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木かげの家の小人たち 原作:いぬいとみこ(夏休みヤング・シアター)

  • 作品 : 木かげの家の小人たち
  • 番組 : 夏休みヤング・シアター
  • 格付 : AAA-
  • 分類 : 幻想(日本/シリアス)
  • 初出 : 1987年8月15日
  • 回数 : 全1回(60分)
  • 原作 : いぬいとみこ
  • 脚色 : 岡本螢
  • 演出 : 笹原紀昭
  • 主演 : 広瀬珠美

太平洋戦争中の昭和19年9月。
少女・森山ゆりは、小さな秘密とともにおばの家に疎開をしてきた。
森山家に住んでいた、イギリス生まれの「小さい人たち」を密かに疎開先に連れてきていたのだ。
小人の一家は毎日、コップ一杯のミルクがあれば生きていくことができる。
それを用意するのが家族内でのゆりの大事な役割。
それは疎開先でも引き継がれていたのだが、幼いゆりが孤独な疎開先でミルクを用意するのは容易なことではない。
母に預けられた粉ミルクはすぐになくなってしまい、ゆりはミルクの調達に困ってしまうのだが…



いぬいとみこさん原作の児童文学を原作にしたラジオドラマです。
このブログでは通常、「青春アドベンチャー」など、NHK-FMで平日の夜に毎日15分ずつ放送しているラジオドラマを紹介しており、土曜日などに1時間程度の枠で放送しているFMシアター系列の作品を取り上げるのは「星を掘れ!」についで2度目です。
とはいえ「星を掘れ!」も本作品も、FMシアターのレギュラー放送ではなく特番として放送された作品です。
本作品は「夏休みヤング・シアター」と銘打って放送されました。
ちなみに本作品が放送された1987年は、宮﨑駿さん原作の「シュナの旅」や仲倉重郎さん原作の「ビバ!スペースカレッジ」など、若年層向けの良作が複数放送された年でもありました。

個人的な思い入れアリアリ

さて、本ブログの格付けについて記載した記事で、格付けは完全に私の個人的な趣味でつけたもので、思い出補正も当然、込みであることを宣言していますが、この作品はまさにそれに該当します。
原作が自分が幼いころに読んで、今でもとても印象が強い作品なのです。
なにせたまたま本作の原作を見かけて、子供に読ませたい!と思って、衝動的に買ってしまったくらいです。
ちなみにそのころ子供は確か2歳くらいで、とても読めるような年齢ではなかったのですけど。
そう、幼いころの私は「屋根裏に住んで自給自足の生活をしている小人の家族」という設定が何だかやたらと気に入っていたのです。
窓際にコップ一杯のミルクを置いていたら、そのうち我が家にも小人が現れるのではないか、とか、親の目を盗んで毎日コップ一杯のミルクを用意することは可能だろうか、などと夢想している変な子供でした。

実は元祖はイギリスの小説

この「人間のごく近くで生活している小人たち」という設定の児童文学は、イギリスの小説「床下の小人たち」シリーズ(2010年に公開されたスタジオジブリのアニメ映画「借りぐらしのアリエッティ」の原作としても有名)が元祖のようです。
その他、日本では佐藤さとるさんのコロボックル物語シリーズ(だれも知らない小さな国)が有名です。
一般的には本作品よりコロボックル物語の方がメジャーなのかな。
でも私には、小人たちの自給自足の生活の面白さや、戦争が背景になっている大人っぽい話であったことから、断然、「木かげの家の小人たち」の方がお気に入りでした。

原作再読

とはいえ、「木かげの家の小人たち」を読んだのはあまりに昔過ぎて、実は今ではストーリーの大部分を忘れてしまっています。
そこで今回この記事を書くにあたり、「木かげの家の小人たち」とその続編の「くらやみの谷の小人たち」、それに引き合いに出した「だれも知らない小さな国」、「床下の小人たち」の4作品を再読してみました。
ひとつの記事を書くにあたりここまでしたのは「妖精作戦」以来ですね。

大人になっての感想

再読してみると正直、「くらやみの谷の小人たち」は「木かげの家の小人たち」よりはだいぶ落ちる、というか毛色の違う作品でした。
個人的には人と共存している感じがよかったのですが、「くらやみの谷の小人たち」はそうではありませんでした。
一方、人間の生活に依存しているという点で「床下の小人たち」は「木かげの家の小人たち」に近いのですが、人間と小人との関係が全く違う(前者は人間のものを勝手に借りて(=盗んで)いる、後者は人間の厚意でもらっている)ため、作品中で「小人」というものが暗示しているものも全く違う気がします。
また、「だれも知らない小さな国」が一番若年層向けの話なのですが、改めて読んでみると、序盤で戦争の話があったり、高速道路建設を阻止する話があったり、大人の鑑賞にも耐える作品であったのが意外でした。
「だれも知らない小さな国」は?十年ぶりの再読で、評価が上がった作品ですが、個人的にはやはり「木かげの家の小人たち」の重苦しさが一番心に残ります。

