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【特集】100作品紹介記念③:原作の種類

【特集】100作品紹介記念③:原作の種類

これまでに紹介したラジオドラマ100作品を総括する、この特集。
第3回目(第1回・第2回もご覧下さい)の今回は「原作の種類」による分類です。

様々な原作ジャンル

NHK-FMのラジオドラマ番組である青春アドベンチャーで放送されている作品の大部分には原作があります。
原作は多くの場合、小説ですが、漫画やノンフェクションが原作の場合もあります。
また、小説についても、現代日本の流行作家の小説から、海外作家によるもの、児童文学、さらにはいわゆる古典まで、様々な素材が取り上げられています。
これらについては一度、何でもベストテン(第1回はこちら)で特集してみたいと思っていました。

作品数が膨大

しかし、私自身、大部分の作品の原作がどのようなものかを知りませんし、改めて調べるにも青春アドベンチャーの作品数は膨大です。
というのも青春アドベンチャーだけで作品数は300以上にのぼり、関連の番組まで含めると800作品以上になるためです。
そのため今までこの特集は諦めていたのですが、既に紹介ずみの100作品であれば分類が可能と考え、整理してみた次第です。

あくまで目安

この集計が青春アドベンチャー全体の傾向を示すとは限りませんが、一応の目安にはなるかと思います。
分類にあたっては、私が各作品に勝手に付いている格付けの状況も併せて整理しました。
格付けは平均を取るために各格付けに点数を付けて集計しています(詳しくは第2回をご覧下さい)。
なお、原作の種類は、小説、海外小説、オリジナル、漫画、ライトノベル、NF(ノンフェクション)、古典、童話の9分類としています。
それではまずは集計結果をご覧下さい。

最も多いジャンルは予想通り

最も多いのはやはり「小説」でした。
ここでいう小説は現代日本の小説のみが該当します。
全体の約半分がこの分類に属します。
私がこの分類の作品に付けている格付けは非常にバラツキがあり(標準偏差が最も大きい)、”AAA”から”C”まで散らばっています。
しかし、小説に分類されている作品の格付けの平均点が2.99と丁度真ん中であること、12作品と一番多い格付けが”A”であることからバランスは取れていると思います。
ちなみにAAAの作品は「ジャガーになった男」(佐藤賢一さん原作)、「ピエタ」(大島真寿美さん原作)、「ふたり」(赤川次郎さん原作)、「銀河番外地、運び屋サム」(高千穂遥さん原作)、「DIVE!!」(森絵都さん原作)の5作品です。

ライトノベルの扱い

こうしてみるとライトノベルに分類しても良い作品が目立ちます。
小説に分類するかライトノベルに分類するかは、私の感覚で「ラノベ臭い」かどうかで分類してしまっています。
同じ高千穂遥さん作のスペースオペラでも「クラッシャー・ジョウ」であれば「ライトノベル」に分類したと思うのですが、「銀河番外地、運び屋サム」はやさぐれたアウトローが主人公なので、こちらにしました。
ファジーな分類なのはご了承下さい。

海外小説原作の水準

続いて多いのは「海外小説」と「オリジナル」です。
まず海外小説についてですが、ここでいう「海外小説」は海外作家によるフィクションのうち、主として大人向けの作品を指しています。
このジャンルは非常に平均点が高いのが特徴。
平均4.28ですので、平均して”AA+”程度の格付けを付けていることになります。
また、よく見ると”A”以下がひとつもないことに気がつきます。
いかに私がこのジャンルを偏愛しているかに改めて気づかされました…
自分では、「穴(HOLES)」や「海辺の王国」など海外作家の作品にも結構辛めの評価をつけている印象があったのですが、今回それらの作品は児童文学に分類してしまったようです。

