- 作品 : レールバイク
- 番組 : FMシアター
- 格付 : A
- 分類 : 家族
- 初出 : 2015年3月28日
- 回数 : 全1回(50分)
- 作 : 福原充則
- 音楽 : ロケット・マツ(パスカルズ)
- 演出 : 吉見匡雄
- 主演 : 益岡徹
郁夫は、千葉県のローカル鉄道小向鉄道の保線員。
同年配の仲間たち3人とともに、レール上を走るエンジン付きのバイク -レールバイク- にって線路を移動、延々と続く枕木の交換作業に従事している。
ある日、郁夫のチームに38歳の新人保線員・山本が配置されてきた。
また、雑誌取材という触れ込みで、杉山という若い女性も顔を出すようになる。
どことなく人付き合いを避ける山本と、保線員を応援しているとはしゃぐ杉本。
日々単調に続いていた郁夫の人生に波風が立ち始める。
「レールバイク」(トロッコバイク・軌道自転車)とは、線路上を走るように製作又は改造された自転車やオートバイのことで、保線作業用に使われるほか、最近では廃線を利用したアクティビティとしても使われているそうです。
本作品は、レールバイクを、保線員作業や保線員の人生の象徴として扱った作品で、要所要所にレールバイクに乗るシーンが出てきます。
小向鉄道?
ちなみに本作品の舞台となるローカル鉄道「小向鉄道」は架空の鉄道線ですが、実際、房総には「小湊鐵道」や「いすみ鉄道」といったローカル鉄道会社があり、菜の花の景観を売りにしていたりするので、これらがモデルなのだと思います(もちろん本作品はNHK千葉局の製作)。
ただ、実際の「小湊鐵道」と「いすみ鉄道」は房総半島を横断している点で作中の「小向鉄道」とは異なっています。
途中で切れているという意味ではJR久留里線の方が「小向鉄道」に近いのかもしれません。
58歳の男性が主人公
さて、作品紹介に移ります。
主人公の郁夫は58歳。
どのような経緯があったかは語られていませんが、大手企業を退職後、前職の半分以下の給料で現在の職に就き、死ぬまで枕木を掘り続ける肉体労働の毎日を過ごしています。
自分の人生に一抹の寂しさをもちつつ、淡々とした日常を少しだけ前向きに生きる自分なりのコツを見つけて、日々を過ごしているのですが、新人の山本が急に、自分は郁夫の息子だと言い出したことに驚愕することになります。
少しだけドラマチック
しかし、息子を持ったことのない父と、父を持ったことのない息子、しかも親子とは言えお互い大人同士ですので、ふたりの関係はぎこちないまま。
本作品はこのふたりに加え、どこか不自然な雑誌編集者・杉山や周囲の保線員仲間との人間関係を軸に淡々と過ぎていく作品…だと思われたのですが、終盤、ある事件が発生し、多少ドラマチックに展開したのちに物語は終わります。
FMシアターらしい、初老のさえないおじさんが主人公の作品ですが、意外な展開といい、とらえようによっては少しファンタジックな要素もある結末(「奇妙な出来事についての奇妙な結論」)といい、不思議な後味のある面白い脚本の作品でした。
どこか品がある
脚本と言えば、鹿と鉄道の接触事故の有様を、飛び散ったフルーツパフェや電気炊飯ジャーに例えるちょっとメタフィクションっぽいナレーションや、「土曜の夜にラジオなんか聞いても悲しくなるだけだよ」というちょっとシニカルな台詞(=この作品を放送したFMシアターは土曜の夜の番組)、にはちょっとニヤっとさせられてしまいました(こういった特殊な演出をピンポイントで抑え、くどくやらないのが上品)。
本作品の脚本は、後に「演劇界の芥川賞」と呼ばれる岸田國士戯曲賞を受賞(2018年・第62回)している脚本家・福原充則さんによるものですが、おじさんが主人・舞台は地味な仕事場・ファンタジー要素なし(終盤の郁夫の「結論」はあくまで郁夫の思い込みだとの解釈)で、さっぱりと気持ちよく聴ける話になっているのはなかなかだと思います。
脇役が主役
さて、主人公の郁夫を演じたのが益岡徹さんで、もうひとりの主役の山本を演じたのは野間口徹さん。
「益岡徹」さんと「野間口徹」さんって誰?と思われた方は是非、検索してみてください。
おふたりとも、きっと見覚えのあるお顔だろうと思います。
こういった名バイプレイヤーを主役起用するのがNHK-FMらしいところ。
というかこのFMシアター自体(あるいはラジオドラマというジャンル自体)が脇役的なメディアであります。
特に、野間口徹さんはwikipediaに「一度は顔を見たことがあるのに名前は出てこない俳優」とまで書かれてしまっています。
岡田准一さん主演の「SP警視庁警備部警護課第四係」で薄気味悪い演技をされていたあの方ですよ。
ご本人はバイプレイヤーであることに拘りがあるようですので、幸せな表現なのかもしれません。
他の作品にも出演
ちなみにFMシアターでは前年の「産後途中下車」にも出演されています。
ちなみに益岡さんについては「21世紀のユリシーズ」、野間口さんについては「七帝柔道記」を紹介済みです。
そのほか、本作品は、オモチャの楽器やピアニカ、バイオリン等を使う音楽グループ・パスカルズ(Pascals)を主催するロケット・マツさんが音楽を担当されているのも特徴的です。
(補足)
本作品は、当ブログが年末に実施した2015年のリスナー人気投票で第2位の得票を得ました。
本作品のほかに人気だった作品にご関心のある方は別記事をご参照ください。
コメント