暗殺のソロ 原作:ジャック・ヒギンズ(アドベンチャーロード)

格付:AA
  • 作品 : 暗殺のソロ
  • 番組 : アドベンチャーロード
  • 格付 : AA+
  • 分類 : アクション(海外)
  • 初出 : 1989年10月2日~10月6日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : ジャック・ヒギンズ
  • 脚色 : 田辺まもる
  • 演出 : 伊藤豊英
  • 演出 : 山口崇

「謎のクレタ人」
それがヨーロッパを震撼させる正体不明の暗殺者の呼び名だ。
特徴は言葉に強いクレタ訛りがあること、そして暗殺対象以外は決して殺さないこと。
だから、その日、ロンドンで「仕事」のあとに14歳の少女を車ではねて殺してしまったのは、彼にとってはあくまで誤算だった。
そして誤算は他にもあった。
殺された少女の父親は娘を深く愛していたこと、そしてその父親は偶然にもSAS(イギリス陸軍の対テロ特殊部隊)の腕利きの工作員であったこと。
こうしてモーガン大佐の謎のクレタ人との闘いが始まった。



冒険小説の巨匠ジャック・ヒギンズ原作の冒険小説を原作とするラジオドラマです。
ジャック・ヒギンズの作品は、第二次世界大戦を舞台とするもの(「鷲は舞い降りた」など)と、戦後のIRAなどに絡んだスパイ系のものに大別されますが、本作は後者の作品です。
FMアドベンチャー・アドベンチャーロードの時代にはテロリストなどを扱った比較的ハードな作品も多かったのですが、ヒギンズ原作の作品はこれ1作だけだったと思います。

年と共に人は変わっていく

さて、本ブログはあくまで私個人の感覚で評価することを旨としているのですが、当然、私自身の受け取り方も時とともに変化します。
以前、「怪人二十面相・伝」の記事で、最初に聞いた20年前と今とでは評価が随分変わったことを書きましたが、本作も最初に聞いたときと受け止め方が少し変わった作品です。

父と娘

何といっても、子供を持つ親にとって自分の子供が「犬コロのようにひき殺された」というのはキツ過ぎます(愛犬家の皆様にけんかを売っているわけではないことはご了承ください)。
本作ではモーガン大佐が、上司であるファーガスン准将を脅し、見方であるはずのロンドン警視庁を煙に巻き、敵であるはずのIRA過激派にまで接触しながら、手段を選ばずクレタ人を追っていくのですが、親としてはモーガンに感情移入してしまい「モーガン、どんどんやっていいぞ」と思ってしまいます。
逆にモーガンがヒロインに対して興味を持つような場面では「モーガン、今はそれどころではなかろう」と思ってしまうわけでもありますが。
この辺、やはり親子の関係をストーリーに絡めた「ペテルブルグから来た男」なども同様なのですが、本作の方がよりストレートにシンパシーを感じてしまう展開です。

何をしたいの?ミカリ

一方、逆に少しわかりづらいのが「謎のクレタ人」ことミカリの動機。
当時の新聞のテレビ・ラジオ欄に載った本作の寸評にも同じようなことが書かれていたのですが、なぜ彼が暗殺者になり、表の仕事で世界的な名声を得た後もなぜ嬉々として裏の仕事を続けているのか、その原動力が良くわからない印象を受けました。
この辺は全10回というボリュームの限界なのかも知れません。

ピアノ曲が印象的

また、この作品で素晴らしいのは伊藤守恵さんが選曲されている音楽。
以前紹介した「ピエタ」、「ふたり」のようにクラッシックを上手く使った作品に良い印象の作品が多いのですが、本作もピアノが重要な要素になっており、ラフマニノフのピアノ協奏曲などが作中で効果的に使われています。

ご存知でしたら…

特にモーガンの娘であるミーガンがレッスンで習っていたという設定であり、作中でミカリが弾くことにもなる、ガブリエル・グロブレスの「ラサンカンタン」は印象的です。
この曲、ネットで調べて見たのですが、どうも上手く見つかりません。
「ラサンカンタン」というのも作中で広瀬アナ等が言っているのを聞き取っただけなので、正しくは多少違う名前なのかもしれません。
この曲について良く知っている方がいらっしゃいましたら教えてください(→情報をいただきました。追記2をご覧ください)。

