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六人の嘘つきな大学生 原作:浅倉秋成(青春アドベンチャー)

  • 作品 : 六人の嘘つきな大学生
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AAA-
  • 分類 : サスペンス
  • 初出 : 2022年1月17日~1月28日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 浅倉秋成
  • 脚色 : 藤井香織
  • 演出 : 小島史敬
  • 主演 : 奥野壮

僕たちは理想のチームになれた…はずだった。
今を時めくIT企業スピラリンクスの最終選考。
僕たち6人の就活生に課せられたのはグループディスカッションだった。
幸い選考日までには時間がある。
しかもこれは落とすための選考ではない。
お互いを理解し、短所を補い、長所を生かしあう。
良いディスカッションをして会社をうならせて全員内定。
5,000人から選ばれたこの精鋭6名ならそれができるはずだ。
その確信はスピラの方針変更で採用が1名のみとなり、グループディスカッションがその1名をお互いで選ぶ場となってしまっても変わらなかった。
フェアな議論で全員が納得できる1名を選び出す。
そのためのルールも合意することができた。
こんな状況でさえ僕たちは協力し合うことができる。
僕たちは理想のチームになれたはずだったのだ…




これですよ、これ。
青春アドベンチャーはこんな感じの作品でいいんですよ…
それがこの作品を聴いたときの最初の感想です。

密室に6人

まず密室を舞台にしたセリフ劇というのがいい。
正直、これ、アニメ映えはしないですよね。
でも声だけのラジオドラマならば十分なシチュエーションです。
そしてそのメインとなるグループディスカッションが30分を1タームとしてテンポよく進んで行くのも良い。
青春アドベンチャーの1日15分という短い枠にあっています。
そして強いサスペンス調の内容もGood!
しんみりとしたストーリーはFMシアターに任せておけばいいんです。

外連味ありありの展開

それでは早速ストーリーを紹介します。
前半の展開は冒頭の粗筋から想像されるとおりです
冷静な議論から始まったディスカッションですが、あるアイテムの登場により、一部の登場人物の裏の顔が明らかに。
あんな奴に内定を取られるなんて納得できない!と急転、議論は荒れていきます。
しかしこの展開は中盤で急遽終了。
終盤は舞台も主人公も大きく変わるという大胆な展開。
サスペンス色が強かった前半と比較して、後半は犯人探しや「あるアイテム」探しを通じて真相の究明すことが目的となり、ミステリー色が強まっていきます。

サスペンス色が強いミステリー

ただし本ブログではあくまで「サスペンス」に分類しました。
それは本作品が複雑なトリックを解き明かすことをリスナーに要求するのではなく、大きな流れに乗って展開を楽しむ作品だ考えたからです。
つまり、ちょっと聞き逃すとトリックが全く分からなくなってしまうという推理ラジオドラマ特有の欠点もあまりあてはまらないとも言えます。

6人を聞き違えないように

ただラジオドラマならではの難しい点もあります。
ひとつは登場人物の容姿を描写することが難しいこと。
映像があれば容姿である程度のキャラクター付けを無言のうちに伝えることができますがラジオドラマでは声質と演技でそれを伝えないといけません。
もちろんナレーションやモノローグで伝える手もありますが多用すると著しくリズムを欠くのです。
本作品ではこの辺も問題なし。
恐らく原作以上にデフォルメされた喋り方にして、6人(男性4人、女性2人)の声を聴き間違えないように敢えて差をつけているように感じます。

キャラ一覧

ちなみに6人を演じる方は以下のとおり。
折角なので簡単なキャラ付けも併記します。
ちなみに大学名はラジオドラマでは省略されていますので原作から持ってきました。
大学名もイメージ付けには有用だし、どこの大学に通っているかは実は作中で重要な要素にもなるのですが、宣伝になる形で固有名詞を使えないNHKとしては断腸の思いでカットしたものだと思います。