ラジオドラマとしての出来の良さ

「木かげの家の小人たち」を再読して気が付いたのは、当時非常な長編に思えていた本作が意外と簡単に読めてしまう分量であったことです。
そして、ラジオドラマはその原作「木かげの家の小人たち」の後半部分を中心に前半のエピソードを盛り込む形で再構成されているのですが、1時間で意外とよくまとめられた作品であったことにも気が付きました。
そのラジオドラマとしてのまとまりの良さから、格付けを”-”付きではありますがAAAにしました。
とくにゆりが病気になりミルクを自分で飲んでしまう部分など、当時の原作を読んでいた時の気持ちをほんの少しだけですが思い出しました。

コップ1杯のミルクが表すもの

それにしても大人になって思うのは結局、小人とかコップ一杯のミルクって何だったのだろうということです。
小人たちはたった一杯のミルクを用意するだけで家にいてくれます。
でも小人たちがいるからって、人間側には現世的なメリットは何もないのです。
座敷童みたいにその家に幸運を運んでくれることもないようです。
戦時中で、自分たちの食糧すらままならないのに、敵国生まれの小人にミルクをあげるのはおかしい、と非難する信(ゆりの下の兄)の発言ももっとも、というより、自分がそのような立場であればそう発言してしまう気もします。

守らなければいけない何か

作品中で幼いゆりはミルクの調達に相当苦労することになります。
それについてゆり自身が、自分が小人たちにミルクを運ぶことは「父が世の中に迎合せず自分の考えを変えようとしないことと何かつながりがあるような気がする」というようなことを言っています(ちなみにこのセリフは原作では母親・透子のもの)。
また、作品中に出てくるもう一つの不思議な生物であるアマネジャキは終盤、「コップ一杯のミルクは、人間がどんなちっこい命でも守り続けねばなんねえという心を忘れないためのミルクでもあんだ。」と言っています。

厳しい時ほど正論が必要なのかも

個人的にはコップ一杯のミルクというのは人の心の余裕のようなものを表すものであり、どんなに自分のことで精いっぱいの時であっても、自分が生きるためには仕方がない時であっても、切り捨ててはいけないものがあり、その象徴が「コップ一杯のミルク」のような気がします。
全く分野は違いますが、早稲田大学ラグビー部の名指導者であった大西鐡之祐さんの「闘争の倫理」に一脈通じるものがあると感じます。
大西さんは戦争の現場というような自分の生き死にがかかるような究極の場面であっても、激情に流されずに、人としてやってはいけないことを判断できるようにならなければならないと考えました(そのために手段としてスポーツというものをとらえていました)。
そうした本当の厳しい現場であっても守らなければならない何か、を考えさせてくれる作品だと思います。

そんなことより楽しんでほしい

…いつもより一層一人よがりな記事になってしまいました。
子供の頃の私はそんなややこしいことは考えず、素直にこの不思議な世界を楽しんでいました。
それだけでも十分だと思います。
それにしても「木かげの家の小人たち」を紹介するのに大西鐡之祐さんを持ち出すのって、日本中でも私一人だろうなあ。

多様なキャスト

さて、本作品の主役であるゆりを演じているのは女優(当時子役)の広瀬珠美さん。
その後、受験の際に、一時期、芝居から遠ざかっていたそうですが、今でも劇団”Area-Zero”で演劇活動をされているそうです。

(外部リンク)http://www.area-zero.biz/sub1.html

また、本作品はゆりの家族と、小人の家族の二つの家族が舞台となるのですが、小人の家族のお父さんであるバルボーの役を何と元プロボクサーのガッツ石松さんが演じていらっしゃいます。
正直、今回、?年ぶりの再聴するまでガッツさんだと気が付きませんでした。
失礼ながら意外と自然で上手い演技です。

ドラえもん、じゃないよ

また、アマネジャキ役はドラえもんの初代声優として有名な大山のぶ代さんです。
コテコテといえばコテコテな配役ですが、やはりぴったりです。
大山さんといえば青春アドベンチャーでは「封神演義」を思い出します。
声だけで視聴者をファンタジーの世界に持っていくことができる力はさすが大山さんです。
「ミヨリの森」の記事でも書きましたが、ファンタジーな作品に視聴者をうまく引っ張り込めるかはプロの声優さんの技量にかかっている部分が大だと思います。

納得のスタッフ

スタッフは脚色が岡本螢さん、演出が笹原紀昭さんの充実のコンビ。
岡本さんはいわずとしれたNHKの多数のラジオドラマの脚色を書いているベテラン。
ファンタジーな作品のイメージが強いですが、既に紹介した作品では傑作「最後の惑星」の脚本も担当されており、ハードな作品もさすがの技量です。
笹原さんは「脱獄山脈」、「A-10奪還チーム出動せよ」などのエンターテイメント性の高い傑作を多数担当されていますが、本作品のような落ち着いた作品も見事。
そして音楽を担当されているのが、タレントとしても有名だった作曲家の三枝成彰さん(当時は三枝成章)。
この作品が堅実ながら原作の雰囲気を壊さない良作になっているのはスタッフの力が大きいと思います。

【笹原紀昭演出の他の作品】
アドベンチャーロード期を中心に多くの傑作アクション作品を演出された笹原紀昭さん。
演出作品はこちらに一覧を作っています。


Hirokazu

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