- 作品 : 四日間家族
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : A+
- 分類 : サスペンス
- 初出 : 2024年10月28日~11月8日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 川瀬七緒
- 脚色 : 三上幸四郎
- 演出 : 川岡ゆきみ
- 主演 : 土村芳
暗く湿っぽく、機械油やタバコの匂いがしみ込んだオンボロのバン。
車内は赤いガムテープで内側からしっかりと目張りされた。
そう、ここが私たち4人の人生の最後となる場所だ。
鉄工所を倒産させた中年男性・長谷部康夫、コロナ禍で追い込まれたスナックのママ・寺内千代子、陰気な高校生・丹波陸斗、そして今は「坂崎夏美」と名乗っている私。
お互いの素性も事情も知らないわたしたち4人。だが集まった目的だけは一致している。それは自分たちの人生の終焉、
しかし、誰一人いないはずの暗い山中に突然ひとりの女が現れたことにより私たちの運命は変わった。正確にはひとりの女とひとりの赤ん坊によって。
始まったのは4人の終焉の物語ではなく、4人の新しい人生の始まりの物語だったのだ。
本記事は2024年10月~11月にNHK-FM青春アドベンチャーにて放送された「四日間家族」の紹介記事なのですが、いきなりの寄り道から。
なぜか他作品の紹介から
近年の青春アドベンチャーで2022年1月に放送された「六人の嘘つきな大学生」がまれにみる良作であったのが異論が少ないところだと思います。
実際、番組の30周年を(勝手に)記念して。「六人の噓つきな大学生」放送の2か月後にスタートした青春アドベンチャー全466作品アンケートでも、並みいる過去の名作の中にあって、直近2022年の作品で唯一ベスト30に入る得票でした。
現代日本を舞台にした正統派のサスペンス作品は意外と青春アドベンチャーでは少ない中、快挙だったと思います。
「六人の噓つきな大学生」と比較してしまう
「六人の噓つきな大学生」はその後、舞台化、漫画化、映画化され、その原作の強さが証明されているのですが、個人的にもそれ以降、青春アドベンチャーを聴くに際し「六人の噓つきな大学生」を基準として聴いている感がありました。
勝手な推測ですが作り手側もその影を追い続けているような気がしており、①現代日本が舞台、②日常からスタートしてパニック状態になる、③群像劇と言っていいほど登場人物たちのキャラが立っている、という方向性を指向した作品が多いのように思います。
例えば「滅びの前のシャングリラ」(2022年)、「うるはしみにくし あなたのともだち」(2023年)、「死にたがりの君に贈る物語」(2024年)など。
どれも良作ですが正直なところ「六人の~」には及ばない印象。
そこに登場したのが「六人の~」でヒロインを嶌衣織を演じた土村芳(つちむら・かほ)さんを主演に据えた本作品です。
4人の男女と赤ん坊
状況設定は冒頭のとおり。
ネットで募集した集団自殺の呼びかけに応じて集まった年齢も経歴もバラバラな4人組が思わぬ事件に巻き込まれます。
やむを得ず集団自殺はいったん中止し、「もう1人」とともに逃亡を始める4人。
犯罪者から逃げるつもりだったのに気が付くと世間から追われる事態に。
切り抜けているのは実質2人
この危機を4人は機転を利かせて切り抜ける…と言いたいところですが、少なくとも前半で実質的に役に立っていたのは、ネット担当の陸斗と悪知恵担当の夏美だけのような気もする。
後半、康夫と千代子の活躍する場面もありますが、どうしても賑やかし要員にとどまってしまったように感じました。
夏美≒嶌さん
それにしても土村芳さんが演じる夏美と「六人の~」で同じ土村さんが演じた嶌さんが割と陰キャで似たところがあることからか、聴いていてなんとなくダブってしまうのはよいのか悪いのか。
というか素直で努力家だった嶌さんの裏の顔を聴かされているようで妙な背徳感があります…(あくまで個人の感想です)。
他の作品の話をしすぎている感はありますがそれだけ土村さんの演技が印象的だということでもあります。
トリビアの泉
印象的といえば集団自殺の主宰者の長谷部を演じる高橋克実さんも楽しい。
2002年スタートのフジテレビの雑学バラエティ番組「トリビアの泉」で有名になってしまった高橋さんですが、もともとはもちろん役者さんで、しかもTVで有名になる前の1990年代に結構多くの青春アドベンチャー作品に出演経験があります。
当ブログではランドオーヴァーシリーズや「嘘じゃないんだ」、「モー!いいかげんにして!」などを紹介済み。
でも青春アドベンチャーでは久しぶりの出演だと思います。
その他のキャストはやはり千代子と陸斗を演じる増子倭文江(ますこしずえ)さんと佐藤結良(さとうゆら)さん。
物語の大部分はこの4人を中心に展開します。
久々の良作サスペンスだが
で結局、作品全体の評価なのですが…
まず序盤、なぜ4人が早々に集団自殺を取りやめてしまったのかがよくわからない。
半端な気持ちで集まっていないはずなのですが、あっさり赤ん坊を助ける方向にかじを切る4人組が良くも悪くもいい人すぎる。
というか、夏美以外の3人について正直アクというかマイナスの側面が見えてこないのが少し残念。
しかしその後、犯人グループから追われ、世間にさらされていく姿は青春アドベンチャーの長い歴史でも有数のスリリングさ。
中盤の盛り上がりはなかなかのものだと思います。
ただ、終盤、特に最終回が…
あまりに陳腐な展開と「地獄に落ちてもいい」とか「本当の悪い組織をつぶす○○」とか言った臭いセリフがどうにも残念でした。
猪ノ口の心変わりもよくわからないし。
この辺は原作ではもう少し詳しく書かれており、青春アドベンチャーの時間制限でこうなったのではないかという気もします。
原作を確認してみたいと思います。
ダブル乱歩賞
さて、作り手に話を映しますと、本作品の特徴は原作者の川瀬七緒さんと脚本家の三上幸四郎さんの両方が、なんと江戸川乱歩賞の受賞者であるということ。
つまり三上さんは小説家でもあるわけです。
青春アドベンチャーでは過去、「優しい死神の飼い方」(2022年)と「シャドー81」(2023年)という外連味のありすぎる作品を担当されていたのですが、正直あまりピンと来ませんでした。
本作品は三上さんご自身の主戦場に近い内容だからかとてもいい感じで、少なくとも「シャドー81」の印象は払しょくしました。
今後が楽しみです。
川岡ゆきみさんの単独初演出
一方演出面では、第5回の最後BGMから出演者紹介にそのまま入る演出、「A-10奪還チーム出動せよ」みたいで私は結構好きです。
惜しむらくは上記のBGMからの入り方だけでなく、出演者紹介も「今週の出演者は…」でやってほしかったです…って相当マニアックなことを書いてしまってすみません。
あとどうでもよい細かいことなのですが本作品は豊島署とか所沢駅とか場所がすべて実名です。
この辺、なぜかNHKのドラマはぼかしがちなのですが、臨場感が出てとても良いです。
本作品の演出は青春アドベンチャーでの単独演出はたぶん初めての川岡ゆきみさんです。
今後も期待したいですね。
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