
山猫の夏 原作:船戸与一(アドベンチャーロード)
山猫がやって来たあの夜のことだけは忘れはすまい。
1982年11月19日、おれの働くレストラン「蜘蛛の巣」の奥のバー。
完璧なブラジル語を話す、その野獣のような日本人はいきなり金を渡し言い放ったのだ。
「今から俺はお前を雇う。」
なんで俺なんだ?
「俺にはブラジル人のわからねえ言葉を使える奴が必要なんだ。それも若くて希望のねえやつがな。」
山猫のような男を見るのは初めてだったし、あんな人物が存在することさえ、俺には信じられなかったのだ。