- 作品 : 死ぬには手頃な日
- 番組 : FMアドベンチャー
- 格付 : A+
- 分類 : サスペンス
- 初出 : 1985年2月4日~2月15日
- 回数 : 全10回(各回10分)
- 作 : 矢作俊彦
- 演出 : 音成正人
- 主演 : 宇崎竜童
本作品「死ぬには手頃な日」はNHK-FMのラジオドラマ番組「FMアドベンチャー」で放送されたラジオドラマで、FMアドベンチャーとしては最後の作品(同年4月から「アドベンチャーロード」に衣替え)、そしてFMアドベンチャー17作品の中で唯一のオリジナル脚本の作品です。
矢作俊彦さんによるオリジナル脚本
脚本を書いたのはハードボイルド小説・冒険小説のほか、漫画や映画なども手がけた矢作俊彦さん。
矢作さんは1982年に同名の小説を発表しているのですが、本作品はその小説のラジオドラマ化作品ではなく、その「テイストを基に書き下ろされたオリジナル作品」という位置付けです。
この辺の経緯は2015年放送の「今日は一日ラジオドラマ三昧」(番組内で本作品の第6夜「陽のあたる大通り」が放送された)の番組ガイドとして、音楽ライター濱田高志さんが書かれたこちらのページ(外部リンク)が詳しいです。
というか、このガイドさえ読めばこんなブログは読む必要がない気もしますが…まあ、それはともかく気を取り直して進めましょう。
徐々に明かされるシチュエーション
本作品は各回1話10分で完結する短編オムニバス形式の作品。
各回にストーリー的なつながりはありません。
登場人物は宇崎竜童さん演じる「男」と、蜷川有紀さん演じる「女」だけ。
この男女は、一緒に行動する間柄だったり、昔の知り合いだったり、行きずりの関係だったりと回によって様々なのですが、2人の関係性、置かれている状況等については各回とも説明なくスタートします。
そして、多少場面転換があるとは言え、基本的にこの2人の会話だけで話は進んでいき、会話の内容から自然と場面設定がわかっていく仕掛け。
多少音楽やSE等で演出されているだけで基本的には会話劇の体裁ですが、この「シチュエーションが徐々に明かされていく」という展開が飽きさせない要素になっています。
アウトローの美学・ニヒルな視線
また、内容的には上記のジャンル分類では「サスペンス」にしていますが、これは適当なジャンルがなかったから仮に選んでいるだけで、一言で言うとハードボイルドでしょうか。
登場人物としてアウトローの男が多く登場しますし、舞台も夜の街が多い。
ただハードボイルドといっても暴力的なシーンはほとんどなく、悪漢小説と言うほどダークな作風でもない。
特殊な世界に生きる男女の、人生における「ある出来事」が多少のニヒリズムや憂い、痛みとともに淡々と描かれていきます。
登場人物たちは精神的にも物質的にも余裕がない状況ですが、作品印象はあくまでドライ、そしてどこかオシャレな風もなきにしもあらず。
大人向きの作品が多かったFMアドベンチャーのラストを飾るにふさわしい作品でした。
各回の内容一覧
さて、本作品各回のストーリーは以下のとおりです。
兄貴分の女に手を出してしまったチンピラ。兄貴分が少年刑務所を出所すると聞いて…
第2夜 : 札幌セカンドハウス
気が付いたら朝8時半。38歳の男が目を覚ましたのは見知らぬ20歳の女の部屋だった。
第3夜 : 歳月
風紀係のお巡りと女。彼らはこの取調室が初対面の場ではないようだが…
第4夜 : ホテル
ラブホテルの男と女。風呂場で隣室の男女の声が聞こえることに気が付いて…
第5夜 : After you’ve gone
真夜中、ピアノバーで男を待つ女。ピアニストにリクエストした曲は。
第6夜 : 陽のあたる大通り
道でばったり5年ぶりに出会った男女。男は女を食事に誘うが…
第7夜 : 最後のチケット
発掘に赴いた政情不安な国の空港で声を掛けてきたのは、かつて夫だと思っていた男。
第8夜 : A列車で行こう
架線故障で列車が止まった。もう間に合わないかもしれない。いや行くべきでないのか。
第9夜 : 猫のまま死ぬな
現金300万とパスポートを持って国外逃亡を図る男。女には車を降りろというが。
最終回 : 酒場
酒場で語り合うとママと客。二人は実はもと夫婦で、ママは息子を匿っているようなのだが。
宇崎竜童さん特別出演
本作品の出演者は宇崎竜童さんと蜷川有紀さん。
言わずと知れたミュージシャンの宇崎さんですが、上記の濱田さんのガイドによれば矢作さんの才能を高く評価していた宇崎さんが「彼が書き下ろすならば」という条件付きで出演したのだそうです。
また、女優かつ画家でもある蜷川有紀さんは、詩人の水野陽美さんを父に持ち、妹が女優の蜷川みほさん、伯父が画家の水野富美夫さん、叔父が演出家の蜷川幸雄さん、従妹が写真家の蜷川実花さんという芸術一家のご出身。
2018年の結婚後は、作家(元東京都知事)の猪瀬直樹さんの奥さまでもあります。
ちなみに、叔父の演出家・蜷川幸雄さんは、本作品より約5年前の1982年に、NHK-FMのもう1系列の帯ドラマ番組「ふたりの部屋」で放送された「北の道化師たち」に俳優として出演されています。
コメント
FMアドベンチャーの「死ぬには手頃な日」、昔カセットに録音した物を持っていたのですが無くしてしまいました。蜷川有紀さんのちょっと舌足らずな甘い声がとても素敵なラジオドラマでした。再放送されないかな~
tamiさま
コメントありがとうございます。
「死ぬには手頃な日」はFMアドベンチャー唯一のオリジナル脚本でスタッフ渾身の一作だったと思います。
こういう鋭い企画を今後も期待したいですね。