Categories: 格付:C

仮想郵便局 作:詩森ろば(FMシアター)

  • 作品 : 仮想郵便局
  • 番組 : FMシアター
  • 格付 : C+
  • 分類 : 職業
  • 初出 : 2020年8月29日
  • 回数 : 全1回(各回50分)
  • 作  : 詩森ろば
  • 演出 : 小島東洋
  • 主演 : 上白石萌音

小さいころから私は引っ込み思案だった。
でもお話を声に出して読むのは好き。
だから地元のラジオ局「桜島ラジオ」に就職できたのは願ってもないことだった。
しかも前任者の急な降板で人気番組「仮想郵便局」のパーソナリティーの座が回って来るなんて。
「仮想郵便局」は誰かの出した手紙に、別の誰かの出した手紙をマッチングして返信として読み上げる人気番組。
でも最初の放送で気持ちが入り過ぎて大失敗をしてしまった。どうしよう。
落ち込む私にディレクターが見せたのは1通の手紙。
終戦直前、地元にあった特攻隊基地から飛び立った恋人にあてに、ある女性が出した手紙だという。
どうしよう、こんな人の人生を背負うような手紙に返信するに足る手紙なんて見つけられるのだろうか。


本作品「仮想郵便局」は鹿児島で実際に行われている「仮想郵便局」の取り組みをモチーフにした作品で、NHK鹿児島局の制作したラジオドラマです。
ちなみに青春アドベンチャーで放送された「幻想郵便局」も、同じ2020年にFMシアターで放送された「幻想列車」も全く別の作品ですし、青春アドベンチャー「仮想の騎士」が全く関係ないことは言うまでもありません。

仮想郵便局とは

さて、「先ほど鹿児島で実際に行われている」と書きましたが元々の「仮想郵便局」は
高校の国語教師の梶原末廣さんが始めたプロジェクトで、手紙と自分宛ての返信用封筒を送ると、別の人の手紙が送り返されてくるというもの。
ラジオ局が返信を読み上げるというのはこの作品のオリジナルのようです。

舞台はラジオ局

本作品は地元のラジオ局に入社した主人公・前園ことりが、この「仮想郵便局」という番組と万世に実在した特攻隊基地を取材する中で得た気づきから成長していく姿を描いた作品です。
本作品の第1の特徴はこのことりを演じた上白石萌音さんの演技。
上白石萌音さんご自身が鹿児島の出身であり、思い入れはひとしおだと思いますが、特攻という深刻な事柄を扱った作品でありながら過度に暗くならないのは、上白石さんのほわっとした雰囲気の影響が大きいと感じます。
話し方もどこかラジオのパーソナリティあるいはナレーターのような柔らかさ。
それでいて最初の手紙を読むシーンで早速発揮されるエモさもなかなか。
流石、後年の朝ドラ女優です。

朝ドラ主演女優つながり

ちなみに話が逸れますが、本記事は(全体の3分の1だけど)上白石さんが主演された朝ドラ「カムカムエヴィリバディ」の終了記念の意味もあり、セットで次の紹介作品は次の朝ドラ「ちむどんどん」主演の黒島結菜さんが出演されている「オールに願いを」とする予定です。

期待が高まり最後の手紙へ

いずれにしろこのほんわかした雰囲気とエモさ、そして特攻という歴史的事実とことり自身の人生への立ち向かい方。
それらが融合しながら進んでいくさまはなかなか聴きごたえがありましたし、特攻を過度にヒロイックにもエモーショナルにも捉えない方向性に期待をしながら終盤を迎えたのですが…

どうもしっくりこない…

個人的な感想なのですが、最後のことりの手紙に少し違和感を感じてしまいました。
あまりに、私の悩み、私の悩み、私の悩み…ばかりです。
もちろん手紙を読む余裕がない主人公の心情と、型どおりの手紙ばかり綴った特攻隊員の心情、そしてそれらを「その先を想像する」力につなげることのもつテーマ性はわかりますし、それ自体に共感はできるのですが、ことりの悩みがあまりにパーソナルすぎる。

大事なのは主人公の成長だけど

「教えてくれてありがとうございます」って、女性の手紙はことりの悩みを解決するために書かれたものではないと思います。
そもそも特攻隊員の手紙が画一的なことを否定的に捉えておきながら最後にとってつけたように特攻隊員の手紙を称揚することも気持ちが悪いですし、作中も言及されていますが山場の手紙が「仮想郵便局」のルールを守っていないこと自体、都合良すぎるように感じてしまいました。

是非ご自身でご確認を

なお、これはあくまで私個人の感想であり、感じ方は人それぞれだと思います。
ざわざわしない作品より、する作品の方が印象に残るのも事実ではあります。
いずれにしろ、この作品のファンの方、関係者の皆様、お気に触りましたらご容赦ください。
お聞きでない方はもし機会がありましたら是非、直接聞いてみて下さい。

上白石姉妹

さて、主演については先ほど書きましたとおり女優の上白石萌音さん。
第7回東宝シンデレラオーデションで同時に賞を取った妹の上白石萌歌さんが2015年に先に「沈黙とオルゴール」に出演されていますので、それから5年遅れてのFMシアター出演ということになります。
ただ、キャリアを積んでいることもあり、北村有起哉さん(ツングース特命隊)、富田靖子さん(少女探偵に明日はない)、橋本淳さん(人工心臓、高天原探題、あおなり道場始末)といった過去の青春アドベンチャー等の主演経験者を脇に配しての堂々の主演です。

Hirokazu

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