- 作品 : サバイバル
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : A
- 分類 : 冒険(秘境漂流)
- 初出 : 2011年1月24日~2月4日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : さいとう・たかを
- 脚色 : 丸尾聡
- 音楽 : 山本清香
- 演出 : 真銅健嗣
- 演出 : 山田諒
その日、妙に生暖かい風がビルの間を駆け抜けた。それが合図だった。
洞窟探検中に大地震にあった少年サトルが、ようやく地上に這い出てみると、周囲は一面の海になっていた。
自分以外、誰ひとりいない絶海の孤島で、サトルのサバイバルが始まる。
ナイフ一本だけを頼りに食料を調達し、住処を確保する。
なぜ世界はこのように変わってしまったのか、それすらわからないまま生き続けるサトル。
しかしこれは、家族と再会するためのサトルの長い長い旅の始まりに過ぎなかった。
「ゴルゴ13」で有名な漫画家さいとう・たかをさんが、1970年代に週刊少年サンデーで連載していた漫画をラジオドラマ化した作品です。
もうひとバージョンあるらしい
今回紹介するのはNHK-FM「青春アドベンチャー」で2011年にラジオドラマ化された作品です。
しかし、wikipediaによれば、同じNHK-FMで1980年に「サマーワイド・スペシャル」として、映画監督で脚本家である仲倉重郎さんの脚本によりラジオドラマ化されたバージョンもあるようです。
NHK-FMで最近、仲倉さんが脚色したラジオドラマとしては、2010年の「なぞタクシーに乗って…」くらいですが、昔は頻繁に脚色されていらっしゃいました。
「ビバ!スペースカレッジ」などは印象深い作品です。
仲倉版の「サバイバル」も聴いてみたいものです。
ふたつのサバイバル
さて、本作品はサトルによる、まさにサバイバル生活を描いていく作品です。
作品の冒頭は孤島での自然を相手にしたサバイバルですが、その後は舞台を変え、荒廃した都市での人間を相手にしたサバイバルも描かれます。
言ってみれば冒頭は「ロビンソンクルーソー」、中盤は「北斗の拳」や「マッドマックス」的な舞台です。
他の青春アドベンチャーにおける類似作品を挙げると、前半は「渚にて」、後半は「バイオレンス・ジャック」といったところでしょうか。
ちなみに、本作品でサトルは、捕まえたフクロウに「フライデー」と名付けるのですが、「渚にて」でも仲間にフライデーというあだ名を付けていました。
孤島生活で得た新しい仲間にフライデーという名前を付けるのは、ロビンソン・クルーソー以来の定番なのかも知れませんが、ネーミングにひねりがなさ過ぎる気もします。
恐るべき放送タイミング
それにしても、本作品では、地震に伴う高さ100mもの津波で日本は壊滅状態になったという設定です。
実は、この作品が放送されたのは東日本大震災のほぼ1カ月前。
東日本大震災以前は、地震による被害としては、地震の振動による建物の倒壊や火災被害がクローズアップされていたと記憶します。
本作品が敢えて津波被害を強調したのは、サトルが孤島状態でサバイバルをスタートさせるという設定を成立させるために必要だったからなのかも知れません。
再放送は難しそう
しかし、この作品が放送された僅か1カ月後に、実際に、超えるはずのない堤防を越えて津波が押し寄せるという現実を突きつけられることになってしまった訳です。
NHKの制作スタッフも思いもしなかったことでしょう。
ちなみに、原子力災害を扱った「カラマーゾフの森」が震災後一度も再放送されていないのと同じように、この作品も現在(2013年末)に至るまで一度も再放送されていません。
異様に速いストーリー展開
さて、気持ちを切り替えて、本作品の特徴を紹介します。
本作品の特徴は、とにかく展開が速いことです。
地震の発生、サバイバルの開始、アキコの登場、再度の地震、ネズミとの戦い、東京への移動、農園、虎の登場、大人達との出会いなど、とくかくドンドン話が進みます。
これにともない作中の時間も、数カ月程度はあっという間に経過します。
そして、次々と新しい登場人物が出てくる一方で、次々に登場人物が死亡していく、めまぐるしい展開です。
また、本作品は、その性格上、サトルがサバイバルの方法を自分で工夫して行く様子を説明せざるを得ません。
これが冗長にならないようにするためには、どうしてもナレーションを多用せざるを得ない宿命を持っています。
これらの状況が重なったせいで、ややダイジェスト版のような印象になっていると感じました。
詰め込み過ぎたのか?
「光の島」や「五番目のサリー」の記事でも書いたように、私はラジオドラマの脚色は、盛り込みすぎないことが大切だと思っています。
特に原作付きの作品の場合、無理して原作のすべてのストーリーを追おうとすると中途半場になってしまうと感じています。
だから実はこの記事では「この作品もストーリーを進めることを重視しすぎたのではないか…」と書こうと思っていたのですが、ちょっと調べてみた結果、少し違う感想を持つに至りました。
これはこれでアリかも
実は本作の原作は、オリジナルの小学館版で全22巻、文庫版でも全10巻もの大作です。
私は原作を部分的にしか読んだことがないのですが、どうもこのラジオドラマのストーリー、原作の最後までたどり着いているようなのです。
わずか15分×10回の枠で、20巻もの漫画作品全体のストーリーを描くというのは至難の業としか思えません。
つまり、私は最初、この脚本は物語の要素をうまく切り落とすことができずストーリーを追うだけの作品になってしまったのだと思いました。
しかし、むしろストーリーを最後まで進めることに特化して、無駄をそぎ落とした作品なのではないでしょうか。
徹底している
改めて聴いてみるとその趣旨は徹底されており、オープニング・エンディングの時間さえ、最近の青春アドベンチャーらしくないあっさりしたつくりで、最低限の時間で抑えています。
これはこれで冒険的な試みなのではないかと思います。
ストーリーの途中までだけでもじっくり作った方がよい作品もあれば、流してでも作品全体を放送しないと魅力が伝わらない作品もあるでしょう。
要は作品の性格と制作者の方針によってどちらにするか決めればよいのであって、「バイオレンス・ジャック」のようにじっくり作った挙句、続編が作られず中途で終わってしまう場合もあることを考えると、本作品のような選択もありだと思います。
まあ、どうしてもダイジェスト臭さはぬぐえないのですが。
主人公役とヒロイン役
出演は主役のサトル役を俳優の山田諒さんが演じています。
山田さんは主役ではありませんが、「レディ・パイレーツ」にもご出演されています。
また、序盤のヒロイン・アキコを演じているのは、最近の青春アドベンチャーに引っ張りだこの占部房子さん。
「闘う女。」、「泥の子と狭い家の物語」、「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」、「僕たちの宇宙船」など、割と影のある人物を演じることが多いのですが、本作品のアキコは普通の感情豊かな(もろい?)女性であり珍しいパターンです。
その他の出演者
面白いのは「男」を演じる有薗芳記さん。
本作品と同じ、丸尾聡脚色・真銅健嗣演出の「世界でたったひとりの子」でも、癖の強いディードという役を担当されていましたが、本作の「男」もアクの強いキャラクターです。
また、脚本家の丸尾聡さんも、端役ですが自らご出演されています。
丸尾さん「オペレーション太陽」などでも役者として出演されていましたが、なかなか出たがりの方のようでナイスですね。
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