十二人の手紙 原作:井上ひさし(ふたりの部屋)

格付:AA
  • 作品 : 十二人の手紙
  • 番組 : ふたりの部屋
  • 格付 : AA+
  • 分類 : 日常
  • 初出 : 1979年9月17日~9月28日
  • 回数 : 全10回(各回10分)
  • 原作 : 井上ひさし
  • 脚色 : (不明)
  • 演出 : (不明)
  • 主演 : 池田昌子

本作品「十二人の手紙」は井上ひさしさんの同名のオムニバス小説を原作とするラジオドラマです。


大衆小説、SFからファンタジーそして戯曲まで

井上ひさしさんといえば戦後日本を代表する作家、脚本家のおひとり。
直木賞(大衆小説)、日本SF大賞(SF小説)、岸田國士戯曲賞(戯曲)をすべて受賞しているのって井上ひさしさんくらいではないでしょうか。
ちなみに他にも菊池寛賞、谷崎潤一郎賞など多くの賞を受賞していますし、これらの賞の選考委員のほか、日本ファンタジーノベル大賞といった変わった賞の選考委員まで務めています。
2010年に75歳で亡くなられているので若い方はご存じないかも知れませんが、本当に有名な方だったんですよ。

正直期待していなかった

ただ、このブログで過去に紹介した井上ひさしさん関係の作品は「今日は一日ラジオドラマ三昧」の中で放送された「ブンとフン」だけ。
個人的にもそれほど井上さんの小説を読んでいたわけではないので、この記事を書くために本作品を聞くに際しても、正直あまり期待していなかったのですが…

オムニバスにあまり期待していないけど

いいじゃないですか、これ!
このブログをよく読んでいる方はご存じかと思いますが、私、オムニバス作品にあまり高い評価を付けていません。
不思議屋シリーズ」など新人の登竜門的に機能していた作品は正直、質がかなりばらばらですし、有名作家がひとりで原作を書いている「あなたがいる場所」(沢木耕太郎さん)や「幻坂」(有栖川有栖さん)なども「長編を採用すれば良いのに」と思っていました。

テーマも地味

まして本作品はファンタジックな事柄が一切起こらないという意味では外連味の全くない作品。
上記のジャンルでは「日常」としましたが、どちらかというと「人生」とジャンル分けしたくなるような、時に重くもなる内容で、後味が悪い回も少なくない。

やればできる

でも、やり方によっては1話完結のオムニバスもこれほど面白く作れる。
目から鱗というか、蒙を啓かれたというか(同じか)。
時々こういう出会いがあるからラジオドラマの聴取は辞められませんね。

手紙文自体で展開

さて、本作品の最大の特徴は全体が手紙の文章、という体で構成されていること。
一部、手紙文中の会話の場面はドラマぽい掛け合いになっているのですが、基本的にその手紙の執筆者が自ら手紙を読む形で進んでいきます。
まずこれがいい。
本作品は「ふたりの部屋」初期の作品ですので1回わずか10分の枠しかありません。
通常のドラマだと無理矢理10分に納めようとするとシーンを相当限らざるを得ないのですが、手紙のやりとりなら次の手紙に移った時点で状況が大きく変わっていても不自然さがありません。
その結果、上記で「人生」と書いたような長期の時間をわずか10分に詰め込むことができるのです。
むしろ前の手紙との間に何が起きたのか、新しい手紙の文章から自然と推測するようになり、サスペンス的な興味が持続します。
まあ、その分、集中力を求められるのですが。

集中力は必要

集中力と言えば、10分という時間制限があるため基本的に演者が早口でしゃべること、上記のとおり(軽妙な語り口の割りに)意外と深刻な内容が多いことから、聴取していて疲れる作品であることも欠点と言えば欠点でしょうか。
いずれにしろスピード感がありつつ先が読めない展開が続くため飽きさせません。
基本的に手紙が進むにつれ、謎や嘘が明らかになっていくパターンが多いのですがとても良くできた作品です。

