1990年8月に「サウンド夢工房」の中で3週に亘って放送された「ダミーヘッドによる恐怖の館」。
その第2週目がこの「恐怖の館・欧米編」でした。
演出家は第1週「日本古典編」の笹原紀昭さんから上野友夫さんにバトンタッチ。
脚本や音楽、出演者もガラッと変わり雰囲気も一新。
ホラー作品を1話15分完結で放送するという基本フォーマットは変わりませんが、作品印象は「日本古典編」とはほぼ別と言って良いと思います(ちなみに翌週の「日本現代編」の雰囲気もまた違います)。
上野友夫さんといえば「サウンド夢工房」の前番組である「アドベンチャーロード」で少年探偵団シリーズを演出されていた方。
さらに遡ればNHK第一の「連続ラジオ小説」時代から明智小五郎シリーズを作り続けていたわけですが、本作品のスタッフもこの少年探偵団シリーズと同じ「上野組」の面々。
ついでにキャストも羽佐間道夫さんや青砥洋さんといった上野作品の常連陣で固めています。
また、上野組では「ドールズ~闇から来た少女」というホラー作品もつくっているわけですが、本作品は結果としてこれらとほぼ同じ雰囲気。
ホラーとして怖くないわけではないのですが、そこはかとなく漂う昭和感が作品の印象をとてもマイルドなものにしています。良くも悪くも。
少なくとも「欧米編」というタイトルから想像されるバタ臭さは感じません。
さて、本作品で扱っている作品は以下のとおりです。
短編の原作小説を15分枠に押し込めているのですが、実際聞いてみると意外とダイジェスト感のない仕上がりになっており、脚本家の腕を感じます。
全5編のうち3編(吸血鬼、サラの墓、カーミラ)がいわゆる吸血鬼もの。
吸血鬼ものの嚆矢といえばブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」ですが、実は上記のうちジョン・ポリドリの「吸血鬼」と「カーミラ」はドラキュラ以前に書かれた小説。
特に「吸血鬼」については、最初聞いたときに「吸血鬼ものとしてはヒネリがないなあ」という失礼な感想を持ってしまったのですが、こっちの方が先だったんですね…
また、「カーミラ」については2018年に後番組である「青春アドベンチャー」の中で15分×5回で再度、ラジオドラマ化されています。
このように短編として紹介された作品が、後年、同じ系列の番組で長編として再ラジオドラマ化された例としては、ほかに「名馬 風の王」(1990年サウンド夢工房「夢のたてがみ」内(※)→1999年青春アドベンチャー)くらいしか思いつかないのでレアだと思います。
その他の2編は魔術ものとゾンビもの。
一見、吸血鬼ものばかりにも見えますが、舞台や背景がバラバラで意外とバラエティに富んだラインナップ。
作品選択にセンスを感じました。
(※)「夢のたてがみ」は最終回しか音源を所有していないため確認できませんが資料より推測しました。
最後に出演者についてですが、上記のとおり各話とも羽佐間道夫さんと青砥陽さんが主演格。
その他、小山かつひろさん、松坂隆子さん、逸見慶子さんが出演されています。
そしてなんといっても語りが来宮良子さんなのが嬉しい。
同時期のNHK-FMのラジオドラマでは「A-10奪還チーム出動せよ」(1987年10月「アドベンチャーロード」)や「遠い星から来たノーム」(1993年1月~「特集サラウンド・アドベンチャー」)などに出演されていますが、上野友夫さん演出作品にはほとんど出演されていなかったはずです。