なぜ高いかというと…

海外小説は”AAA-“が多いのが特徴。
「ジュラシック・パーク」・「スフィア」(ともにマイクル・クライトン原作)と「ラジオ・キラー」(セバスチャン・フィツェック原作)が該当します。
“AAA-“が多いことは、辛口に言うと、面白いけど微妙に何かが足りない作品が多いのかも知れません。
でも、AAAの2作品「北壁の死闘」(ボブ・ラングレー原作)、「最後の惑星」(ユルゲン・ローデマン原作)は文句なく面白い作品です。
「最後の惑星」は作者が青少年に読んで欲しいという思いを込めて書いているようですので、そういう意味では児童文学なのかも知れませんが、意外とハードSF的な内容なので海外小説としました。

意外と多いオリジナル

2番目に多いもうひとつの分類はオリジナル作品。
実は所属する作品数は多いのですが平均点は下から3番目であまり良くありません。
私があまり望んでいない「短編集」の多くがここに含まれてしまっていることが大きな原因だと思います。
オリジナル作品の中で特に高評価としたのが、”AA-“の「泥の子と狭い家の物語~魔女と私の七〇日間戦争」(オカモト國ヒコさん作)と”A”の「ロスト・タイム」(佃典彦さん作)です。
その他、オリジナル作品全般の状況についてはこちらの記事をご参照下さい。

意外と少ない漫画原作

4番目に多いのが漫画原作の作品。
全9作品ですので全体の1割に満たない数です。
こちらに少し書いたように私は漫画はラジオドラマの原作にはあまり向かないと考えています。
しかし現在のわが国において、漫画は最も競争が激しく最もクリエイターが集まっている分野の一つであると思います。
漫画原作は色々な意味で困難な面があると思いますが、是非、積極的にチャレンジして頂きたいものです。
ちなみに漫画原作で高格付けとしたのは、”AA+”の「エデン2185」(竹宮恵子さん原作)と”AA”の「わたしは真悟」(楳図かずおさん原作)です。

あまり説教臭いとね

5番目が児童文学。
個人的に常日頃「児童文学が原作の作品、割と多いなあ」と思っていたのでこの分類を作りました。
ライトノベルとの違いは、ライトノベルより低年齢(概ね小学生くらい?)向きであることと、ライトノベルより”教育的な色彩”が強いこと。
ちなみに、主人公が小学生であっても大人の目線から作品が作られている「光」(道尾秀介さん原作)は児童文学ではなく小説としています。
個人的な考えですが、夜10時45分から放送している番組に、児童文学が原作の作品はあまり合わないのではないかと思っています。
そもそも青少年にとって読書やラジオドラマを聴くという行為は大人になる過程の背伸びをする行為であり、教育的な目的をもつのであればあるこそ、多少高い年齢向きのものを受け止めてこそ意味があると思います。
その考えを反映してか、私の勝手格付けの平均点も実質的に一番低い分類になっています。

ジャンルにとらわれ過ぎない

とはいえどのジャンルであっても良いものは良い、というの事実であり、良い作品であれば積極的にラジオドラマ化にチャレンジして頂きたいという気持ちでは他のジャンルと異なるものではありません。
なお、児童文学原作で最も高い評価を付けたのは、”AA”の「バッテリー」(あさのあつこさん原作)。
ちなみに同じ学生のスポーツを描いた「一瞬の風になれ」(佐藤多佳子さん原作)と「DIVE!!」は「小説」枠で集計しています。
この辺も微妙なところです。

ライトノベルは意外と少ない

6番目の作品数なのは「ライトノベル」。
青春アドベンチャーはNHKらしくない柔らかい原作選択で有名な番組ですが、改めて集計してみて感じたのは、典型的なライトノベルはほとんど原作として使われていないという事実です。
ライトノベルの一般的なイメージは、若年層向きのSF作品・ファンタジー作品、学園を舞台にしたちょっとファンタジックな作品だと思います。
以前であれば「ジュブナイル」、「ヤングアダルト」などと呼ばれていた作品群が、近年、「ライトノベル」と呼ばれるようになったと認識していますが、ライトノベルという用語が一般的になって以降の作品はほとんど取り上げられていません。
ライトノベルに分類している5作品は、「当時、ライトノベルというジャンル分けがあったならば恐らくそう分類されていたであろう、少し昔の作品」が中心です。

