火喰鳥 羽州ぼろ鳶組 原作:今村翔吾(青春アドベンチャー)

格付:AAA
  • 作品 : 火喰鳥 羽州ぼろ鳶組
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AAA
  • 分類 : 歴史時代(日本)
  • 初出 : 2018年7月23日~8月3日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 今村翔吾
  • 脚色 : 丸尾聡
  • 演出 : 真銅健嗣
  • 主演 : 筧利夫

藩が用意した支度金はわずか200両。
火消組は維持するだけで年間1000両はかかる。
しかも、実際に消火作業を行う鳶(とび)は定員を遙かに割り、補佐役は経験皆無の若造のみ。
火消に欠くことのできない七つ道具すら満足に揃っていない。
そんな新庄藩・火消組をわずか200両で再建せよと?
「火喰鳥」と呼ばれ、江戸一番の火消と持て囃されたのは昔のこと。
今の俺にそれができるだろうか。
いや、もう一度、向き合うと決めたのだ。
だからこそ、家老の前でこう宣言する。
「火消として必ずや名を上げて見せましょう。2年、いえ1年と半で結構。ただし…」
条件はただひとつ。
「拙者のやりように一切の口出し無用に願います。」


これぞ痛快娯楽時代劇

いや~熱い!
作中でやたらと火事が起こるから…ではなく、登場人物がみな熱い!
これですよ、これ!
エンターテイメント枠のドラマはこれでいいんです。

…と、のっけからテンション高めですが、早速、NHK-FMのラジオドラマ「火喰鳥 羽州ぼろ鳶組」の紹介を始めたいと思います。

こんな題材があったなんて

原作は今村翔吾さんによる時代小説で、「大名火消」(だいみょうびけし)を主人公にした物語です。
江戸の火消(消防組織)といえば、時代劇でおなじみの「町火消」(まちびけし)が有名です。
「暴れん坊将軍」で北島三郎さんが演じた「め組の辰五郎」が思い出されますね。
そのため、「町火消ではなく大名火消かあ。随分とマイナーなところをついてくるなあ」と最初思ったのですが、実際に聞いていてあることに気がつきました。
「何だ、そもそも火消ってどういうものか自体知らなかったぞ」と。

火消道具すら知らなかった

改めて考えると「暴れん坊将軍」のエンディングテーマの背景で、サブちゃんが燃えている家屋の屋上で纏を振っている、という程度のイメージしかありません。
本作品は火消についてわかるという意味で、まず知的好奇心をくすぐられる作品です。
いわゆる火消の七つ道具、すなわち、消火の目印を示す「纏(まとい)」、水を吐きかける「竜吐水(りゅうどすい)」、火の粉を払う「大団扇(おおうちわ)」、梯子(はしご)、家屋を打ち壊し延焼を防ぐための「鳶口(とびくち)」・「刺叉(さすまた)」、そして水を溜める「玄蕃桶(げんばおけ)」。
改めて説明を受けるとフムフム、という感じです。

個性的な火消の役割

そしてそれ以上に印象的なのは、消火で重要な役割を担う組の柱となる役どころ。
まずは、屋根に真っ先上がり火消の目標を示す「纏持(まといもち)」。
纏持は「火の回りを知らせる偵察役」を兼ねており、「火が回ってもギリギリまで踏みとどまる根性と俊敏さ」が必要。
そして、鳶口や刺叉を使って壁を破り柱を折って「家をぶっ壊す」役割を担うのが「壊し手(こわして)」。
「古今無双の怪力」が望まれます。
最後に「風読み(かざよみ)」。
しょっちゅう変わる江戸の風。
特に火事場では熱波でさらに複雑になるその風を読む火消随一のインテリ、いうならば「火消の軍師」が風読みです。
どうです。個性的でしょう。
そしてご想像のとおり、作中で実際にこれらの立場に立つ人物の造型も自ずと個性的です。
特に、本作品の場合、崩壊寸前の火消組が舞台であり、最初から組に有能な人材がいるわけがない。
となるとスカウトです。

七人の侍?梁山泊?

本作品では、元力士の寅次郎(演:朝倉伸二さん)、軽業師の「山城屋の彦弥」(通称「谺」(やまびこ)。演:津田英佑さん)、そして天文学者の加持星十郎(演:大沢健さん)がこれらに当てられていくのですが、「七人の侍」を例に出すまでもなく、個性的で有能な仲間たちが集まっていく様はまさに鉄板のわくわく展開です。
そして更にその脇を固める登場人物たちも魅力的。
主人公・源吾の世話役としてコネクションとロジスティックの整備に徹する折下左門(演:青山勝さん)。
代々、新庄藩・火消組の頭取並(No.2)を勤める家に生まれながら、調子が良いばかりで全く頼りにならない鳥越新之助(でも実は「新庄の麒麟児」なる火消とは関係ない意外な異名を持っていることが終盤に判明!、演:小山貴司さん)。
鉄面皮で守銭奴(←言い過ぎ)な「勘定小町」こと、源吾の愛妻・深雪(みゆき、演:山田キヌヲさん)もいい味を出しています。
まあ、全員コテコテのキャラクター造型ではありますが、エンタメドラマにはこれくらいでいいんですよ。

よっ!待ってました!筧利夫さん!