役名 出身大学(追記参照) キャラ付け 俳優
波多野祥吾 立教大学経済学部 普通・いいひと 奧野壮
嶌衣織 早稲田大学社会学部 誠実・勤勉 土村芳
久賀蒼太 慶応大学総合政策学部 フェア・イケメン 東啓介
袴田亮 明治大学国際日本学部(※コメント参照) 体育会系・バランサー 福田薫
矢代つばさ お茶の水女子大学(国際文化) 才女・アグレッシブ 清水美沙
森久保公彦 一橋大学(経済学専攻) インテリ・孤高 菅原ゆうき

動機に微妙な違和感

さて、この記事、ここまでこの作品を絶賛してきたわけですが、残念に感じたところもあります。
全員の言動が大げさなのです。
確かに就活という人生の一大イベントの最中なので興奮状態にあることはわかります。
しかし、そもそもあんな選考をする企業ってどうなんでしょう。
学生たちもちょっと都合の悪い情報が暴露されただけで大騒ぎしすぎ。
そもそもこの作品の裏のテーマが就活の欺瞞を暴くことで、嘘に駆り立てられてしまう学生や企業の姿をとおしてそれを描こうとしているのかも知れませんが、登場人物たちの言動が極端すぎる。
その象徴が六人の中の一人○○で、最後に○○○が○○に言った「君は厳しすぎる。もう少し楽になってもいい」は全員に対して感じた感想です。
そしてその結果、○○の犯行動機が今一つ弱いというか、共感を持てないのが最大の問題と感じました。

違和感にも丁寧な回答

ほかにも細かい違和感を感じたところがいくつかあります。
でもよく聞いてみると、そういった事項も含めて伏線や読者が疑問をもつであろうことに、作り手側なりの回答が(回答に聞き手が納得できるかは別として)きちんと用意されていることに誠意を感じました。
○○の犯行動機も就活でおかしな精神状態にあるからなのでしょうし、序盤の嶌さんの涙もなんとなく理由がわかります。
そして作品タイトルのとおり「六人」全員に嘘や怒りや欲望があったという締めはなかなかお見事だと思います。

主演ふたりと主役ふたりに注目

さて、主役の波多野を演じるのはオスカープロモーション所属の俳優の奥野壮さん。
2017年第30回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでフォトジェニック賞及び明色美顔ボーイ賞を受賞したイケメンさんで、2018年9月に「仮面ライダージオウ」で主演デビューしました。
仮面ライダー主演俳優としては「元中学生日記」の佐野岳さん以来かな。
相変わらずイケメンの無駄遣いが続く青春アドベンチャーです。
一方、ヒロイン(?)の嶌衣織を演じるのは既に多くの映画、ドラマに主演経験のある女優の土村芳(つちむら・かほ)さん。

各回のタイトル

実は前半戦を通じて6人の中でもっともキャラクター像がクリアでないのがこのふたり。
この主人公ふたりが後半、どのような本性(?)をあらわしていくのか。
以下の各回タイトルからどう想像しますか?
是非最後まで聴いて頂きたい作品です。

  1. チーム結成
  2. いざ最終選考へ
  3. 憂鬱な告発
  4. 明かされる裏の顔
  5. 犯人をあぶりだせ
  6. 内定者決定
  7. 残されたファイル
  8. 蘇るあの日
  9. 放たれた真相
  10. 月の裏側

(補足)
原作小説の映画化・舞台化・漫画化が発表されました。
詳細はこちらをご覧ください。


(補足2)
当ブログ主催の2022年青春アドベンチャー・人気アンケートで、当作品が第1位の得票を得ました。
詳しくは別記事をご参照ください。






(2022/1/30追記)
コメントでアマゾンに各人のエントリーシートの画像がある旨のご指摘をいただきましたので、以下に各人が記載している学歴をそのまま記します。
若干ツッコんでみました。

