バルト海の復讐 原作:田中芳樹(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : バルト海の復讐
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A+
  • 分類 : 歴史時代(海外)
  • 初出 : 2002年3月18日~3月29日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 田中芳樹
  • 脚色 : 山本雄史
  • 演出 : 保科義久
  • 主演 : 宮本充

15世紀のバルト海。
琥珀の買い付けも無事に終わり、故郷のリューベックまであと一息。
エリックが船長として迎えた初めての航海は無事に終わろうとしていた。
しかし、突然の嵐が船を襲ったことにより状況は一変してしまう。
嵐に乗じて、3人の部下 -ブルーノ、マグヌス、メテラー- が反乱を起こし、エリックは嵐の海に投げ込まれてしまったのだ。
何とか岸に泳ぎつき、ホゲ婆さんと名乗る怪しげな老婆に助けられたエリック。
自分がなぜ反乱を起こされたか心当たりのないエリックだが、話を聞いたホゲ婆さんはあっさりと状況を読み解いてみせた。
恐らく琥珀以上の利益をもたらす何らかの事情が背後にあるであろうこと、そのために反乱の首謀者の3人以外の他の船員達は殺されているであろうこと、そして、船員殺害と琥珀盗難とを併せてすべてエリックの罪とされているであろうこと。
真犯人を告発するとともに、真相を船主に伝えるために、エリックはリューベックへと向かうのだが。



田中芳樹さん原作の小説をラジオドラマ化した作品です。
田中芳樹さんは青春アドベンチャー系列の番組でも特に多くの作品が原作として取り上げられている作家さんで、この「バルト海の復讐」は放送当時で5作品(4シリーズ)目のラジオドラマ化作品でした。
なお、青春アドベンチャー系列の番組における田中芳樹さん原作作品の一覧については当記事の末尾を、田中さんも含めて多数の作品が取り上げられている原作者については、こちらの特集をご参照下さい。

復讐ものの古典との関係

さて、実はこの作品を紹介する前に、アレクサンドル・デュマ原作の「モンテ・クリスト伯」と、ジュール・ヴェルヌ原作の「アドリア海の復讐」を連続で紹介しており、本作品と併せて3連続で「復讐もの」を紹介したことになります。
そちらの記事でも書きましたが、「アドリア海の復讐」は「モンテ・クリスト伯」の翻案であることが作者自らによって明らかにされています。
一方、本作品「バルト海の復讐」は、「アドリア海の復讐」と極めてタイトルが似ており、意識して付けていることは推測できますが、明確な「原作-翻案」の関係にはないようです。

復讐ものとしては牧歌的

そもそも、本作品のストーリーは他の2作品と異なり、何十年もの時間を追いかける壮大なものではありません。
また、宮本充さんが演じる主人公エリックがかなりお人好しな性格であることもあって、作品の内容及び全体を覆う雰囲気が他の作品とは全く違うものになっています。
エリックの性格という点で付け加えるならば、本作品、そもそも全10話しかないのに、エリックが復讐を決意するまでに半分の5話をかけています。
このエリックの性格に応じてか否かわかりませんが、復讐される相手方の造形もどこか牧歌的です。
まず、3人うちのひとり、メテラーはとにかくの優柔不断な性格です。
また、その他の真犯人達も、粗暴であったり小ずるかったりはするものの、他の2作品の悪役達が持っているような“業”のようなものは感じません。
敢えて言うなら典型的な「時代劇の悪役」といった印象でしょうか。

岸田今日子さんはさすがの雰囲気

復讐の相手方以外の登場人物では、傭兵兼騎士のギュンター・フォン・ノルト(田中芳樹さんの別の作品「七都市物語」の読者はクスリと出来るネーミングですね)や謎の老婆ホゲ婆さんと言ったキャラクターがなかなか魅力的です。
でも、ホゲ婆さんを演じるのは、気持ち悪い老婆を演じさせたら天下一品の岸田今日子さんですので、もっとアクの強いキャラクターでも良かったのかな、という印象が残りました。
「岸田さん」+「青春アドベンチャー」といえばナレーションで抜群の雰囲気をだしていた「雪の女王」の方が印象的です。

やや薄味

話をストーリーに戻しますと、「モンテ・クリスト伯」が凄惨で悲劇的な復讐劇であるのに対し、「アドリア海の復讐」は同じように規模の大きい復讐劇ではありますが、主人公の性格がやや大人しいこともあって、悲劇性は薄れています。
さらに本作品「バルト海の復讐」は、主人公にやや復讐への決意が弱く、周囲の人間に復讐をお膳立ててもらう傾向も強い。
そのため、復讐自体がテーマと言うより、冒険物語の一要素として復讐劇が入っている印象で、復讐劇としては一段とスケールダウンしている観が否めません。

スケールの割には楽しめる

ただ、これによって、つまらない一方になっているかというと、そうでもありません。
どうせならもっと田中作品さんらしく、シニカルに天下国家を語った作品にして頂いた方が私は好きですが、ハンザ同盟や当時の海事取引の商慣習を巧みにストーリー取り入れており、全10話と短くまとめられた脚本と相まって、これはこれで、聴いていてストレスのない娯楽作品になっていると思います。

スタッフ紹介

スタッフは、脚色:山本雄史さん、演出:保科義久さんの「タイムスリップシリーズ」(タイムスリップ明治維新など)と同じコンビです(正確には本作品の方が先に制作された作品)。
実はナレーションの佐々木睦さんも「タイムスリップシリーズ」と同じですので、聴いていてどことなく似たような感じを受けました。
そういえばタイムスリップシリーズの一作「タイムスリップ川中島」も舞台の一部が中世のドイツでしたね。

【田中芳樹原作・原案の他の作品】

※VHA=ヴィクトリア朝怪奇冒険譚

【保科義久さん演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
名作、迷作、様々取りそろっています。
こちらを是非、ご覧ください。

コメント

  1. 匿名 より:

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    >ブルーノは嵐の海に投げ込まれてしまったのだ
    エリックと一緒にブルーノという人物も投げ込まれてしまった? 

  2. Hirokazu より:

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    > >ブルーノは嵐の海に投げ込まれてしまったのだ
    > エリックと一緒にブルーノという人物も投げ込まれてしまった? 

    ありゃ、間違えていますね。
    修正しておきます。
    ありがとうございます。 

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