見習い魔女にご用心 ランドオーヴァーPart5 原作:テリー・ブルックス(青春アドベンチャー)

格付:AAA
  • 作品 : 見習い魔女にご用心 ランドオーヴァーPart5
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AAA-
  • 分類 : 異世界
  • 初出 : 2001年4月16日~4月27日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : テリー・ブルックス
  • 脚色 : 高山なおき
  • 演出 : 川口泰典
  • 主演 : 松本保典

シカゴの弁護士ベン・ホリデイが異世界ランド・オーヴァーの王になってから4年。
多くの出来事があったが、ベンや仲間たちの奮闘もあり、2年前の「大魔王の逆襲」の事件以降は、王国も落ち着きを見せ始めていた。
ベンが最愛の精霊ウィロウとの間にもうけた愛娘ミスターヤも、もう2歳。
人間と精霊のハーフであるミスターヤは、もう6歳より下には見えないほど成長した。
全てが順風満帆、穏やかな日々が続くと思えたランド・オーヴァーだったが、またしても不吉な出来事が起き始める。
発端は「妖精の霧の外、マーンハル王国の国王リダル」と名乗る人物がベンを訪問してきたこと。
彼はなんと、いきなりベンに王国の引き渡しを求めてきたのだ。
しかし、問題はリダルだけではなかった。
事件を背後から操っていたのは、ある意外な人物だったのだ。



本作品は、アメリカのファンタジー作家テリー・ブルックスの異世界ファンタジーシリーズの第5弾「見習い魔女をご用心」を原作とするラジオドラマです。

ついにシリーズ5作品目

青春アドベンチャーでは、1995年4月の「魔法の王国売ります」を皮切りに、本作品まで5作品がラジオドラマ化されました。
ちなみに第4弾「大魔王の逆襲」が放送されたのは1996年9月ですので、第1弾から第4弾までは1年半あまりの間に一気につくられたことになります。
一方、本作品の放送までには第4弾から約4年半のインターバルがありました。
この辺のタイミングはなかなか微妙で、実は本作品の原作が日本で出版されたのが1996年4月。
ラジオドラマ化が進行する中で当初ラジオドラマ化を想定していなかった第5弾が翻訳されたのではないかと思います。

川口泰典さんの憂鬱

本作品は「北壁の死闘」、「ブラジルから来た少年」、「ジュラシック・パーク」など数多くの傑作を演出された川口泰典さんの青春アドベンチャーにおける最後の演出作品です。
1993から1996年にかけて異常な割合の作品を演出されていた川口さんですが、1996年9月の「大魔王の逆襲 ランドオーヴァーPart4」を最後に急激に演出作品が少なくなり、1999年は「狩人たち」のみ、2000年こそ「エデン2185」など4作品を演出したものの、2001年は本作品だけでした。
川口さんが最後の演出作品にこの作品を選んだのは、第5弾のみラジオドラマ化できていないという心残りがあったからかも知れません。

精霊作戦

さて、作品の内容はいつもどおり。
またしてもランドオーヴァーに強大な敵が現れた…ように見えますが、実はこの「リダル」は今までの作品の敵役たちと比較すると、さして重要な役ではなく、実際、作中の登場時間も短めです。
しかし真の黒幕の策略に乗ってしまい、例によってベンの腹心である宮廷魔術師クエスター・スースと宮廷書記アバーナシーは、ベンから引き離されてしまいます。
しかも初登場のベンの娘・ミスターヤも誘拐されてしまう始末。
ただ今回は妻のウィロウが終始ベンと行動をともにするのが唯一の救いです。

最後にはパラディン

このような窮地であっても、ベンには切り札である王家の守護者・パラディンがいるのですが、実はこのパラディンこそがベンの最大の悩みどころ。
パラディンの持つ強大な力と暴力衝動に取り込まれて自分の人格が狂暴化してしまうことをこそ、ベンは最も恐れているのです。
そのため切り札のパラディンを使用することすら、ためらわざるをえない状況。
事件解決のかぎは暴力で敵を排除することではなく、ベンが黒幕の存在に気づくことができるかなのです。
この点については、実はこのベン・ホリデイ、今までの作品では「シカゴの辣腕弁護士」という触れ込みの割には、あまり鋭いところが見えないキャラクターであったのですが、本作品の終盤ではなかなかの推理を示し、面目躍如。
ただ、真相に気が付くのが第8回の終盤というのはやっぱり遅すぎますよね…