  • 波多野祥吾:立教大学経済学部経済政策学科(特にひねりなし)
  • 嶌衣織:早稲田大学文学部社会学科(ラジオドラマと設定が違う。ちなみに早稲田に実在するのは文学部社会学コースと社会科学部。)
  • 久賀蒼太:慶応大学総合政策学部総合政策学(なぜか慶應義塾大学と正式名称で書いていない。また末尾の「総合政策学」って?)
  • 袴田亮:明治大学国際日本学部国際日本学科(2008年入学なので、国際日本学部の1期生!)
  • 矢代つばさ:お茶の水女子大学文教育学部グローバル文化学環(わかりづらい)
  • 森久保公彦:一橋大学社会学部社会学科(これもラジオドラマと設定が違う)

(2022/8/24追記)
原作小説「六人の嘘つき大学生」を読みました。
全体的な感想としては、オーディオドラマ版は時間の制約のある中、原作の主要な要素を削らず、かつイメージを壊さずによくまとめていると感じました。
また、一度伏線を聞き漏らすと致命的になりかねないという、ミステリー系のオーディオドラマが持つ宿命に関しても最大限の配慮をしていると思います。
結果として全体が伏線だらけになってしまったり、犯人が例のキーワードを何度も連呼していたりするのはご愛敬でしょう。
また、キャストの声がキャラクターの性格にあっているのはやはり素晴らしい。
これは敢えてオーディオドラマを聞いてみる動機に十分なり得ると思います。
特に主役2人、波多野祥吾役の奧野壮さん、嶌衣織役の土村芳さんの演技は素晴らしいです。
また矢代つばさが細かく英語の単語を挟んだりするなどオーディオドラマの工夫もされていることがわかりました(ちょっと唐突だったけど)。
ただ、原作の重要な部分を占める「インタビュー」の時間を削ってしまっているので、6人の人間性(表も裏も)が深く描けていないのは残念なところ。
また、犯人が犯行を決意した懇親会の裏側に隠れていた優しさや、鴻上さんがあの選考方法を選んだ真意など十分に描かれていないところもあります。
「月の裏側」の話など原作ほど丹念にしみこませることができなかったエピソードも見受けられましたし、嶌さんの足が悪いという設定も残していれば彼らの裏の裏がより強調できていたかも知れません。
ただ、全般的にうまくまとめられており、6人の感情を込めて話す声を聞いてみたいという原作ファンにもお勧めできるオーディオドラマになっていると思います。
逆にオーディオドラマから入った方には物足りない部分の補完として読む価値のある原作だと思いました。

Hirokazu

オーディオドラマの世界へようこそ!

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    なぎーさま

    コメント&情報ありがとうございます。
    まだ放送中なので自分では原作の情報にはアクセスしすぎないようにしているので、助かります。
    それにしても明治大学、国際日本学部なんてあるんですねえ。
    中野セントラルパークのあのキャンパスか。
    2008年開設ということは袴田は開設初期の学生という設定なのかな。

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    お役に立てたなら良かったです。
    私も原作はまだ読まないようにしていたのですが、ながら聞きしていたら、名前と人物が頭に入らなかったので、少しアクセスしてしまいました。「試し読み」と履歴書で記憶できてより物語りに入れるようになりました。
    8話まで聞きました。ますます謎が深まって続きが待ちきれない!こんな感じは久しぶりです!

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    なぎーさま

    犯人の動機が個人的にはちょっと…でした。
    でも今日の最終回、私も期待しています。

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    最終回!
    ブルーな気持ちのまま 途中で聴くのをやめてしまった方、聞き逃し配信に間に合えばオススメしたいです。

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    広島主婦52ちゃいさま

    コメントありがとうございます。
    確かにあまり後味が良くなかった第9回で聴くのをやめるのは勿体ないですね。

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    広島ちゃいさま

    ご指摘ありがとうございます。
    本文は修正しました。

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