ベルリンは晴れているか 原作:深緑野分(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : ベルリンは晴れているか
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A+
  • 分類 : サスペンス
  • 初出 : 2020年5月18日~5月29日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 深緑野分
  • 脚色 : 矢内文章
  • 演出 : 真銅健嗣
  • 主演 : 井頭愛海

ベルリンはこの2年ずっと雨だ。
父と母と、そしてイーダと空を見合上げたあの日から、一度も青空を見ていない。
戦争が終わってもベルリンの空は晴れない。
そう戦争が終わっても消えることはないのだ。受けた傷も、犯した罪も。



本作品「ベルリンは晴れているか」は深緑野分さんの小説を原作としたラジオドラマです。
原作小説は、2019年本屋大賞第3位、第160回直木賞候補、第9回Twitter文学賞国内編第1位、「このミステリーがすごい!2019年版」第2位と、定評のある作品。
そして青春アドベンチャーでドイツものに良作が多いことは周知の事実。
これは期待が高まるところですが…

テーマは重厚、展開も巧妙

いきなり、個人的な結論からですが、まずは良作でした。
ただ、予想したほどではなかったというのも正直なところです。
モチーフは、戦争、ナチス、そしてユダヤ人。
「自分の信じたいことしか信じない病」に罹りつつある今の日本で(まあトップがあの調子ですから)、この内省的な作品が受けるのかな、と心配にはなるものの、ミステリー(娯楽小説)でありながら、極限状態における人間の良心を問うテーマは重厚。
全般的にロードムービー的なしつらえになっていて、登場人物たちの隠された事情が徐々に明らかになっていくのも悪くない展開です。

蟹江さんの代表作

何より ”カフカ=ジギ”を演じる蟹江一平さんの演技!
青春アドベンチャーにおける蟹江さんの代表作といえば「ゼンダ城の虜」(2008年)とその続編の「ヘンツォ伯爵」(2010年)だったのでしょうが、本作の演技はより印象的。
正直、過剰といえば過剰な嫌らしさなのですが、「また、桜の国で」における中川晃教さんのレイなどと同様、声だけで演技しなければいけないラジオドラマでは、このくらいがわかりやすいのだと思います。
ただ、このジギ、最終盤で毒が抜けた感じになってしまったのがちょっと残念。
ストーリー展開の都合上、終盤は主人公アウグステの告白の方がエグイ内容でしたので、仕方がないところではありますが。

場面展開がわかりづらい

一方、イマイチだった点なのですが…
上手く言い表せないのですが、特に序盤、状況説明が不足に感じました。
大きな背景がわからないということではなく、場面の繋がり、セリフの方向性などが少しわかりづらく、細かい流れがすっと頭に入ってきませんでした。
ラジオドラマは絵がないため、リスナーは、作中で誰と誰が向かい合っているのか、場面がつながっているのかいないのか、といった基本的なことまで総てを音だけで理解しないといけません。
リスナーが娯楽もののサスペンス作品だからわかりやすく伝えてもらえるだろうというスタンスで聞いていると、脚本が玄人向けの場合、理解することが難しくなるように感じます。

ボリュームが足りない

また、内容面でも原作全体を追い切れていないのではないかと感じました。
例えばクリストフがアレを続けてきた理由。
説明されても共感できる類の話ではないのかも知れませんが、彼の心情が窺い知れるエピソードが少ない。
また、そもそもアウグステは作品冒頭の時点で事情をほぼ分かっていたわけで、必ずしも旅に出なくてもよかったような…
すみません、細かいことばかりで。
鷲は舞い降りた」みたいなアクション作品だと細かい矛盾も気にならないのですが、本作のような真面目な作品だとどうしても気になってしまいます。
本作品が誠実な作品故のこととお許しください。
それにしても、この辺は単行本480頁の大作である原作では違うのかも知れません。
原作も読んで確かめてみたいと思うのですが、そもそも15分×10回という枠がこの大作を放送するには厳しかったような気もします。
ただ、この作品、例えば全20回・4週間に亘ってしつこく放送されたら、聴いている方がダメージを受けそうな内容ではあります…

主演は国民的美少女

さて、本作品の主役アウグステ・ニッケルを演じたのはファッションモデル・女優の井頭愛海(いがしら・まなみ)さん。
2012年・第13回全日本国民的美少女コンテストで審査員特別賞を受賞された方です。
当ブログでは先にFMシアター「砂浜クラブ」で紹介させていただいています。
「砂浜クラブ」は現代の高校が舞台であるのに対して、本作品は第二次世界大戦直後のベルリンという浮世離れした舞台ですが、なかなかうまくこなしています。
その他、ドブリギン大尉役の上杉祥三さんは「プラハの春」のヘス中佐に続いてまたしても悪役を充てられていて、何となくお気の毒。
一方、アウグステの父・デートレフ役の吉見一豊さんは、青春アドベンチャーでは瓢げた役も多いのですが、今回はあくまで良心的で誠実な役です。

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