ただの従者の成り上がり

また、面目躍如といえば、「魔術師の大失敗」での大活躍はあるものの、基本的に役に立たない魔法ばかりのトホホキャラであるクエスターも、今回、人間社会に飛ばされた後、なかなか冴えた推理でランドオーヴァー帰還へのきっかけをつかみます。
そのきっかけを現実のものとするアバーナシーの決断、そして常にベンをサポートし続けたウィロウも含めて、今まで添え物的な扱いが多かったレギュラーキャラに万遍なく活躍の場を与えているのが、さすがに最終作と感じました。
人間世界でアバーナシーの友人となったエリザベスの視点から描かれる余韻のあるエンディングといい、全体的に好感の持てる作品でした。

主演変更して3作目、知らないうちに元の声優に戻ってました

ところで、青春アドベンチャー版ランドオーヴァーシリーズの名物といえば、一貫しないキャスト。
主人公ベンが松本保典さんから古澤徹さんに交代したことを初めとして、第4作目までの間にほとんど主要キャストが交代してきました。
しかし、本作品では更に意表を突くキャスト交代が起きました。
何とベンの担当が再び松本保典さんに戻ったのです。
古澤さんのベンもいいのですが、やっぱり1・2作でベンを演じた松本さんの印象が強く、「やっぱりこれだよなあ」という感はあるのですが、それにしてもなぜ今更?
しかも、本作にはポグワイドという端役で古澤さんも出演している。
???さっぱり訳が分かりません。

俺の吉田鋼太郎さんがストラボでないわけがない。

キャスト変更といえば、今まで一貫して海津義孝さんが演じてきたクエスター・スースの役は本作品では吉田鋼太郎さん。
最初は、「吉田鋼太郎さんといえばストラボだろ」、という気もしたのですが、途中で慣れました(本作ではストラボは登場しません)。
また、アバーナシーは初登場の八十田勇一さんに、ウィロウも初登場の詩乃優花さん(「美味しんぼ探偵局」参照)に交代。
宝塚女優でリレーしてきたナレーション(千紘あいさん→毬藻えりさん→森奈みはるさん→毬藻えりさん)は今回も宝塚女優の紘美雪さんが担当。
このキャスト変更、細かいところまでみるとこんがらがってしまって全体像がさっぱりわからないので、別記事で整理しました。
詳しくはこちらをご覧ください。

やはり俺のアニメ声優についての認識はまちがっている。

なお、今回初登場のミスターヤを演じたのが飯塚雅弓さん(「フルネルソン」参照)であり、エリザベスやホルトウィッスル、大地の母といった様々な役を演じたのが佐久間レイさん(「沈黙とオルゴール」参照)。
お二人とも、アニメによく声を当てている声優さんで、飯塚さんはTVアニメ「ポケットモンスター」シリーズのカスミ役、佐久間さんは庵野秀明監督の「トップをねらえ!」の天野カズミ役などで有名です。
川口泰典さん演出作品のキャストは、男性は渡辺いっけいさん、海津義孝さん、松重豊さんなどの小劇場の俳優さんが、女性は前田悠衣さん、あづみれいかさんなど、宝塚出身の方が多い(なぜこのようにしているかはこちら)。
この最終演出作でなぜアニメ畑の方を新規に登用したのかは謎…と思っていましたが、そもそも松本保典さんや井上和彦さんといったアニメ畑の方も多用していますので、特にイレギュラーなことではありませんでしたね。

この素晴らしい世界で続編を!

さて、最後に一つ。
実は、アメリカ本国ではその後2009年にランドオーヴァーシリーズ第6弾”A Princess of Landover”が出版されているようです。
日本では未翻訳のようなので、仮にラジオドラマ化するとなると翻訳から始めなければならず、かなりハードルは高いと思います。
しかし、やはり続編は聴いてみたいもの。
高山なおきさん、脚本、何とかなりませんかね。
川口泰典さん、まだ宿題は残っていますよ。


【ランドオーヴァーシリーズ】
第1作 魔法の王国売ります
第2作 魔術師の大失敗
第3作 黒いユニコーン
第4作 大魔王の逆襲
第5作 見習い魔女にご用心【本作品】


【川口泰典演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
こちらをご覧ください。
傑作がたくさんありますよ。


【近代から現代にかけてのアメリカ合衆国を舞台にした作品】
第1次世界大戦後に完全にイギリスから覇権国家の座を奪い取ったアメリカ合衆国。
その発展期から現代までを舞台にした作品の一覧はこちらです。


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