紀さん。
狂言師・和泉元彌さんの奥さんですね。
羽野さんってタレント的なイメージの強い方ですが、大学在学中には、当時、渡辺いっけいさん、筧利夫さん、古田新太さん、高田聖子さんなどが在籍していた「劇団☆新感線」に参加されていたとのことで、実はもともとちゃんとした舞台女優さんだったようです。


Hirokazu

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