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浮遊霊ブラジル 原作:津村記久子(青春アドベンチャー)

  • 作品 : 浮遊霊ブラジル
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A
  • 分類 : 幻想(日本/ライト)
  • 初出 : 2021年6月7日~6月11日
  • 回数 : 全5回(各回15分)
  • 原作 : 津村記久子
  • 脚色 : 堀田りえこ
  • 演出 : 木村明広
  • 主演 : 西田敏行

別に悪い人生じゃなかった。
5年前に妻が亡くなってからも、ベランダで野菜を育てたり、町内会の活動をしたりとそれなりにやってきた。
だから死ねばすんなり妻の元に行くのだと思っていた。
しかし、気がついたら浮遊霊としてこの世に残ってしまっていた。
死ぬ直前に計画していたアイルランド・アラン諸島への初めての海外旅行。
どうも自分は自分が思っていた以上にアラン諸島に行きたかったらしい。
こうなったら仕方がない。
何とかしてアラン諸島まで行ってみようじゃないか。
ところで浮遊霊は飛行機に乗れるのか?



本作品「浮遊霊ブラジル」は芥川賞作家・津村記久子さん原作の小説をラジオドラマ化した作品です。

珍しい芥川賞作家の原作

津村さんは芥川賞作家ではありますが、深刻な内容を鬱鬱と書くような作家ではなく、語り口はあくまで飄々としています。
そのためか、芥川賞作家には珍しく、エンタメ枠のラジオドラマ番組である青春アドベンチャーで、本作品も含めてすでに3作品も取り上げられています(2017年「エヴリシング・フロウズ」、2019年「ディス・イズ・ザ・デイ」、本作品)。
実は本作品が放送された2021年は、新年1月から原作のないオリジナル脚本の新作が9作品(2月の「負け犬たちのミッドナイト・バス」のみ原「案」付き)も続いた異例の年だったのですが、本作品の放送をもってようやく原作付き作品が放送されました。

設定の妙

さて、本作品は図らずも浮遊霊になってしまった三田さんというご老人が、成仏するため(?)にアイルランド・アラン諸島を訪問しようと画策する話です。
この世界における浮遊霊は世界に物理的に干渉することができないのですが、考え方を変えれば、改札はフリーパスですし壁抜けなども自由自在。
では簡単にアラン諸島へ行けるかと思うと、全くそんなことはありません。
物体に干渉できないと言うことは逆に言えば交通機関に頼って移動することもできないということ。
しかも、生きている人間にも干渉ができないので、人と会話して情報を集めることもできません。
この状態でアイルランドまで行くのはかなりの難題なのです。

アイルランド?ブラジル?

頭を抱えてしまう三田さんですが、実は生きている人間に憑依できることが判明。
憑依した人間にくっついて移動し、移動先で別の人間に「乗り換える」ことによって、わらしべ長者的にアイルランドを目指すことが可能になります。
この辺のコントロール不能の車に乗って移動するドライバー的な設定が、先の読めない展開へと結びついていきます。
なんと言っても目的地はアイルランドのハズなのに、本作品は浮遊霊「ブラジル」ですからね。

会話がないのに成立する物語

そしてこの設定がもたらす本作品のもう一つの特徴は主人公・三田さん(浮遊霊)と他の登場人物との独特の距離感。
なにせ主人公と他の登場人物との間に、回想シーンを除けば一切会話が成立しないのです。
いうならば三田さんはナレーション的な立ち位置なのですが、憑依した浮遊霊として他の登場人物を誰よりも近くで見守る立場であり感情移入も当然強くなります。
この辺の二重性がこの作品の面白さだと思います。

さて、三田さんはアラン諸島にたどり着けるのか、ブラジルとは何なのか。
本作品、全5回の商品ですので、これ以上を書くのは止めておきましょう。
聴いての(読んでの)お楽しみと言うことで。

西田さんの味

さて、本作品の主人公・三田さんを演じたのは俳優の西田敏行さん。
「池中玄太80キロ」、「西遊記」、「おんな太閤記」、「釣りバカ日誌」など有名な作品を挙げたら枚挙に暇ない俳優さんで、NHKのラジオドラマに関して言えば、2008年からラジオ第一(AM)の「新日曜名作座」で竹下景子さんとふたり芝居を披露されています。
今回は珍しくもFMへ出張出演されたわけですが、古くは1979年・1980年の「拝啓 名探偵殿」に主演されるなど、古くからラジオドラマに縁のある方でもあります。



Hirokazu

オーディオドラマの世界へようこそ!

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