渋いぞ出演陣

出演は、主役のモーガン大佐役が俳優の山口崇さん。
すっかり若年層向きの作品が多くなってしまった最近の青春アドベンチャーではちょっとみないガチガチの軍人の主人公であるモーガンを男くさく演じていらっしゃいます。
その他、ミカリの木下浩之さん、ファーガスン准将の家弓家正さん、ベーカー警視の小林勝也さん、ドビル弁護士の斎藤隆さんなど、洋画吹替え風の渋い配役。
三田和代さんや東京放送劇団の三田松五郎さん、八木光生さんといったベテランも健在。
また、娘のミーガン役はこの時期、良く出演されていた(最後の惑星夢の旅など)青木愛さんでした。

なんでこんなに上品なのよ

そして特筆すべきは「語り」をされているNHKアナウンサー(当時)の広瀬修子さん。
NHKスペシャルなどの非常に多くのNHK番組のナレーションを担当されていたので、声に聞き覚えがある方も多いと思います。
この作品、比較的、ナレーションが多い作品なのですが、広瀬さんの語りが非常に落ち着いていて上品なのでナレーションの多さを感じさせません。
これぞプロの仕事。

女性アナのナレーション

同時期の来宮良子さんによる「A-10奪還チーム出動せよ」のナレーションもそうなのですが、海外もののナレーションに、落ち着いた女性の声はとても良くあいます。
広瀬さんは残念ながら2004年に定年退職されているそうですが(※追記あり)、NHKには今でも素晴らしい語りをされる女性アナウンサー(例えば「歴史秘話ヒストリア」の渡邊あゆみアナウンサーなど)がいらっしゃいます。
是非、青春アドベンチャーでも有効活用していただきたいものです。

冒険ものの定番コンビ

スタッフは脚本:田辺まもるさん、演出:伊藤豊英さんのコンビ。
このコンビで「スナップ・ショット」(A・J・クイネル原作、主演:宅麻伸さん、1987年)や「防潮門」(アリステア・マクリーン原作、主演:東野英心さん、1988年)などの同種の作品も作っています。
また、スタッフは異なりますが同時期に「長く孤独な狙撃」(パトリック・ルエル原作、主演:藤岡弘さん、1988年)や「ジグがくる」(キャンベル・アームストロング原作、主演:沖田浩之さん、1989年)など海外原作でテロリストや暗殺者といったハードな題材を扱った作品が多く作られていました。

この路線の復活を!

青春アドベンチャーになってからの作品でも「北壁の死闘」、「着陸拒否」、「ラジオ・キラー」など割合ハードな作品もあります。
しかし、そもそも社会情勢が変わってしまい、このような作品があまり受けないということもあるのかも知れませんが、当時ほどガチガチの海外ものは少ないのが現状です。
是非、この路線も復活して欲しいものです。

(2019年12月25日注記)
…などと書いていたら、2020年1月にヒギンズの代表作「鷲は舞い降りた」が放送されることが決定!
これは嬉しい!

【伊藤豊英演出の他の作品】
多くの冒険ものの演出を手掛けられた伊藤豊英さんの演出作品の記事一覧は別の記事にまとめました。
詳しくはこちらをご参照ください。




追記 2014/8/30
大河ドラマ「軍師官兵衛」を見ていたら広瀬修子さんがナレーションをされているじゃないですか。
まだ現役でした。
是非、使っちゃいましょうよ、NHK-FMのスタッフの方!
大河ドラマだからかな?

追記2 2016/10/15
このブログを読まれた方から情報をいただきました。
フランスの作曲家、ガブリエル・マリー作曲の「La cinquantaine」(ラ・サンカンテーヌ)」という曲で、日本では「金婚式」というタイトルで知られているそうです。
「動画投稿サイトで『金婚式』『ピアノ』で検索すればたくさん出てきますよ」とのことでしたので、検索してみると、確かにあっさりと見つかりました…
m*******さん(非公開のコメントだったので匿名にさせていただきました)、ありがとうございました。

追記3 2020/1/25
約30年ぶりにジャック・ヒギンズ原作の作品「鷲は舞い降りた」が放送されました。

コメント

  1. じおう より:

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    暗殺のソロ、出だしの内容がテンポ良く推理小説にふさわしいものでした。ここで紹介されていることに感激しました。いつかどこかにUPされることを夢見ています。

  2. Hirokazu より:

    SECRET: 0
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    じおうさま

    コメント、ありがとうございます。
    「暗殺のソロ」は本学と効果音、そして広瀬修子さんのナレーションがとても良い雰囲気を作っている作品でしたね。
    青春アドベンチャーでもたまにはハードな作品を放送してほしいものです。

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