- 作品 : アドリア海の復讐
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : A-
- 分類 : アクション(海外)
- 初出 : 1994年1月3日~1月21日
- 回数 : 全15回(各回15分)
- 原作 : ジュール・ヴェルヌ
- 脚色 : 福田卓郎
- 演出 : 伊藤豊英
- 主演 : 小林勝也
1867年、オーストリア支配下のハンガリーで、独立のために地下活動を続けていたサンドルフ伯爵、ザトマール伯爵、バートリー教授の3人は、待ちに待った一斉蜂起を目の前に、何者かの密告により逮捕、幽閉されてしまう。
密告者の正体を知った3人は、乾坤一擲の脱出計画を決行するが、ザトマールとバートリーは再度捕まり処刑され、サンドルフは断崖絶壁から海に落ちて行方不明になってしまう。
それから15年後、アンテキルト博士なる人物がハンガリーに現れるのだが。
SF作家の始祖とも言われるジュール・ヴェルヌの原作小説をラジオドラマ化した作品です。
「モンテ・クリスト伯」の翻案
本作品「アドリア海の復讐」は、アレクサンドル・デュマ・ペールの名作「モンテ・クリスト伯」を翻案して書かれた「復讐もの」の作品といわれており、このラジオドラマの冒頭でも、本作品をデュマ親子に捧げることが明言されています。
ところで、青春アドベンチャーでは、1996年に本作品と同じ伊藤豊英さんの演出により「モンテ・クリスト伯」自体もラジオドラマ化されています。
そのため両作品を聴き比べることができるのですが、ストーリーの細部や全体の雰囲気は意外と違うものの、確かに大筋は一緒ですね。
「バルト海の復讐」と「皇帝の密使」
ちなみに田中芳樹さん原作の「バルト海の復讐」はタイトルこそ似ていますが、かなり雰囲気の異なった作品です。
なお、青春アドベンチャー系の番組でジュール・ヴェルヌの作品が採用されたのは、1986年の「皇帝の密使」についで2作品目(当時の番組名はアドベンチャーロード。番組の変遷はこちら)であり、本作品は約10年ぶりに採用されたヴェルヌの作品でした。
「モンテ・クリスト伯」との相違
さて、先に述べたようにストーリーの構成要素を見ると「理不尽な投獄」、「決死の脱出」、「幸運な一攫千金」、「偽名による敵への接近」、「敵同士の恋」、そして「復讐」といったように「モンテ・クリスト伯」に準じるものです。
ただ、「モンテ・クリスト伯」のダンテスが悪漢の個人的な利益のために騙されるのに対して、本作品でサンドルフ伯爵がだまされる背景にはハンガリー独立運動という政治情勢があります。
とはいえ、サンドルフ伯爵は結局、個人的な復讐(彼の言葉によれば「裁き」)のためだけに動き、最終的にはハンガリー独立などはどこかへ行ってしまいます。
むしろスケールダウン?
そのため、むしろ、敵が順調に出世しており上流階級に対する復讐劇となる「モンテ・クリスト伯」のスケールが大きいのに対し、本作品の敵はどうにも“小物感”が拭えません。
どうせなら、単なる個人的な復讐譚ではなく、ハンガリー独立も絡んだ政治劇になると良かったなあと思いますが、15分×15回では手に余る題材になってしまいそうですね。
本作品では、プロローグに4話という長い時間を割いたり、復讐が実質的にスタートするのも第11回からだったりと、全15回というボリュームを、スケールを増すためというより丁寧なストーリー展開をするために使っています。
これはこれでありだと思いました。
主役の造形も…
また、他に「モンテ・クリスト伯」との違いとしては、小林勝也さんが演じる本作品の主役(と思われる)サンドルフ伯爵のキャラクターが挙げれらます、
「モンテ・クリスト伯」のダンテスが意思の塊のような男であるのに対して、本作品のサンドルフ伯爵は、良くいえば「品がある」、悪くいえば「微妙に頼りない」人間です(あくまで比較しての話)。
それが復讐がなかなか上手く進まない原因になっており、それは本作品の一種の魅力になっていると思います。
きたろうさんの存在感
さて、小林さん以外の出演者については、まず語り(ナレーション)として、小林さんを超える存在感があるのが、きたろうさん。
きたろうさんは、最初は単なる語りとして登場するのですが、第5話から、実は登場人物の一人が語っているということが明らかになります。
この登場人物の一人がナレーションをしているという形式は「モンテ・クリスト伯」のアリと同じです。
しかしアリと異なり、本作品で“きたろう”さんが演じる人物は、能動的に物語に絡むキャラクターであり、語りも軽妙です。
語り自体が、視聴者に語りかけるような親近感のあるものであり、作品全体が軽やかな雰囲気になる原動力になっていると感じます。
懐かしい「運び屋サム」
きたろうさんといえば、アドベンチャーロード時代の「銀河番外地、運び屋サム」や最近では「なぞタクシーにのって…」などでも味のある役を演じています。
正直言って、少し噛み気味のところもあったりして、役者としてはともかく、ナレーターとしてはきわめて上手とはいいがたい感も受けましたが、きたろうさんの存在は、本作品の魅力の一つになっていると思います。
古典の脚色が多い福田卓郎さん
最後に本作品の脚本は福田卓郎さんが担当されています。
本作品の他にも「三銃士」(アレクサンドル・デュマ原作)、「ロスト・ワールド」(アーサー・コナン・ドイル原作)、「夏への扉」(ロバート・A・ハインライン原作)など多くの古典の青春アドベンチャー化を担当されています。
これらの他にも「着陸拒否」(ジョン・J・ナンス原作)はなかなかの名作だと思います。
【伊藤豊英演出の他の作品】
多くの冒険ものの演出を手掛けられた伊藤豊英さんの演出作品の記事一覧は別の記事にまとめました。
詳しくはこちらをご参照ください。
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