- 作品 : ハッピーバースデー
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : A+
- 分類 : 少年(幼小)
- 初出 : 2007年1月22日~1月26日
- 回数 : 全5回(各回15分)
- 原作 : 青木和雄・吉富多美
- 脚色 : 山下君子
- 音楽 : 内田周作
- 演出 : 小島史敬
- 主演 : 永井杏
出来の良い兄・直人ばかりを可愛がる母と、母の愛情を一心に求め続ける娘・あすか。
しかし、あすかは11歳の誕生日に決定的な一言を聞いてしまう。
「あんな子、産まなきゃ良かった。」
ショックで失語症になったあすかは、心配した直人の強い勧めにより、宇都宮に住んでいる祖父母のもとで暮らすことになる。
11歳の誕生日に始まり、12歳の誕生日に終わる、あすかの1年間の成長の物語。
青木和雄さん・吉富多美さん原作の小説を原作とするラジオドラマです。
この原作は、まず、1997年に青木和雄さん原作の児童書「ハッピーバースデー~命かがやく瞬間(とき)~」として執筆され、その後、2005年に加筆修正され、お二方の共著として文芸書「ハッピーバースデー」として再発表された作品だそうです。
このラジオドラマは後者の文芸書版に基づいているそうです。
ちなみに本作品の音楽担当は内山周作さんで、テーマ曲は「ハッピーバースデー」をアレンジした優しい曲です。
ある意味、徹底したダメ母
さて、それにしてもこの作品の格付けをどうするか、かなり迷いました。
この作品、主人公あすかを健気に演じた永井杏さんの演技も印象的ですが、松田美由紀さん演じる母親・静代のダメっぷりが、とても強い印象を残します。
一般的にフィクションであっても「どんな母親でも母親なら子どもに愛情を持てるはずだ」という幻想をもとに母親が描かれることが多いと思います。
その中で、ここまでキチンとダメな母親を描く作品はなかなかなく、これはこれで素晴らしいのではないかと思いながら聴いていました。
結末に納得がいかない
しかし、一方で、イジメを描いている第4話のあまりのご都合主義っぷり -説教臭いというか教育臭いというか- がちょっと残念に感じてしまいました。
また、第5話で描かれる結末も、正直、若干の違和感が残るものでした。
というのも、あすかの成長ぶりは確かに気持ちの良いものですが、これをお手本として、親にネグレクトされている子供たちに対して、あすかと同じような強さを要求するのは少し違う気がします。
親は子供を許し守るべきですが、子供が親を許さなければいけない責任はないはずです。
また、正直、本作品の中の言葉である「すべての人間に生きる価値がある」とも思いません。
敢えて評価したい
以上から、個人的には第3話までは良作、第4話は駄作、第5話は微妙…という印象でした。
だから後半になるほど残念に感じたのは確かですが、例えすべての人間に価値があるわけではなくとも、そう思ってそれを行動で実践する人間が尊いということは理解しているつもりです。
だから、敢えて前半のとんがり具合を評価して、私の感覚的とはあまりあわないラストとは感じつつ、敢えて“A+”としました。
癒され系
さて、本作品の内容を紹介すると、本作品は他の青春アドベンチャー作品でいうと、「光の島」や「ミヨリの森」、「哲ねこ七つの冒険」などと似たジャンルの作品です。
つまり、何らかの理由で傷ついている子供が、自然や優しい人との交流の中で癒され、成長していく話です。
まあ、その意味で「青春」でも「アドベンチャー」でもない作品ですが、さすがFMシアターでこのような作品を作りなれているNHK。
「光の島」をはじめとして、このジャンルの作品、意外とどれも聴かせる作品だったりします。
ダメ母とけなげな娘
これらの中でも、本作品で一番の特徴はやはり母親のダメっぷり。
「哲ねこ七つの冒険」の母親も当初はかなり頭の固い人間に見えますが、意外とすんなりと適応していきます。
それに対して本作品の母親・静代の発言のイタさは群を抜いています。
…と、ここまで書いて思ったのですが、「暗殺のソロ」や「鏡の偽乙女」など多くの作品の記事で書いているとおり、私は「けなげな娘」というモチーフに弱く、割と高い格付けを与えてしまいがちです。
それは以前から自分でも理解していたのですが、「ダメ親」というモチーフも結構気になってしまうみたいです。
以前書いた記事でも「ぼくは勉強ができない」の仁子や「ミヨリの森」のナナミを、青春アドベンチャー史に残るダメな母親と書いたのですが、この作品の静代もなかなかのレベルです。
仁子が確信犯的に怠けているダメ親であるのに対して、本作品の静代は自分ではちゃんとやっていると信じている天然もののダメ親です。
主演は永井杏さん
最後に改めて、出演者について書きますと、主人公の少女あすかを演じているのは永井杏さんです。
永井さんは1992年生まれですので、本作品の制作時は15歳だったと思います。
「ニコニコ日記」、「瑠璃の島」、「女王の教室」、「功名が辻」といった作品で評価が高かった子役の方のようですが、2013年1月に芸能活動を終えると発言しているそうです。
何があったのか詳しい事情は分かりませんが、正直、それも良いのではないかと思います。
聴きどころは松田美由紀さんの演技
また、この作品の一番の聴きどころである母親・静代を演じるのは松田美由紀さん。
言わずと知れた故・松田優作さんの奥さまであり、俳優の松田龍平さん・翔太さん兄弟の母親でもあります。
やはりこの作品の魅力はこのふたり、永井さんと松田さんのぶつかり合いにあります。
是非、聴いてみてください。
なんと長門裕之さんもご出演
また、じいちゃん役で何と長門裕之さんがご出演されています。
全5話の短編の脇役で、さらっと有名俳優を起用しちゃうのがNHKらしいところです。
演技は、まあ、いかにも長門さんらしい感じではありますが、やはり上手いですね。
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