- 作品 : おろしや国酔夢譚
- 番組 : アドベンチャーロード
- 格付 : AAA
- 分類 : 冒険(秘境漂流)
- 初出 : 1987年5月11日~5月22日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 井上靖
- 脚色 : 岸宏子
- 演出 : 川口泰典
- 主演 : 北大路欣也
江戸時代中期の天明2年。
千石船・神昌丸は、船長(ふなおさ)大黒屋光太夫を始めとした17人の船員を乗せて伊勢の白子を出帆した。
しかし、江戸に向かう途中で嵐に遭い舵を失い、8カ月にも及ぶ苦難の漂流をすることになる。
そしてようやく漂着した陸地も、遙か北方のロシアの孤島であった。
絶望的な状況のもと、懸命に日本へ帰る方策を探る光太夫達だが、運命は彼らに更なる流転を要求する。
カムチャッカ、ヤクーツク、イルクーツク、そして帝都ペテルブルグ。
鎖国の時代に、不屈の闘志で広大なロシアを横断した大黒屋光太夫の数奇な運命を追う。
歴史小説の大家・井上靖さんの小説を原作とするラジオドラマです。
アドベンチャーロード時代の作品らしい、硬派な作品です。
そして、主演は何と俳優の北大路欣也さん。
北大路さんはNHK大河ドラマ「独眼竜正宗」に、正宗の父親である輝宗役で出演されていましたが、この時の輝宗は、序盤の主役とも言って良いほど存在感がある役でした。
この「独眼竜正宗」が放送されたが、実は本作品と同じ1987年です。
そのため、両作品とも北大路さん44歳という、まさに脂ののっている時期の作品ということになります。
ちなみに「独眼竜正宗」で北大路さんの息子である主役の正宗を演じたのが渡辺謙さんだったのですが、実は後年、渡辺さんもNHK-FMのラジオドラマで大黒屋光太夫を演じることになります。
この辺については、この次の「大黒屋光太夫」の記事で紹介します。
大黒屋光太夫の為人
さて、本作品「おろしや国酔夢譚」は、とにかく光太夫の人物像こそが一番の魅力です。
どんな時でも希望を失わない強靭な精神。
常に少しでも事態を好転させようとする卓越した行動力。
「威あって猛からず」を体現するかような、穏やかでありながら確固としたリーダーシップ。
帰国の望みは一向にかなえられそうにないなか、仲間が次々と倒れていくという、普通であれば絶望に逃げ込みたくなるようなシチュエーションにあっても、万感の思いは胸にしまい込み、敢えて泰然自若としている光太夫の言動が胸に迫ります。
実在した光太夫
実在した人物である大黒屋光太夫は、「北槎聞略」をはじめとする多くの書物に事績が残っており、彼が成し遂げた偉業は明らかな歴史的事実です。
また、その為人についても、女帝エカテリーナ二世やキリル・ラックスマンといった歴史に名を残す人物の心を動かしたという事実(もちろんエカテリーナやラックスマンにも打算や計算があったでしょうが。)から、度量の大きい人物であったことは想像に難くありません。
光太夫については、みなもと太郎さんの「風雲児たち」も多くのページを割いて紹介しています。
「風雲児たち」は世間的に高評価を得ている人物でも、みなもとさんが気に入らない(?)人物はかなり辛辣に書かれることもあるのですが、光太夫に関しては基本的に類書どおりの人物として描かれています。
演じられる役者も限られます
もちろん光太夫とてスーパーマンではなく、江戸時代の人間としての限界は持っています。
しかし、それを含めてやはり並大抵ではない人物です。
そのため、やはりこの大人物を演じるには、それなりの役者でなくては務まらないのも当然でしょう。
本作品の北大路欣也さんや、次の記事の渡辺謙さんのほか、1992年に公開された映画版「おろしや国酔夢譚」では、先日他界された名優・緒方拳さんが光太夫を演じていらっしゃいました。
まさに男の中の男を演じることができると認められての配役だと思います。
特に本作品では、光太夫が語る形で、ナレーションも北大路さんが担当されています、
本作品のナレーションは、細かい状況をいちいち説明するというより、光太夫の心情を吐露すような役割を果たしており、ナレーションというより「語り」です。
この語りもまた北大路さんの魅力が発揮されている部分だと思います。
史実との相違
ところで本作品の原作は1960年代に書かれたものです。
実はその後、光太夫たちの晩年に関する新しい記録が発見されました。
つまり、本作品はその最新資料を踏まえずに書かれており、晩年の光太夫を周囲がどう扱ったかという点について、史実と異なった物語になっています。
この点は、実は結構重要で、ひょっとしてその新資料があったなら、この「おろしや国酔夢譚」という本作品のタイトルそのものが変わっていたかもしれないと、想像してしまいます。
この結末があってこそ、このタイトルの哀愁が際立つ。
そういう関係にあるタイトルだと思います。
具体的にどういうことかは、実際に聴いてみられるか、あるいは次回の記事をお読みください。
とにかく本作品は、哀愁の漂うテーマ曲とともにとても味わい深い作品になっています。
今後も本格的な時代・歴史ものを!
青春アドベンチャーでは、著名な歴史小説・時代小説を原作とする本格的な歴史時代系の作品は少なく、特に本作品のような歴史ものはほとんどありません。
最近では、わずかに、時代もので「蜩ノ記」(2012年)が制作されたくらいでしょうか。
数が少ないだけに本作品のような渋い作品の良さが、一層際立ちます。
実は、本記事は、このブログで150作目の作品紹介をする記念の記事です。
敢えて区切りの紹介記事に本作品を持ってきたのは、今後もこの系統の作品の制作を希望していればこそです。
是非、こういった本格的な歴史・時代ものも制作し続けて欲しいものです。(追記参照)
【川口泰典演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
こちらの記事をご覧ください。
傑作がたくさんありますよ。
2015/1/17追記
このブログをNHK-FMの制作側が読んだから、という訳ではないと思いますが、本記事を作成した翌年の2014年には、青春アドベンチャーで歴史時代ものが2作品も制作されました。
その2作品(獅子の城塞と鷲の歌)の記事もご覧ください。
なお、江戸時代を舞台にした作品の一覧はこちらです。
2019/3/28追記
2019年3月に放送された「今日は一日“ありがとうFM50”三昧~オーディオドラマ編」にて本作品の第6回が放送されました。
当日出演された演出の川口泰典さんによれば「かっちり」した作品がやりたくて選ばれたとのこと。
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