逆光のシチリア 作:並木陽(青春アドベンチャー)

格付:B
  • 作品 : 逆光のシチリア
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : B+
  • 分類 : 歴史時代(海外)
  • 初出 : 2024年5月27日~6月7日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 作  : 並木陽
  • 音楽 : 川田瑠夏
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 加藤和樹

1859年。貧しい身分から身を起こし弁護士として大貴族に取り入ることに成功。
美しい令嬢ペトロニラの関心も得、自分の立身出世のチェックメイトも近づいている。
アウレリオは得意の絶頂にあった。
しかし、公爵の別荘で過ごすペトロニラとのひと夏に2人の男女と出会ったことにより彼の運命は変わりだす。
ひとりは公爵の農地管理人の息子ベネデット。
もうひとりは英国から来たインゲストル子爵夫人アリス。
激動のシチリアで彼らの運命はいかに。


2018年から青春アドベンチャーにて年1本ずつ制作されている並木陽さんによるオリジナル歴史ドラマ。
その第7弾がこの「逆光のシチリア」です。

革命つながり

過去6作品の中で敢えて時代的な関連性がある作品を挙げるとすれば「1848」。
「1848」は1848年にオーストラリアで起きた三月革命を舞台にした作品ですが、これがヨーロッパ全体に及んだ(諸国民の春)結果、イタリアで起きたのがローマ共和国の建国。
ローマ共和国自体は早期に崩壊しましたが、ハプスブルク家の権威低下は著しく、その後のサルディーニャ王国によるイタリア統一を招くことになります。
そのきっかけとなった1860年のジョゼッペ・ガリバルディによるシチリア征服の時代を舞台としているのがこの「逆光のシチリア」です。
ただしガリバルディは本作品には全く登場しません。
(他の同時代を扱った青春アドベンチャー作品はこちらをご参照ください。)

イタリア統一運動のうねり

本作品の主人公アウレリオは貧しい生まれからのし上がる手段として公爵令嬢ペトロニアに近づく野心家であり、この辺はスタンダールの「赤と黒」を彷彿とさせます。
そして、その過程で公爵の農地管理人の息子ベネデットと知り合い、シチリアの独立運動に身を投じていきます。
ただし本作品の彼はその前哨戦となるパレルモ蜂起には参加するもののガリバルディの征服戦に直接加わることはありません。
この辺は聴いてのお楽しみなのですが、1860年後の彼は活躍の場をイタリア本土に移し全く違う立場に立つことになります。
そして再び舞台がシチリアに戻ることになります。

政治劇とは少し違う?

ただ本作品は大きな歴史の流れを描く歴史ものの比重より、個人間の人間関係のありようを描いたパーソナルな要素が強い作品。
上では「赤と黒」を例に挙げましたが、特殊な立場で異国に乗り込むという意味では「ペテルブルクから来た男」なども想起されます。

心変わりの理由は?

ただ個人的な感想としてどうしても気になるのが、序盤に起きるアウレリオの心変わりの理由。
ゴリゴリの野心家が祖国の独立を夢見る理想家へと変貌する原因にあまり説得力のある説明がなかったような…
この辺、転身の仕方は真逆ですが「ハプスブルクの宝剣」のような鮮烈な出来事が欲しかった。
また彼が前半最後に辿り着いたまた違った境遇についてもアウレリオの主体的な決断というより状況のなせる技という側面が強いとは思うのですが、あまり説得力のある理由が示されたようには思えませんでした。
そういえば別脚本家の作品ですが「太陽の城 月の砦」の主人公の変節もやや情緒的だったような。
この辺は時間制限のあるオーディオドラマの限界なのかもしれません。

少しロマンティックすぎる

ついにいうと彼と対になるキャラクター、ベネデットの変心の方はクリーンにその理由が明らかになるのですが、これはどうなんだろう、納得できるかは人を選ぶ気もする。
本作の主なファン層であろうミュージカル・宝塚等の観劇が好きな女性層には訴求するのかもしれませんが…
まあ本作品は上記のとおり政治劇、戦争ものではなく、そうでないことにこそ価値がある作品なのでこのようなロマンティック理由がふさわしいのかもしれません。
ロマンティックという意味では余韻のある長めのエピローグ的部分も効果的だったと思います。

加藤和樹さん初主演

さて本作品の主演は歌手・俳優の加藤和樹さん。
「ハブスブルクの宝剣」や「青髭公と五番目の花嫁」ではその男っぽい声にマッチした威厳のある役柄でした。
本作品のアウレリオは前半では頭でっかちで線の細い青年だったのですが、後半、それなりにヤサぐれた感じになり起用した理由がよく分かるキャスティングでした。
一方、ヒロイン(多分)のペトロニラを演じるのは元宝塚歌劇団所属の愛月ひかるさん。
宝塚では男役でしたが本作品では令嬢役。でも勝ち気な令嬢でどこか男役ぽさも感じました。

前回とは違う印象の役

また「青髭公と五番目の花嫁」でも加藤さんと共演した真彩希帆さんもご出演。
「青髭公と五番目の花嫁」では加藤さん(の演じる役)と真彩さん(の演じる役)は貴族と村娘だったのですが、本作では革命家と貴族、そして最終的には主人と護衛(兼下僕)?。
関係性が全く違うのが面白いです。
違うといえば田代万里生さんが演じるベネデットも、ひたすら誠実だった「ハプスブルクの宝剣」のフランツとは違って結構な変節漢。
これはこれでイイ感じです。

今回の音楽は川田瑠夏さん

最後に本作品の音楽を担当した川田瑠夏さんについてひとこと。
従来、並木陽さんの作品の音楽は日高哲英さんが音楽を付けるのが通例だったのですが今回初めて川田さんが担当。
もちろん川田さんも青春アドベンチャーに有数に音楽を提供されている方なので違和感はないのですが、川田さんの音楽を聴いていると作品全体が何となく今城文恵さんぽく感じられるのが不思議。
単に「ウィル」の印象が強いからなのかもしれませんが、音楽が作品の雰囲気に与える影響の大きさを再確認しました。
そういえば川田さんは「レディ・トラベラー1920」も担当されているんですよね。
偶然だと思いますがなんだかいい感じです(ネタバレ防止のために曖昧に書いているのでわかるづらいですね)。


【並木陽原作・脚本・脚色作品一覧】
中世~近代ヨーロッパを舞台とした多くの作品を提供された並木陽さんの関連作品の一覧はこちらです。


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