ウィル 作:今城文恵(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : ウィル
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A+
  • 分類 : アクション(海外)
  • 初出 : 2023年5月8日~5月19日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 作  : 今城文恵
  • 音楽 : 川田瑠夏
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 加藤清史郎

1863年の夏、新聞記者として赴いた西部ネバダ州ブルーバードビルで、私はウィリアム・オマリーという少年と出会った。
彼は両親を亡くし叔父に養われる貧しい少年で、友人といえる人間は保安官の息子である足の不自由なクリスだけ。
街一番の腰抜けと揶揄される臆病な少年だった。
しかしある時、一人の女性と一丁の銃との出会いが彼の人生に大きな転機がもたらすのを私は見た。
私は私自身のため、この暴力に支配された街で見聞きしたすべてをここに記す。
世界の片隅で起きた少年の小さな成長の物語。
発表のあてはない。
しかし書き残すべき価値があるものだと私は信じている。




本作品「ウィル」は、「イッツ・ア・ビューティフルワールド」、「ウブヒメ」に続き今城文恵さんが青春アドベンチャーに書き下ろした3作品目の作品です。
青春アドベンチャーで3作品もオリジナル長編を書かれている脚本家さんは希少なのですが、この3作品は、現代ゾンビもの、時代劇、西部劇とまったく趣向が違うのが面白いところです。

西部開拓時代のアメリカが舞台

さて、西部劇を始めとして西部開拓時代を描いた作品はアメリカ映画では星の数ほどあるのですが、青春アドベンチャー系のNHK-FM帯ドラマでは40年近い歴史を見渡してもほどんどありません。
思いつくのはFMシアター時代の1984年に放送された「カムイの剣」の後半くらいでしょうか?(そういえばここにもマーク・トゥエインが登場していました)
「モヒカン族の最後」(1988年、洋画「ラスト・オブ・モヒカン」と同じ原作)や「ザ・ワンダーボーイ」(2002年)は日本人からすると近い時代の作品と勘違いしそうですが、実は前者は100年くらい前が、後者は60年以上後が舞台です。
青春アドベンチャーでアメリカを舞台にした作品は、1990年代に川口泰典さんが外国原作のサスペンス作品を大量制作した関係で現代ものは多いのですが、それ以外はほとんどないのです。

意外と向いているのかも

そもそも日本のエンタメ作品全般でこの時代を舞台にした作品はほぼない…と思っていたのですが、改めて考えてみると1970年代の大ヒット漫画「荒野の少年イサム」のほか、川原正敏さんの「修羅の刻」の第3章(アメリカ西部編)、和月伸宏さんの「GUN BLAZE WEST」、村枝賢一さんの「RED」など漫画中心にポツポツ見受けられます。
これらの作品では暴力が支配する時代に、マイノリティーや年少者と言った社会的弱者が抗う姿が描かれることが定番となっていますので、実は若年層向けのエンタメ作品が作りやすい舞台なのかもしれません。

少年の成長物語?

本作品の主人公ウィル(ウィリアム・オマリー)も典型的な弱者。
経済的にも肉体的にもみるべきところがなく卑屈に生きていますが、心の底では現実を変えたいと願ってきました。
そんな彼の前に一人のガンマン、デイジーがあらわれることにより物語は始まります。
銃は剣などの従来の武器と異なり、習熟さえできれば大男にも負けない暴力を得ることができる。
自ら暴力を行使することを覚えたウィルがどのような生き方を選択していくのか。

暴力が当たり前の時代で。

少年漫画であれば当然戦って道を切り開いていくはずなのですが、そこは今城さんの脚本。
弱いままゾンビ側に寄り添ってしまった「イッツ・ア・ビューティフルワールド」や、決定的な異能をさして使わないまま終わってしまった「ウブヒメ」と同様に、本作も通常の西部劇の主人公とは違う結末へと向かいます。
ある意味、反西部劇。
そこに込められた思いや舞台設定に関する補足など、今城さんご自身が書かれていますので以下もご覧ください。

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加藤清史郎さん3作品目

さて、本作品で主役のウィルを演じるのは俳優の加藤清史郎さん。
青春アドベンチャーでは「カムパネルラ」「ぱきゅん」に続くご出演です。
現在21歳であり、もう彼のことを元こども店長(トヨタ自動車のCMでの役)と呼ぶ人もいないでしょうね。

準主演級

また準主演級で出演するのは、後の大作家マーク・トゥエインを演じるミュージカル俳優の内藤大希さんと、デイジーを演じる元宝塚女優の留依まきせさん。
時めがね金沢うた絵巻」主演などすでに経験が豊富な内藤大希さんを作品全体のナビゲート役に配し、宝塚で男女を演じ分けた経験もあるフレッシュな留依さんを重要な役どころで起用する気の利いた配役です。

千葉哲也さんを忘れてはならない

そして忘れてはならないのは悪役?フランクを演じる千葉哲也さん。
藤井靖さんの青春アドベンチャー初演出作品「不思議屋百貨店」で主演を務められた方ですが、最近では「タランの白鳥」のマダイタ、「白狐魔記 蒙古の波」のブルテ・チョノなど薄気味の悪い役がとても印象的!
「イッツ・ア・ビューティフルワールド」の弥三郎役の神農直隆さんもそうだったのですが、こういう暗い役が印象的だと作品も締まります。


【近代から現代にかけてのアメリカ合衆国を舞台にした作品】
第1次世界大戦後に完全にイギリスから覇権国家の座を奪い取ったアメリカ合衆国。
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