ピエタ 原作:大島真寿美(青春アドベンチャー)

格付:AAA
  • 作品 : ピエタ
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AAA
  • 分類 : 歴史時代(海外)
  • 初出 : 2012年4月30日~5月11日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 大島真寿美
  • 脚色 : 佐藤ひろみ
  • 音楽 : 山下康介
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 鬼頭典子

18世紀、斜陽期を迎えているヴェネツィア共和国に、ピエタ慈善院はあった。
ピエタに引き取られた孤児の娘たちは、名作曲家ヴィヴァルディの指導のもと音楽を学び、特に優れた者は慈善院付属の「合唱・合奏の娘たち」として日の当たる人生を歩むことができた。
エミーリアも「合唱・合奏の娘たち」の一員であったが、大きな名声を得ることは遂になく、今はピエタの事務を担当している。
そのエミーリアのもとに恩師ヴィヴァルディが外国で死去したとの知らせが届く。
同時にピエタもまた次第に運営が苦しくなりつつあった。
エミーリアはピエタへの支援を求めて行動を始め、古い友人で裕福な貴族の娘であるヴェロニカから、ある古い譜面を探すことを条件に支援の約束を取り付ける。
ヴェロニカの譜面を探す試みは、エミーリアが知らなかった恩師ヴィヴァルディの姿と、エミーリア自身の過去の探索につながっていくのだった。



大島真寿美さん原作の小説のラジオドラマ化です。
皆さん、冒頭の作品紹介文を読んで、この作品、面白そうだと思いましたか?
思わなかったですよね。
まあ、冒頭の粗筋は私の駄文なので作品の雰囲気を十分に伝えられてはいないと思いますが、そもそもテーマ自体が地味ですし、正直言いまして、私も青春アドベンチャー公式ホームページの粗筋を読んであまり興味が湧かず、放送後半年以上、音源を寝かせておりました。

予想を裏切る

しかし、最近、初めて聴いてみて、私の好きなジャンルの作品でもないのに、自分でも驚くほど気に入りました(予想外に気に入った、その他の作品に関する記事はこちら)。
確かに子供を持つ親としては「孤児の娘たち」というだけで聞き入ってしまう部分もあり、あまり公平な評価ではないとは思うのですが、自分の趣味で評価するというのがこのブログの趣旨
皆様にはご容赦頂くように願いたいと思います。

斜陽のヴェネツィア

改めて作品の内容を説明するとやはりこの作品、基本的に地味です。
舞台はすべてヴェネツィア国内で終始しますし、「十人委員会」(ヴェネツィア共和国の秘密情報機関兼国家方針の最高決定機関)の名前が出てくる割には、劇的な陰謀劇に繋がるわけでもありません。
エミーリアが少女時代に行った「親探し」と、大人になって行う「譜面探し」。
ふたつの探索行を通して、ある男性とエミーリアとの関係やヴィヴァルディ先生の知られざる交友関係などの謎が明らかになっていき、最後には譜面の意外なありかが判明して、終幕を迎えます。
舞台背景も、カーニバル、ゴンドリエーレ、十人委員会、コルティジャーナ、貴族の農業経営など、ヴェネツィア共和国末期の雰囲気を上手くあらわす要素が満載です。

ヴィヴァルディは共和国末期の象徴

そういえば、ヴェネツィア共和国の興亡を描いた塩野七生さんの「海の都の物語」でも、共和国末期の状況を描いた下巻のひとつの章のタイトルが「ヴィヴァルディの世紀」でした。
作品の性質が全然違うので、ピエタのファンの方と塩野七生さんのファンの方はあまり一致しないのではないかと思いますが、ピエタのファンの方も「海の都の物語」を読んで頂ければより作品世界の奥行きが増すと思いますし、「海の都の物語」のファンの方もピエタはヴェネツィア末期の雰囲気を手軽に楽しめる作品だと思います。
ヴェネツィア共和国が舞台のフィクションとしては塩野さんの「緋色のヴェネツィア―聖(サン)マルコ殺人事件」があるのですが、私は「ピエタ」の方が気に入っています。

人は年を取ると自制心がなくなる

脱線ついでですが、私は塩野さんの著作では「海の都の物語」が最も好きです。
一般的に塩野さんの代表作は「ローマ人の物語」ということになると思いますが、「ローマ人の物語」の塩野さんは個人的に「上から目線」といったら言い過ぎかも知れませんが、少し説教臭い感じを受けます。
「海の都の物語」を書いた若い頃の塩野さんは、現代日本に関する自分の意見を作品中で述べることを意図的に避けていたように感じます(エッセイは除く)。
作者の言いたいことそのものを文章として書くよりも物語を通じて読み取って欲しいという謙虚な思いを感じます。
単に「ローマと日本」と「ヴェネツィアと日本」との関係性の違いかも知れません。
いや、そもそも私の曲解かも知れませんが。

オーディオドラマにおける音楽の重要性

本作のもうひとつの注目点は音楽です。
ラジオドラマにおいて音楽は非常に重要な要素であり、最近の作品では「ゴー、ゴー!チキンズ」(12)がオリジナル音楽を前面に出した作品です。
昔の作品だと、随所に替え歌を盛り込んだ「愛と青春のサンバイマン」(サウンド夢工房)、ミュージカルが原作で作中で登場人物がミュージカル風に歌を歌う「マドモアゼル・モーツァルト」(作曲・小室哲哉)、細野晴臣さんが音楽を担当した「マージナル」(サウンド・ファンタジー・ドラマ)など懐かしい作品がたくさんあります。

山下康介さんの上品な音楽

本作は、作品の性格上、当然ながら音楽はクラシックが採用されています。
音楽に関連の深い作品の中でも、ピアノが習い事で登場する「ふたり」、暗殺者の職業がピアニストという設定の「暗殺のソロ」(アドベンチャーロード)など、クラシックが効果的に使われている作品はとても印象深く、本作もそのひとつにあたると思います。
本作品の音楽担当は山下康介さん。
風神秘抄」や「泥の子と狭い家の物語」でも素晴らしい音楽をつくっていらっしゃいます。

安心な脚本

脚色は佐藤ひろみさん。
青春アドベンチャーでは「おいしいコーヒーのいれ方」や「しゃばけ」といった人気シリーズを担当していました。
「ピエタ」が放送された2012年では「二分間の冒険」も佐藤さんの脚本でした。

女優陣の上品なセリフ回し

主人公のエミーリア役は文学座の鬼頭典子さんです。
その他、クラウディア役は宝塚出身の毬谷友子さん、ヴェロニカ役は演劇集団円の高橋理恵子さん。
メインキャストの女性陣たちが丁寧な敬語で話すのが上品で新鮮な印象です。
鬼頭さんは「尾張春風伝」でも上品な女性の役でしたね。
男性陣では常連の今井朋彦さんがヴィヴァルディ先生を演じています。
ヴィヴァルディ先生は物語開始時点で故人ですが、回想で頻繁に登場します。

たまにはリリカルでもいいじゃない

私、ほんの少し前に「最近の青春アドベンチャーがいまひとつピリッとしないのは、どぎつい悪役がでない作品が多いことが原因のように思えてなりません」と書いたのに、その舌の根も乾かないうちにこのような文章を書いてちょっと恥ずかしいです。
今回の私は「ふたり」の時と同じセンチメンタルモードですが、ピエタのような上品で落ち着いた作品もアリだと思います。

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