各回の概要

さて、各回のタイトルと概要は以下のとおりです。
実は第5夜だけは手元に音源がなく聞くことができていません(第10話冒頭も切れている)。
この出来であれば全部聞きたいです。
音源をお持ちの方がいらっしゃいましたら是非ご連絡の程お願い致します。

◆第1夜:悪魔

上野駅に着いたのは朝7時25分。これから私の夢の東京生活が始まる。


思いがけない展開になり最後の手紙は意外な場所から。手紙の書き手は1人だけ。

◆第2夜:葬送歌

自作の戯曲の批評を有名作家に依頼する女子大生。しかし批評はあまりに辛口。


きっちりとオチがつく作品。不覚にも想像できなかった。

◆第3夜:赤い手

父親不明、母親死亡。赤ん坊の出生は医師の手により届けられた。


薄幸な女性の一生。手紙と言っても出生届、転入届、修道女宣誓書など多様。

◆第4夜:ペンフレンド

北海道旅行を計画する女性。アドバイス役のペンフレンド募集に応じたのは?


真相が二転三転。ところでインターネットがない時代どうやって募集したのだろう。

◆第5夜:第三十番極楽寺(らしいが未視聴のため詳細不明)

◆第6夜:桃

上流階級の女性の社交クラブ。パーティの売上を養護施設に寄付しようと思い立つが。


養護施設側の気持ちは分かるが、ちょっと回りくどい気がする。

◆第7夜:シンデレラの死

理由も言わずに家出した女性は、故郷にいる高校の恩師にだけは手紙を送り続ける。


手紙のやりとりの意外な真実が最後に明らかに。ただ動機はあくまで謎のまま。

◆第8夜:玉の輿

父親のために酒屋の専務に嫁いだ女性。しかし夫には別の女性の影が。


文体が格調高いのは理由あり。第7夜同様悲劇だがこちらはどこかさわやかなラスト。

◆第9夜:里親

女性が愛したのは駆け出しの作家。先輩作家からは馬鹿にされているが。


誤解を元にしたトリック。よく考えると誰も救われない酷い話だが。

◆第10夜:泥と雪

突然、学生時代の恋心を打ち明けられた女性。邪険にしていたが徐々に…


先が読めない展開と意外なラスト。ただし種明かしは後出し的。

なお、原作は上記10話に「隣からの声」、「鍵」が加わりタイトルの通り全12話です。
これに各回の登場人物たちが大集合するエピローグがついているらしいですが、ラジオドラマでは省略されています。
ただ、第2夜で登場した作家・中野慶一郎が第9夜に再登場するなど、オムニバスらしいクロスオーバーは残っています。

主演は池田昌子さん

さて、本作品の出演者は「銀河鉄道999」のメーテルで有名な池田昌子さんと、洋画吹替えで大活躍されていた声優の野沢那智さん。
池田さんの出演作品としては「女たちは泥棒」、「いつか猫になる日まで」、「ブルボンの封印」などを紹介済みです。
上記のとおり各回の主人公は女性なので池田さんが主役を演じていますが、その他の女性役も池田さんはお一人で演じています。

引き立て役に徹した野沢那智さん

また、男性役も全て野沢さんが演じています。
野沢さんと言えばハイテンションのしゃべりやアラン・ドロンなどのオシャレな男役のイメージが強いですが、本作品では基本的に抑えた演技で池田さんの引き立て役に徹しています。

ところで脚色はどなた?

ところで1点だけ確認できなかったことがあります。
通常、放送中で脚色の方のお名前が呼ばれるのですが本作品では呼ばれません。
いくら原作が元々この枠にあっていると言っても、手紙文の部分はほぼそのまま使えると言っても、10分の脚本に納めるには相当の苦労があったはず。
誰が脚色したのでしょうね。
まさか井上ひさしさんご本人?まさかね。

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