制作統括(プロデューサー)でみる青春アドベンチャーの歴史(その2・2005年~2021年)

制作統括(プロデューサー)ごとに期間を分けて青春アドベンチャーの各時代を振り返る企画の2回目の記事です。
1回目の記事はこちらをご覧ください。

制作統括による時代区分(その2)

制作統括:青木信也

開始:迷宮百年の睡魔(2005年7月)
最終:ハッピーバースデー(2007年1月)

非常に作品数の少ない2005年からスタートし、ほぼ2006年1年を制作統括として担当されたのが青木信也さん。
「2006年の新作一覧」でも書きましたが、この年は作品内容が非常にバラエティに富んでおり、かつエンターテイメント作品として完成度の高い作品が多いのが特徴です(あくまで個人の感想)。
この突然変異的に出現した短い「春」(そういえば「プラハの春」もこの時期の放送でした)には青木さんの影響があるのかもしれません。
そして、7月ごろが多い青春アドベンチャーでは異例なのですが12月に交代となりました。
他局関連では、谷口卓敬さん(大阪局「アクア・ライフ」)、家喜正男さん(名古屋局「風神秘抄」)に加え、いいじまあつのりさんが岡山局から参加されています(「風になった男」)。

制作統括:六山浩一

開始:おいしいコーヒーのいれ方Ⅹ~夢のあとさき~(2005年12月)
最終:ラジオの前で(2007年6月)

「おいしいコーヒーのいれ方Ⅸ~聞きたい言葉~」(2005年12月)の後から登板した六山浩一さんはこの後、連続テレビ小説「ウェルかめ」も制作されることになる方です。
最初の作品が直前の作品の続編「おいしいコーヒーのいれ方Ⅹ~夢のあとさき~」だったり、前時代の「精霊の守り人」の続編「闇の守り人」が放送されるなど、大津山潮さんと同様にショートリリーフ感の漂う7カ月間ではあります。
やはり期間が短いので担当作は7作品のみ。
地方局作品は「僕たちの戦争」(大阪局、遠藤理史さん制作統括)と「尾張春風伝」(名古屋局、家喜正男さん制作統括)。

制作統括:小松隆一

開始:哲ねこ七つの冒険(2007年8月)
最終:移動都市(2010年6月)

1998年の大阪局作品「少年漂流伝」で制作統括をされていた小松隆一さんが全体の統括に。
在任期間は約3年ですが、2008年・2009年は新作の数が少ない年でしたので、この期間の作品数はそれほど多くありません。
荒唐無稽な異世界を舞台とする作品ではなく、「ロズウェルなんか知らない」、「バスパニック」、「ごくらくちんみ」、「ゴー・ゴー!チキンズ」、「プリンセス・トヨトミ」、「ヤッさん」といった日常描写の濃い作品が多かった時期です。
この期間に小松さん以外に制作統括をされた方としては、大阪局作品で一井久司さん、六山浩一さん(前任の本局プロデューサー)、青木信也さん。
名古屋局作品で家喜正男さん、磯智明さん。

制作統括:小見山佳典

開始:ゴー・ゴー!チキンズ パート2(2010年7月)
最終:人喰い大熊と火縄銃の少女(2015年7月)

5年の長きにわたって制作統括を務められたのが小見山佳典さん。
過去2回あった新作激減の時期を乗り越え、この時代、制作数は完全に復調しました。
公式ホームページが現在の形にリニューアルされたのもこの時代(※その後、再度リニュアルされました)。
ちなみに当ブログがスタートしたのもこの時期です。
しかし何より最大の特徴は、制作統括の小見山さんが自ら演出を兼任した作品が6作品、存在すること。
制作統括と演出の兼任は、過去には極めて少なかったのです。
しかも、小見山さんの演出作品には大きな特徴があります。
まずオリジナル脚本の長編であること。
次の藤井靖時代を含めて、演出された作品のうち「恋愛映画は選ばない」と「あなたがいる場所」以外はすべてオリジナル。
これは原作付きの多い青春アドベンチャーでは異例です。
そしてほとんどの作品(「恋愛映画は選ばない」と「あなたに似た自画像」以外)でオリジナル劇伴をつけていること。
しかも「泥の子と狭い家の物語」(山下康介さん作曲)以外はすべて澁江夏奈さん作曲です。
脚本家も割と偏っているので独特の濃い作品群になっています。
なお、この時期の他の制作統括の方は、土屋勝裕さん・櫻井賢さん・青木信也さん(名古屋局)、越智篤志さん・山本敏彦さん・岡本幸江さん(大阪局)、反町聡さん(福井局)。
後藤高久さん(「時はそよ風、時はつむじ風」の演出の方ですね)が制作統括をされた「1985年のクラッシュ・ギャルズ」が地方局の作品なのかどうか判然としません。

制作統括:藤井靖

開始:白狐魔記 戦国の雲(2015年8月)
最終:(2021年9月現在継続中)

そして現在、青春アドベンチャーの制作統括を務められているのが藤井靖さん。
すでに小見山さんを超える6年もの期間、制作統括を務めており、その間、聞き逃し配信への対応、スタッフブログ等を通じた情報発信、1990年代の作品の再放送、放送時間の変更など多くの変化がありました。
演出陣も、個性的な作品を多く手掛けられている真銅健嗣さんが大阪から復帰されたほか、木村明広さん、吉田努さん、吉田浩樹さんなどなど、過去に良作を演出されている方が良いバランスで配されています。
制作統括を降りた後も演出を続けられている小見山佳典さんの存在も良いアクセントになっています。
…が、藤井靖さん制作統括時代の最大の特徴は何といっても制作統括でありながら膨大な作品を藤井さん自ら演出されていること。
1990年代にも川口泰典さんが極めて多数の作品を演出されていましたが、あの頃は別に制作統括がいたはず(※当時、川口さんが制作統括を兼任されていたという話の聞きます)で、負担はそれ以上なのではないでしょうか。
これは、現代日本の社会全体の変化、すなわち、ある程度の年齢になったら現場を離れて管理に専念する、というピラミッド型の人口構造を前提とした働き方が通用しなくなっている社会情勢にリンクしているような気もしますが、何にせよ、大変なことです。
作品内容面でも、演出と制作統括を兼任され始めた頃は路線に迷いも感じましたが、「1492年のマリア」以降はミュージカル俳優の多用、西洋歴史ものへの傾倒、という独自の色が確立されました。
その成果は「また、桜の国で」(井上芳雄さん主演)や「ハプスブルクの宝剣」(中川晃教さん主演)などの大作に結実していると感じます。

やはり影響はある?

いかがでしたでしょうか。
やはり制作統括の方の動きと番組の状況の変遷は(どちらがどちらに影響を与えたかはともかく)大きくかかわっているように感じます。

Hirokazu

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