そして何より魅力的なのが主人公である松永源吾。
源吾を演じる筧利夫さんは「劇団☆新感線」や「第三舞台」の看板俳優だった方で、TVでも活躍されているのでご存知の方も多いと思います。
青春アドベンチャーでは1994年の「紅はこべ」、1997年の「タイガーにしなさい!」、1998年の「『卯』の音も出ない!」に主演されています。
後2者はコント作品だったので、青春アドベンチャーでの筧さんの代表作といえば今までは「紅はこべ」だったのですが、これからは、この「火喰鳥 羽州ぼろ鳶組」になるのかも知れません。
ちなみに源吾の異名である「火喰鳥」ですが、作中、火喰鳥は「自ら炎に飛び込み、火を喰らい、何度でも炎の中から蘇るという伝説の鳥」と紹介されます。
「でも、それって火喰鳥ではなくて不死鳥(フェニックス)じゃね?」と思ったのですが、調べてみると不死鳥にまつわる伝説は世界中にあり、中国の鳳凰や、インドのガルーダなどが有名ですが、ロシアでは「火喰鳥」なのだそうです。

エキサイティング

本作品、ストーリーとしてはそれほど凝ったものではなく、気持ちの良いストレートな娯楽時代劇です。
とくに、前半の5話は上記のとおり、源吾の火消へのカムバックと仲間集めに終始しており、適度なコメディシーンもあります。(「足代、高っ!」)
そして、後半でいよいよシリアスな火事場のシーンが増えていきます。
火事場は爆発に次ぐ、爆発。
もはやこれは戦場と言っても過言ではない!

ミステリアス

そして、聴いていて感心したのが、火事に「付け火」(=放火=人の手による犯罪)の要素を取り入れることで単なる消火や災害救助だけではなく、ミステリーあるいはサスペンス的な要素を取り入れられるということ。
「火付け」であれば「火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)、長谷川平蔵であ~る」が登場するのも自然な展開。
よくできています。
ちなみに本作品に登場する「長谷川平蔵」は中村吉右衛門さんの当たり役である「鬼平犯科帳」の「長谷川平蔵・宣以」(はせがわへいぞう・のぶため)ではなく、その父に当たる「長谷川平蔵・宣雄」(はせがわへいぞう・のぶお)です。
ただし、実は「宣以」の方もこのシリーズの続編には登場するとのこと。

続編制作必至

そう、この「羽州ぼろ鳶組」の原作は、2018年8月現在、本作品「火喰鳥」のほか、「夜哭鳥」、「九紋龍」、「鬼煙管」、「菩薩花」、「夢胡蝶」の6作品が発表されている(恐ろしいことに数か月おきに出版されている!)人気シリーズ。
このラジオドラマ単体でも、番付に沿った各火消たちの”名乗り”で終わる完璧なエンディングになってはいるのですが、続編があると聞いてしまうと、やはりこれは是非、筧利夫さん主演で続きが聞きたい!
源吾が一旦、火消をやめるに至った事件とかまったく説明されていないじゃないですか(実は原作小説ではこの辺を含めた深雪との馴れ初めがきちんと書かれているが、ラジオドラマでは尺の都合からかバッサリとカットされている)。
タイムライダーズ」など続きが聞きたいのにまだ制作されていない作品が何作品もあり、青春アドベンチャーがシリーズものばっかりになってしまうのもよろしくないとは思うのですが、いいものはイイ!
演出の真銅健嗣さん、「封神演義」に比べれば短いじゃないですか、是非よろしくお願いします(2019/8/22注:続編の「夜哭烏」の放送が告知されました!これは嬉しい!また2020年10月には第3弾「鬼煙管」も放送されました)。

丸尾聡さん本作にも出演

さて、演出の真銅健嗣さんについて言及したついでに他のスタッフについても。
脚色は真銅さんといっしょに「守り人」を青春アドベンチャーにした丸尾聡さん。
本作でもカメオ出演されています!
本作品の第6回(第2週目の最初の回)は、ぼろ鳶組の現状と幹部たちの特徴が自然にわかる内容になっており、第2週目から聴き始めたリスナーにも親切な設計。
さすがです。

たまには選曲にも

また、本作品については選曲の石原慎介さんにも言及しておきたいところ。
青春アドベンチャーは、その作品オリジナルの劇伴を制作する作品と、既存の音源から「選曲」してBGMとして使用する作品があります。
前者のパターンが素晴らしいことはいうまでもないのですが、本作品を聴いているとそうでない作品における選曲家さんの功績にも改めて気が付きます。
本作品の選曲はとても作品内容に合っていると思います。


(補足)
原作者の今村翔吾さんが2022年1月「塞王の盾」にて第166回直木賞を受賞されました。


■ぼろ鳶組シリーズ一覧
松永源吾とぼろ鳶組は今日も火事と戦う、ただ江戸の街を守り、人々の命を救うために。

  1. 火喰鳥 羽州ぼろ鳶組(本作品)
  2. 夜哭烏 羽州ぼろ鳶組
  3. 鬼煙管 羽州ぼろ鳶組
  4. 菩薩花 羽州ぼろ鳶組
  5. 夢胡蝶~羽州ぼろ鳶組
  6. 玉麒麟 羽州ぼろ鳶組
  7. 襲大鳳 羽州ぼろ鳶組
  8. お互いの呼び方で解説する新庄藩火消組
  9. 通称・異称で紹介する江戸の火消たち
  10. オーディオドラマ化から漏れた作品を補完する

最後の2つは途中からシリーズをお聞きになる皆様に向けて整理したものです。
作品聴取にあたっての予習・復習にご利用頂きたいのですが、この夜哭烏あたりだとネタバレの要素があることにはご注意ください。


■約260年に及ぶ江戸時代。
当ブログで紹介した江戸時代を舞台にした作品が、細かく見るとどの時代設定を背景としているのか?
この作品とこの作品はどちらが先?
実は同時期を描いている意外な作品とは?
詳しくはこちらをご覧ください。


【30周年記念全作品アンケート】
2022年に当ブログが独自に実施した、青春アドベンチャー30周年記念・全466作品アンケートにおいて、本作品が8票を獲得して15位タイとなりました。
リスナーの感想等の詳細はこちらをご覧ください。


コメント

タイトルとURLをコピーしました