深淵のテレパス 原作:上條一輝(青春アドベンチャー)

格付:AA
  • 作品 : 深淵のテレパス
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AA
  • 分類 : ホラー
  • 初出 : 2026年1月5日~1月16日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 上條一輝
  • 脚色 : 藤井香織
  • 演出 : 小島史敬
  • 主演 : 仲村宗悟

私は、暗い水の底にいます。暗く、危険な場所で、あなたを待っています。
私は、あなたのもとにやってきます。あなたを水の底に連れていくために。
あなたに伝えておきます。それが、私にできる唯一のことだからです。
光を、絶やさないでください。
…それは明らかに異質だった。
大学生のサークルが定期的に行っている怪談会。
殆どはどこにでもある退屈な怪談だった。もはや眠気を催すといっても過言ではない。
しかしその女子学生が舞台に現れた瞬間に空気が変わった。
彼女から目を離せない。そしても彼女もまた…私を見ていた。


本作品「深淵のテレパス」は上條一輝さんのホラー小説(現代は「パラ・サイコ」、出版にあたり「深淵のテレパス」に改題)を原作とするオーディオドラマでNHK-FMの青春アドベンチャーで放送されました。
上條さんはまだ出版されている単著の単行本が2冊(深淵のテレパス、ポルターガイストの囚人)しかない方ですが、この2冊が「このホラーがすごい!」「ベストホラー」「このミステリーがすごい!」「ミステリが読みたい!」にランキング入りしている将来を嘱望されている作家さんです。

ミステリー+αは共通

ここでポイントなのはホラーとミステリーの両方でランクインしていること。
青春アドベンチャーでは2022年以来、年始に小島史敬さん演出による謎解き要素のある作品が制作されているのですが、いずれも謎解きといいつつ、いわゆる本格推理もの、探偵ものではなく、別ジャンルの雰囲気が濃厚な作品。
あえてジャンル分けするならば「六人の噓つきな大学生」や「死にたがりの君に贈る物語」はサスペンスですし、「うるはしみにくし あなたのともだち」はホラー。「彼女が遺したミステリ」もタイトルとは裏腹に恋愛ものの要素が強い。

ごった煮風

この流れに沿ったのか今年の「深淵のテレパス」もいきなり「呪い」から話がスタートするので主軸こそホラーであるものの、キャラクターの主な行動が人探しや背景の探索という点ではミステリーぽい。
というか元超能力少年が登場したり(ESPネタは一応SFですよね?)、ハードボイルド風の探偵が登場したり、結構ごった煮です。

ホラーとしては怖くない

少しだけ気になるのは、ミステリー風にした反動か、謎解きが合理的に進むためホラー特有の理不尽な怖さは感じないこと。
夏の魔術」における定義によれば、ミステリーは「いずれ合理的な回答が導き出される」もの、SFは「多少我々の常識と異なるとしてもそれなりに整合性のある論理的な結末が待っている」もの、ホラーは「感情の激動を目的とするものであって(中略)状況を論じること自体がそもそも的外れ」なものらしいのですが、そういう意味でのホラーらしさは少ない。

これこそ日本風ミステリー?

ただ、水の底に引き込まれるという言葉からは「リング」や「仄暗い水の底から」といった鈴木光司さんのニュアンスも感じ、日本のホラーの正当な系譜を受けついでいる感じも受けます(原作単行本を確認すると「タイトル引用」という言葉でこの2冊が言及されている!)。
そもそも日本ミステリー界の源流といってもよい、江戸川乱歩もホラーチックなエログロが売りの作家でもありましたしね。
だいたい上述のとおりごった煮的なところが「年始・小島枠」の特徴。
そうです、所詮エンタメ枠のオーディオドラマ。楽しければジャンルなんていいんですよ。

サブタイトル

さて、各回のサブタイトルは以下のとおりです。
今回チームで謎解きにあたるのは、「あしや超常現象調査」のしごできな主宰者・芦屋晴子、その気弱な部下・越野草太、もと超能力少年で現超能力中年の犬井、そしてハードボイルド探偵・倉元の4人。
このほか依頼人の高山カレンと、呪いの言葉を発した当事者である桐山楓を含めた6人が主要な登場人物ですが、彼らが一斉に登場するのではなく、第1話では晴子と草太に絞り、徐々にほかのメンバーが登場していくなど聞きやすさも重視した構成は見事です。

  1. 奇妙な水音
  2. 怪現象のトリガー
  3. 失踪者の行方
  4. 揺らぐ視点
  5. 呪いの元凶
  6. 導かれた先
  7. 地を這う声
  8. 地底で待つもの
  9. 闇の臨界点
  10. 深淵に差す光

謎解きが微妙に腑に落ちない

構成面で気になったのはストーリーの背景が一気に明らかになる第7回。
この回は謎解き回といってよい回なのですが、どうもすっきりしないことが多いんですよね。
例えば、どういう方法で対象の空き家1件を絞れたのかわからない、息子さんはなぜ長年あの空き家を放置していたのかわからない、逆に祖父はなぜあれほど頑なに極秘にすることに拘ったのかわからない、そもそも片目が不自由で軍医になれるのか、都会の真ん中で地下道なんて掘れるのだろうか…などなど、なんとなく腑に落ちませんでした。
この辺は原作ではちゃんと説明されており、オーディオドラマでは流れを停滞させないためにあえて省略気味にしたのかもしれません(後日、原作を確認します)。

パズルにピースが嵌るごとく

一方、第8話・第9話の解決篇における伏線回収はお見事の一言。
まさにパズルのピースが嵌っていくように、ここまで捲いておいたタネがすべて回収される感があります(もちろんホラーなので説明は必ずしも科学的なものではありません)。
そして終盤、ついにたどりつくタイトルの由来(一種のタイトル回収?)。すばらしいです。
ただ火星鉛筆は最初からあからさまに怪しかったですけどね。

主演は仲村宗悟さん

さて本作品の主役である気弱な会社員、越野草太を演じるのは声優の仲村宗悟さん。
2019年の第13回声優アワードで新人男優賞を受賞している方で、青春アドベンチャーでは2020年の「ウィッグ取ったらただの人」以来のご出演です。
草太は名前のとおり草食系の若者で作品全体の語り部であることもあり、あまり強い個性を発揮していません。
ただモノローグの担当でもありリスナーに一番近い立ち位置にあるため作品への没入感を高めるようなキャラクターになっています。
よく考えるとこの「年始・小島枠」の作品の主人公はみなこのような人物。
脚色が藤井香織さんで統一されていることも原因だと思いますが、とても聞きやすいと思います。

実質的にダブル主演?

そして草太がおとなしい分、印象的なのが「会社における草太の上司」兼「趣味の超常現象調査活動の協業者」である芦屋晴子。
「あしや超常現象調査」がシリーズ化(「ポルターガイストの囚人」が第2作)していることからもわかるとおり、情に厚く活動な晴子は事実上のもう1人の主人公なのだと思います。
これを演じる永宝千晶さんは元文学座の舞台女優さんなのですが、実は青春アドベンチャーではおなじみ(「フラワー・ライフ」、「また、桜の国で」など)の亀田佳明さんとご夫婦なのだそうです。
その他、犬井役の石野竜三さん、倉元役の八田浩司さんを含めこの3人は役にあわせてあえて大げさに声を作って演技をしている感を受けます。
声だけの演技であるオーディオドラマでは大切なことだと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました