- 作品 : 飛ばせハイウェイ、飛ばせ人生
- 番組 : FMシアター
- 格付 : AA
- 分類 : 日常
- 初出 : 2011年4月16日
- 回数 : 全1回(50分)
- 作 : 樋口ミユ
- 音楽 : 小林洋平
- 演出 : 江澤俊彦
- 主演 : 高橋和也
さあ、もうひと仕事。
明日の朝までに木更津から吹田に行かなければならない。
夜の3時に走る車は自分のような荷物を積んだトラックくらいだ。
こんな夜には助手席に話し相手がいないとやっていられない。
おや、ヒッチハイクしようとしている人がいるぞ。
それも初老の男性だ。
行き先を書いたボードには… “LAまで”?!
変わったじいさんだが、乗せてみるか…
午前4時、空はまだ暗い。
本作品「飛ばせハイウェイ、飛ばせ人生」は樋口ミユさんによるオリジナル脚本のラジオドラマで、2011年にFMシアターで放送されました。
そして2019年には、「今日は一日“ありがとうFM50”三昧 オーディオドラマ編」の中でも再放送されています。
市原悦子さん追悼
これは作品の出来もさることながら、「三昧」放送の2カ月前の2019年1月に、本作に出演されている市原悦子さんが他界されていることも無縁ではないと思います。
市原さんは晩年までNHK-FMのラジオドラマに積極的に出演されており、特に2015年には「母、逝かず」、「ちょっといいですか」、「もと天使松永」と3作品も出演されています。
本作と同じ樋口ミユさん脚本の「GIRLSガールズ」(2012年)にも出演されています。
「三昧」における本作品の放送は市原さん追悼の意味もあったものと推測します。
原田芳雄さん追悼
追悼といえば、本作品にはもうひとり原田芳雄さん(アドベンチャーロード時代の随一のハードボイルド「檻」が懐かしい)という大物も出演されているのですが、原田さんが亡くなられたのは本作品が放送されたわずか4カ月後の2011年7月。
「三昧」では主演の高橋和也さん(元男闘呼組で「赤と黒」「家守綺譚」で青春アドベンチャーを代表する演者でもある)が、本作品収録時の様子を話しているのですが、何とまさに収録中に東日本大震災が発生。
未曾有の事態に遭遇し、収録をあきらめる雰囲気ができつつある中、原田さんの「いや、やろう」という言葉で収録が続いたのだそうです。
原田さんは「(今収録をやめたら)このメンバー、二度と集まれないよ」と言ったそうですが、震災の混乱が収まる何カ月か後に一番、「集まれない」状態になっているのは自分だ、という自覚があったようにも感じます。
その意味で本作品の三昧での放送、そして高橋さんへのインタビューは原田さんへの追悼の意味もあったのかも知れませんね。
樋口ミユ脚本でちょっと身構えたけど
さて、いきなり作品内容とは関係ないことから始めてしまいましたが、本作品は作品内容もなかなかです。
脚本家の樋口ミユさんはNHK-FMのもうひとつのラジオドラマ番組「青春アドベンチャー」では「僕たちの宇宙船」、「ニコイナ食堂」、「ギルとエンキドゥ」と素っ頓狂な…いやいや、ファンタジックな作品を連発している脚本家さんなのですが、FMシアターで発表した本作品は地に足の付いた実にまっとうなそして爽やかな作品。
本作品にも「日に日に小さくなる老婦人」というファンタジー要素はあるのですが、私はこれを松田老人の妄想ないしは狂言ととらえ極めて現実的な作品と解釈しました。
誠実で暖かみのある納得の脚本
となるとストーリーはトラック運転手をしている若者が老人のヒッチハイカーを拾って大阪まで行くだけの話にしかなりません。
実は「老い」や「家族」や「若者の成長」といったくそまじめな要素が多いから、またFMシアターらしいうんざりした話になりそうだと思ったのですが、高橋さんの爽やかで誠実な演技、原田さんのぶっきらぼうだけど暖かみのある演技、そして市原さんのどこかおかしみのある演技に加え、控えめだけど品の良い劇伴や音響(所々に「Fly me to the Moon」の使うのも洒落ています)が良い雰囲気を作っています。
震災の影響で2時間も巻きで収録したのにこの出来だと思うととても味わい深いですね(原田さん、市原さんは全くNGを出さず超速で進めたそう)。
まだまだ飛ばせ
そして何より、本作品、確かに「いい話」なのですが、嫌味な意味で「いい話」なのではなく、「家族を大事に」みたいな停滞した結論にとどまらず、「まだまだ飛ばせ」と走り続ける結末が心地よいです。
その意味でも「三昧」に選ばれたのは納得です。
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