実はほんどない最新ラノベ

これはどういうことなのでしょうか。
最近のNHKのスタッフがライトノベル的な作品を取り上げるのを躊躇しているのか。
それともメディアミックス前提で世に送り出され商業化が著しいライトノベルには手を出す余地がない状況なのか。
何はともあれ少し意外な集計結果でした。
ちなみに5作品のうち2作品が”AAA”格付けのため、平均評価がとても高く、海外小説に次ぐ点数となっています。
“AAA”の2作品は「妖精作戦」(笹本祐一さん原作)と「西風の戦記」(田中芳樹さん原作)。
両作とも個人的に思い入れのある作品ですが、いささか古くやはり典型的な意味では「ライトノベル」とはいえないかも知れません。
ちなみに田中芳樹さんの作品は「月蝕島の魔物」シリーズなど「小説」に分類している作品もあります。
他にも新井素子さんの作品も「二分割幽霊綺譚」のようにライトノベルに分類している作品、「グリーン・レクイエム」のように小説に分類している作品の双方があります。

ちょっと意外なジャンル

7番目に多いのは「ノンフェクション」。
所属する作品数が4作品と少ないので統計的な意味はないのですが、実は密かな高評価ジャンルです。
特に”B”以下の格付けの作品がないのは特徴的だと思います。
ちなみに、青春アドベンチャーは基本的にラジオ「ドラマ」の番組ですので、原作がノンフェクションであっても、ドラマとして再構成されて放送されることが通常です。
この分類で高評価を付けているのは”AA+”の「世紀の大冒険レース~アムンゼンとスコット」(本田勝一、チェリー・ガラード原作)、”AA-“の「1985年のクラッシュ・ギャルズ」(柳澤健さん原作)の2作品になります。

古典は少し

その他、「古典」と「童話」に分類した作品がいくつかあります。
古典は「ロスト・ワールド」(コナン・ドイル原作)と「失われた地平線」(ジェームズ・ヒルトン)です。
これらは海外小説との仕分けが難しいところですが、古典は概ね19世紀まで又は遅くとも第二次世界大戦前までに発表され、小説としてのジャンルを飛び越えて古典として世界的に認知されている作品に限って選定しています。
ちなみに江戸川乱歩さんの明智小五郎シリーズ(魔術師)や、ダニエル・キイスの「アルジャーノンに花束を」などは、そのジャンルでは古典ともいえる作品ですが、比較的ジャンルが狭かったり発表時期が新しかったりするため古典とはしていません、
今後の紹介予定としては「赤と黒」(スタンダール原作)や「封神演義」などが古典になると考えています。

童話は今後を見据えて

また、童話に分類したのはアンデルセンの「雪の女王」だけ。
さすがに本格的な童話(幼児から小学校低学年向き)はほとんど青春アドベンチャーでは取り上げられていません。
あまりに数が少ないので「児童文学」に入れても良いのですが、関連番組である「ふたりの部屋」などでは実は童話が取り上げられるのはそれほど珍しくはなかったことから敢えて別立てしました。

意外な結果

文中でも書きましたが、柔らかい素材を取り上げるという印象の強い青春アドベンチャーですが、漫画とライトノベルを併せても全体の14%しかないというのは少し意外でした。
私は短編集作品や日常系の作品をあまり積極的に記事にしていませんので、番組全体の割合はもっと低いかも知れません。
とても長い期間続いている番組ですので、放送時期ごとの違いもありそうですが、全般的な傾向としては「一般の小説の中から比較的柔らかめの素材を選ぶ」というのが青春アドベンチャーの原作選定の大まかな傾向なのかも知れません。

さて次回は、こちらもいつか特集しようと思っていたメディアミックスの状況について100作品を対象にまとめてみたいと思います。


【特集】「100作品紹介記念①:放送時期」はこちら
【特集】「100作品紹介記念②:ジャンルと格付け」はこちら


Hirokazu

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