昔、火星のあった場所 原作:北野勇作(青春アドベンチャー) 

格付:C
  • 作品 : 昔、火星のあった場所
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : C
  • 分類 : 幻想(その他)
  • 初出 : 1994年6月27日~7月8日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 北野勇作
  • 脚色 : 北野勇作
  • 演出 : 角井佑好
  • 主演 : 菊池健一郎

強引な方法で火星を地球化する計画は、火星の分解・消失という悲惨な結末を迎えてしまった。
そして、火星のあった場所に今あるのは、地球とも火星ともつかない不思議な空間。
しかもその空間は地続きで地球ともつながっているという。
こんな世界で、「ぼく」は、火星を開発することを目的とする“HCO”(Human Corporation=人類共同体)に入社する。
そして、ドロップアウトした社員が変化するという「鬼」や、火星開発のために作られた人工生命体である「タヌキ」、そして時間の流れが周囲と異なるという遺跡「カチカチ山」などの不可思議なものに出会う。
この怪しく幻想的な世界に、どのような意味が、どのような謎が、あるというのだろう。



小説家で役者でもある北野勇作さん原作の小説をラジオドラマ化した作品です。
原作である小説「昔、火星のあった場所」は、日本ファンタジーノベル大賞の1992年の優秀賞を受賞した作品です。
ちなみにこの年の日本ファンタジーノベル大賞は、「大賞」が「該当作なし」だったので、「昔、火星のあった場所」は事実上の1等賞でした。
原作者の北野さんは2001年に「かめくん」で日本SF大賞を受賞したSF作家でもあります。

原作者=脚本家=?

また、本作品は原作者自らが、ラジオドラマの脚本も担当している珍しい作品です。
青春アドベンチャー系の番組で同様の形態の作品としては、「恋愛映画は選ばない」(2013年、吉野万理子さん)、「ダーク・ウィザード~蘇りし闇の魔導士~」(1996年、寺田憲史さん)、「愛と青春のサンバイマン」(1991年、藤井青銅さん)、「ぼくらのペレランディア」(1989年、島田満さん)、「盟友」(1989年、村田喜代子さん)などがあるようです(一部推定)。
そして、北野さんの名前は一部の回の最後で、出演者としてもコールされていますので、どの役かはよくわからないのですが、役者としても本作品に出演もされているようです。
なお、青春アドベンチャーで原作者が出演している他の作品についてはこちらの記事をご参照ください。

出演者紹介

北野さんご自身以外の出演者をご紹介しますと、主役の「ぼく」役は俳優の菊池健一郎さんが演じています。
1988年には映画「ぼくらの七日間戦争」で宮沢りえさんと競演された方だそうです。
ちなみに「ぼくらの七日間戦争」はアドベンチャーロード時代にNHK-FMでラジオドラマ化もされています。
また、ヒロインの「彼女」役はあべのめありさんが演じています。
この方は、検索しても本作品とFMシアター「梅を売る家」の出演くらいしかでてこず、来歴がよく分からないのですが、ちょっと安永亜衣さんに似たカワイイ声の方です。
その他、須永克彦さん(部長役)、國村隼さん(時計屋役)、奇異保さん(主任役)などがご出演されています。

ネタバレ注意!

さて、今回はいつもと異なり、まずキャストを紹介してから内容を説明するという順序でこの記事を書いているのですが、そうしたのは理由があります。
本ブログでは基本的にネタばれにならないように書いているのですが、今回はネタばれ前提で記事を書くつもりなのです。
という訳で、ここ以降にはネタばれがあります。
ネタばれしたくない方は読まないでくださいね。





SF的な小ネタが一杯

本作品は冒頭の紹介文のような幻想的な雰囲気の作品ですが、同時にSF的なモチーフが随所にちりばめられた作品でもあります。
具体的には、鬼、タヌキ、カチカチ山、下水道士といった童話的なイメージを連想させる用語と、テラフォーミング、人工知能、人工生命体、相対性理論などのSF的な小道具の両方が違和感なくちりばめられています。
また、全体のBGM、効果音などの演出は、どちからいうと無機質な、それでいてどこかとぼけたような印象なのですが、印象的なテーマ曲や一部の効果音など、どことなく不安感を煽るような要素も強く、独特の雰囲気を醸し出しています。

不可解だが付いていけるストーリー

また、ストーリーも、予想外の展開が続くエキセントリックなものですが、ついていけないほど突飛なものではありません。
多くの曖昧さと不可解さがリスナーの混乱を誘うのですが、その混乱の程度はリスナーが投げ出してしまう一歩手前でとどまっている印象です。
個人的にも、この不思議な世界がどのような結末を迎えるのか、飽きる一歩寸前ながら、終盤まで楽しく聴くことができました。できたのですが…

でもこれって…

…ファンのみなさま、すみません。
私には本作品のラストが正直期待はずれでした。
結末を知っている状態で改めて聴いてみると、前半から微妙な不条理さをさりげなく滑り込ませていたり、舞台を明示しないでぼかしていたり、結末で明らかになる要素を随所に暗喩的に取り込んでいたり、結末を見据えて伏線を積み上げているのがわかります。
でも、結局ところ“夢オチ”なんですよね。

SFと考えると

夢オチが悪いとは思いません。
ファンタジーやギャグでは大いにありだと思っています。
私自身、例えば、夢オチではありませんが「悲しみの時計少女」のように、最後に突然、それまでと違う方向で謎解きされる作品も十分にありだと思っています。
ただ、私、SFで夢オチはないだろうと思っているんですよね。
北野さんが日本SF大賞受賞作家であることを無意識のうちに意識していたのかも知れませんが、もっとSF的な解決が待っていると期待していました。
だから、前半ちりばめられていたSF要素が、夢オチの伏線にすぎなかったことを残念と感じてしまいました。

ファンタジーでした

よく考えてみると、本作は「日本ファンタジーノベル大賞優秀賞」受賞作なので、私が勝手に思い込んでいただけではあります。
ただ、せっかくの入念な伏線や暗喩、登場人物たちの含みのあるせりふや態度も、結局、夢で済ませられてしまったので、興ざめしてしまいました。
重ね重ね、ファンのみなさまには申し訳ないですが、まあ、一個人の勝手な感想と思ってください。
それにしても「有頂天家族」といい、「タヌキ」には相性が悪いなあ。

コメント

  1. No name より:

    原作はきちんとSF的なギミックを用いているのですが、ラジオドラマ化にあたってファンタジー要素を前面に押し出した作品でしたね
    (原作のある意味で難解なギミックをラジオドラマで表現するのは難しそうなので仕方なかったと思います)

    • Hirokazu Hirokazu より:

      No nameさま
      コメントありがとうございます。
      そうなんですね、原作はもっとSFよりなんですね。
      どのように違うか機会がありましたら確認したいと思います。

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