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隠しの国 作:東憲司(青春アドベンチャー)

  • 作品 : 隠しの国
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : C+
  • 分類 : 幻想(日本/シリアス)
  • 初出 : 2020年8月31日~9月18日
  • 回数 : 全15回(各回15分)
  • 作  : 東憲司
  • 音楽 : 澁江夏奈
  • 演出 : 小見山佳典
  • 主演 : 百瀬朔

引っ込み思案で目立たない中学生の少年リクは幼いころから一つの夢しか見たことがなかった。
その夢の中でリクは「暴君リク」になり、3人の家臣とともに残忍非道な行いを繰り返す。
あまりの残虐さのため寝るたびに苦しめられてきたリクだが、いつしか思いのままにふるまう「暴君リク」の姿にある種の爽快感をも感じていた。
そんなある日の夕暮れ時、リクは公園でひとりの少女を見かける。
大きめの麦わら、白いワンピース、そして、夢で出会った少女と瓜二つの顔。
気になるリクだが彼女に話しかけられないまま数カ月が経過する。
しかし、突如としてふたりの関係に変化が訪れる。
彼女がリクの命を狙って襲ってきたのだ。



本作品「隠しの国」(かくしのくに)は東憲司さんの脚本によるオリジナルラジオドラマでNHK-FMの青春アドベンチャーで放送された作品です。

東憲司作・小見山佳典演出の第2弾

東さんは劇団桟敷童子代表の代表で、ご出身である福岡の炭鉱町や山間の集落をモチーフにした脚本を多く書かれています。
青春アドベンチャーにおける最初の長編「河童の記憶」も九州を舞台にした作品でしたが、2作品目の本作品「隠しの国」は無個性な日本のどこかにある街と異世界「隠しの国」が舞台であり、「河童の記憶」のような地方性は感じません。
また、本作品の演出をされたのは、2015年に番組の制作統括を勇退された後も引き続き演出として番組に関わっている小見山佳典さん。
小見山さんの演出作品の特徴は青春アドベンチャーでは珍しいオリジナル脚本とオリジナル音楽の組み合わせ。
「恋愛映画は選ばない」、「あなたがいる場所」と「あなたに似た自画像」以外はすべてこのパターンです。

鬼の国に異世界転生?

さて、本作品における「隠しの国」とは「鬼の国」のこと。
「隠」という字は「おん」とも読みますが、日本の「鬼」(おに)は「隠」の字音が転じたものというのが有力説なのだそうです。
当然、この「隠しの国」には鬼が住んでいるのですが、その鬼は「角あり族」と「角なし族」に分かれており、前者が後者を抑圧している社会構造です。
リクはこの夢の国で「角あり族」の親玉として暴虐の限りを尽くしているのですが現実世界では気弱な一中学生。
授業中も休み時間も居眠りばかりで友人ができないという弊害はある(でも女の子の幼馴染がいるあたりはちょっとラノベ的)ものの、ごく普通の生活を送っていたのですが、不思議な少女アヤノとの出会いをきっかけとして、徐々に現実世界を隠しの国が浸食し始めます。
父親の怪我もその影響と考えたリクは、自分と同じように「隠しの国」の夢を見ている仲間とともに隠しの国に行き、もうひとりの自分「暴君リク」に会うことを決心するのですが…

ライトノベルの元祖は桃太郎であるという新説を思いついてしまった件。

…と書くと、この作品は異世界ファンタジーなのではないかと思われるのではないかと思いますが、必ずしもそれ一色の作品ではありません。
すくなくとも第1週(冒頭3分の1)はあくまで現実世界が舞台で非現実性が薄めのファンタジーでしたし、「隠しの国」に行った第2週目以降も現実世界のパートが割と多く、予想外の展開でした。
内容的にも、本作品が小劇場の脚本家が書いた作品であることもあって、ライトノベルによくある、転生者が異世界で無双する「俺TUEEE」系の作品では全くありません。
一応、犬・猿・雉はいるんですが、リクはイジイジとしてばかりでとても桃太郎とはいえないので。…って書いていて思ったのですが、俺TUEEE系のライトノベルの元祖ってもしかして桃太郎?(珍説を思いついてしまった…)

エンタメとしてはちょっと…

さて、話を戻しますと本作品は作者の問題提起がとてもストレートに表現された作品です。
弱い者を助けているつもりだったのにいつの間にか強者の立場に立っている。
復讐する側だった者が気が付くと抑圧に血道を上げている。
人は恨み、殺しあうことの無意味さに気が付いてもその螺旋から抜け出すことはできないのか…
ただ、この青春アドベンチャーはあくまでエンターテイメントドラマ枠のはず。
作者に伝えたいことがあればエンターテイメントとして成立させたうえで、自然とリスナーに伝わるようにするほうがスマートだと思います。
最後のエヴァっぽい自己肯定だけで、あとはリスナーの皆さんが考えてくださいというのはいかがなものでしょうか。
ちなみにエヴァつながりでいうと、私は庵野秀明監督が自由に作ったエヴァンゲリオンよりも、前作の赤字を回収するためにやむなく制作されたトップや、人の仕事を引き継いで制作されたナディア、雇われ監督に徹したシン・ゴジラの方が好きです。

百瀬朔さんはいつも熱演

さて、本作品の主役リクを演じるのは俳優の百瀬朔さん(26歳)。
FMシアター「砂浜クラブ」に続き中学生の役です。
そういえば「ギルとエンキドゥ」も少年の役でしたね。
いつも熱演で聴きごたえがあります。
また、ヒロイン・アヤノはこれも「河童の記憶」で青春アドベンチャー主演経験のある吉井乃歌さん。
「隠しの国」から来たアヤノとフーを演じる吉井乃歌さんと大手忍さんは、「河童の記憶」の香苗とサーチャのコンビでもありますね。
その他、「桃太郎の家来役」(ホームレスのゲン、廃業寸前の自転車屋ジロ、売れない舞台女優ニコ)を演じる野村昇史さん、木津誠之さん、八幡みゆきさんなどが主要キャストです。


Hirokazu

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