分身 原作:東野圭吾(青春アドベンチャー)

格付:AAA
  • 作品 : 分身
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AAA
  • 分類 : サスペンス
  • 初出 : 1998年6月22日~7月10日
  • 回数 : 全15回(各回15分)
  • 原作 : 東野圭吾
  • 脚色 : 吉田玲子
  • 演出 : 平位敦
  • 主演 : 増田未亜

北海道函館市に住む氏家鞠子は、自分が母親から嫌われていると感じていた。
東京都練馬区に住む小林双葉は、自分が母親の重荷になっていると感じていた。
これは同じ顔を持つ1歳違いのふたりの少女が出会う物語。
ふたりが抱えていた出生を巡る疑惑と葛藤と、そしてそれらからの開放の物語。



ベストセラー作家・東野圭吾さん小説を原作とする作品です。
青春アドベンチャーでは東野さんの作品が、本作品「分身」と「虹を操る少年」(1998年1月放送)の2作品、ラジオドラマ化されています。
なぜか2作品とも1998年の上半期に集中しており、この期間以外では東野作品は1作品も制作されていません。

科学ネタ

なお、後に科学ミステリー「探偵ガリレオ」シリーズで有名になる東野さんです。
「虹を操る少年」にも科学要素があったのですが、本作品はそれ以上に科学ネタが核心部分に絡んでいます。
本ブログは基本的に極力ネタバレにならないように記事を書いているのですが、今回はこの「科学ネタ」に関してネタバレ覚悟で書きたいと考えています。
そのため、まずは出演者とスタッフ関係のことを書いて、最後にネタバレを含む内容について書く順序としたいと思います。

一人二役

さて、早速、出演者についてですが、主役のふたりの少女、鞠子と双葉をともに増田未亜さんが演じています。
青春アドベンチャーでは赤川次郎さん原作の「ふたり」でも主演されていました。
「ふたり」の記事では国民作家という観点から東野さんと赤川さんのイメージが似ているという感想を書いていますが、両作品とも増田さんが主演しているのは不思議な偶然です。
増田さんはこれ以外にも「不思議屋薬品店」やFMシアターにも出演されており、一時期、NHK-FMのお気に入りだった感がありますね。
その他の出演者としては、「西遊妖猿伝」が懐かしい元ジャニーズの中村繁之さん、「ラジオ・キラー」など多くの作品に出演されていたベテランの勝部演之さん、「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズや「アルバイト探偵」シリーズが印象的な高林由紀子さん、「しゃべれどもしゃべれども」など多くの作品にご出演の麻生侑里さんなど、NHK-FMのラジオドラマに出演経験が多い方が多く、安心の布陣です。

脚本・演出

また、スタッフに目を移すと、脚本が吉田玲子さん、演出が平位敦さんのコンビ。
吉田さんは青春アドベンチャーでは1993年の「サンタクロースが歌ってくれた」から2000年の「愛のふりかけ」まで6作品を担当されています(短編除く)。
その後、「けいおん!」、「ガールズ&パンツァー」、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」など多くの人気アニメの脚本を手掛けるようになり、青春アドベンチャーからは少し遠ざかっています。
なお、似たお名前の「横山玲子」さんは、現時点で2004年の「赤と黒」から2014年の「旅猫リポート」まで5作品を担当されています(短編除く)。
このお二人、活動時期がまったく重なっていないのですが、恐らく別人だと思います。
一方、演出の平位さんも、1997年から1999年の3年間でわずか6作品しか青春アドベンチャーの演出を担当していない寡作な方です。
ちなみに本作品を除く5作品は、「フルネルソン」、「笑う20世紀パート5」、「海賊モア船長の遍歴」、「しゃべれどもしゃべれども」、「おいしいコーヒーのいれ方Ⅳ~雪の降る音~」です。
「海賊モア船長の遍歴」は名作と推す人が多いみたいですね。

ここからネタバレあり

さて、最後にいよいよ内容に関連することです。
ここからは一部ネタバレを含みますので、お嫌な方は飛ばして下さい。

本作品は、ふたりの少女がそれぞれ自分の抱える出生の秘密を解き明かすために行動し、最終的にふたりが出会うところまでを描いています。
ふたりの母親が抱えているらしい秘密と、そのふたりの母親の急死の謎。
両親ともに違うはずのふたりの顔がそっくりであること。
でも年齢には1歳の差があること。
約20年前に関係者達はなぜ東京と北海道の医大に集まったのか。
ふたりに接触してくる様々な人間達。
そして、ちらついてくる政治家の陰。
このように様々な伏線が張られていきます。

この作品、基本的にはふたりが自分の出生の秘密を探っていくだけの話で、それも冒頭の紹介を読んで頂ければ、「発生科学」、更にはっきりいうと「体外受精」が大きな要素になっていることは容易に想像できてしまうと思います。
しかし、まず、鞠子と双葉の真実を探す旅の展開が巧妙です。
具体的には、鞠子には女学生の下條、双葉には雑誌記者の脇坂という協力者ができ、いわば鞠子班と双葉班がそれぞれ別々に調査を続けます。
そして、ふたつの班はお互いの存在に途中で気がつくのですが、見事にすれ違いが続き、直接には電話ですら話をすることがありません(この辺、携帯電話が普及する前の作品ならではではあります)。
その結果、それぞれが真実に近づいていく様を読者(視聴者)だけが俯瞰して知ることができるのです。
また、隠されている秘密も単なる体外受精の問題だけではなく、途中でこの別の作品と同じ要素(今更ながらネタバレ防止)が加わり、最終的には医療技術の問題が根底にあったことも明らかになります。
こうした過程で、上記の伏線がきちんと回収されていく様はなかなか見事といって良いと思います(ただ、双葉の母親が殺された理由だけは明確に説明されていなかったような気がするのですが、気のせいでしょうか?)。
そのため、青春アドベンチャーでは長目である15回という放送回数も長いと感じられませんでした。
また、ラストシーンも、これしかない、という展開でなかなか美しいものだったと思います。

ところで1点だけ気になったのですが、作品中で、鞠子と双葉が自分が体外受精で生まれたことに違和感を持つシーンがあります。
ところが、日本における体外受精は1983年に初めて成功し、2012年までに日本国内だけでも30万人を超える赤ちゃんが体外受精により誕生しています。
本作品が刊行されたのは1993年ですので、確かにまだ今ほどは体外受精が一般的とは言いがたい時期だったのかも知れませんし、作品中で鞠子と双葉は同時に単純な体外受精以上のもっと複雑な事情を知ったわけであり仕方がない面もあると思います。
しかし、それにしても体外受精が成功して10年以上経っていたわけで主人公達がそれほど違和感をもつのはどうかと思いました。
とはいえ、様変わりしてしまったという意味では、上記の携帯電話とこの体外受精の件は似ているのかも知れません。
技術の進歩のためとはいえ、わずか15年程度でトリックや展開が古くさく感じられてしまうのは、ちょっと残念な感じがします。

ネタバレ覚悟で記事を書いたのは「世紀の大冒険レース~アムンゼンとスコット」以来でしょうか(他にもあった気がする)。
ネタバレ覚悟で書いてみると気持ちよいですね。


コメント

  1. ケノーベルからリンクのご案内(2014/03/14 08:43)

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