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砂浜クラブ 作:國吉咲貴(FMシアター)

  • 作品 : 砂浜クラブ
  • 番組 : FMシアター
  • 格付 : A+
  • 分類 : 少年(中高)
  • 初出 : 2019年4月13日
  • 回数 : 全1回(50分)
  • 作  : 國吉咲貴
  • 音楽 : 村井秀清
  • 演出 : 小見山佳典
  • 主演 : 井頭愛海

私は高校デビューに失敗した。
今度こそは上手くやろうと思っていたのに、たった2日。
もう吹部にはいけない。
友だちだと思っていた二人の言葉を聞いて、教室に入ることもできなくなった。
行くところがなくて辿り着いた学校裏の海岸。
そこにいたのはクラスメイトの三山だった。
やばい、あんな奴といっしょにいるとますますハブられる。
でも…



FMシアター「砂浜クラブ」は2019年4月にNHK-FMにて放送されたラジオドラマ(オーディオドラマ)です。
今回は青春アドベンチャー「ベルリンは晴れているか」に井頭愛海さんが主演するのに併せて、同じ井頭さん主演のこの作品を紹介させていただいた訳ですが、実は当作品は本ブログが実施した2019年のFMシアター・特集オーディオドラマの人気投票で第3位に入った作品でしたので、いずれご紹介するつもりでした。

いじめ?

さて、本作品のテーマを一言でいうなら「いじめ」でしょうか。
FMシアターらしい硬派なテーマです。
ただ、いじめる側・いじめられる側の関係、あるいは当事者の意識はそう単純ではありません。
主人公の「みちる」は、客観的にみると同じ吹奏楽部のリカや亜子からいじめられているのですが、彼女自身の認識としてはいじめではなく「高校デビューの失敗」。
リカたちも恐らくいわゆる「イジリ」をしているだけという認識で罪悪感は感じていません。
また、そのみちるも、クラスメイトの三山(みやま)に対する鈴木のいじめという側面では、積極的に加担してはいないものの、傍観者あるいは関わりを拒否しているという面で、加害者側でもあります。

独特の空気感

このように書くと、三山くんが相当悲惨な境遇にあるように感じるかもしれませんが、彼自身は意外と飄々としてます。
むしろ、現在のいじめる・いじめられるという関係より前の時点での問題を抱えているみちるや鈴木の闇が深い。
…などと書くと、相当、陰鬱な作品であるように思われるかもしれませんが、そうではありません。
その理由として考えられるのは独特の空気感の漂う「砂浜クラブ」の存在。
といっても別に公式のクラブではなく、ただ3人(みちる、三山、鈴木)が何となく学校裏の砂浜で時間を過ごすようになったことを「砂浜クラブ」と称しているだけです。
ここでの3人にはいじめる-いじめられるという関係性はありません。
砂浜クラブの存在のおかげで、いじめを人権問題としてではなく、青春の一時期における痛みとしてとらえるような作品になっています。

安易に解決できない

もちろん物語としては、淡々と日常が過ぎていくだけで済むはずはなく、途中でこの関係性が破たんする事件が起こるのですが、それもどちらかというといじめが解決するという結末ではないのがこの作品の面白いところ。
いじめていた側が自分の行いを悔い、反省するなんてことはなく、どちらかという家族問題として物語は終息します。
いじめ問題を扱いながら、その解決を示さないこの結末に異論のある方もいるのではないかと思いますが、個人的には悪くないと思いました。
いじめ問題が解決するということは、いじめていた側も浄化されるという側面を有します。
でも、そもそもいじめていた側は簡単には反省なんてしませんし、仮に反省したとしてもそう簡単に許されていいはずはない。
教育テレビ的な安易な作劇になっていないことはむしろ好感を持ちました。
それにしてもいじめを「イジリ」とかいって正当化する文化っていつごろから生まれたのでしょうかね。
お笑い芸人同士の関係性をネタにするTV番組などは見るに堪えないものもあると感じます。

「美少女」

さて、本作品の主役みちるを演じたのはファッションモデル・女優の井頭愛海(いがしら・まなみ)さん。
2012年の第13回全日本国民的美少女コンテストで審査員特別賞を受賞して芸能界入り。
2016年下期の朝ドラ「べっぴんさん」にて主人公の娘役で人気を得ました。
2020年公開予定の「鬼ガール!」にて映画初主演とのこと。
冒頭に書いたように現在「ベルリン晴れているか」にも主演されていますが、あちらでは終戦直後の外国人の役であったのに対して、本作品ではほぼ同年代(本作品放送時18歳)の日本人という身近な役です。

イケメン

また、ミチルを巡る二人の男子生徒、三山と高橋を演じたのが元ジャニーズJr.で俳優の百瀬朔(ももせ・さく)さんとジュノン・スーパーボーイ・コンテスト出身の財木琢磨(ざいき・たくま)さん。
おふたりとも絵のないラジオドラマに出演されるのが惜しいほどフォトジェニックな方ですが、役の年齢より少し上であることもあり、安心して聴くことができました。
百瀬さんは青春アドベンチャー「ギルとエンキドゥ」で主演されていましたが、本作品も「ベルリンは晴れているか」とは違う意味で「ギルとエンキドゥ」とは異なる普通の現在の高校を舞台にした話。
演じるキャラクターの性格が全く違うこともあり、百瀬さんの演技も全く違うことが印象的でした。
まあ三山もかなりエキセントリックな性格で、普通の高校生とは少し違うかもしれませんが。



本作品は当ブログで実施した「2019年・FMシアター/特集オーディオドラマ人気アンケート」で3位の得票を得た作品です。
くわしくはこちらをご覧ください。


Hirokazu

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