- 作品 : 査察機長
- 番組 : FMシアター
- 格付 : AA
- 分類 : 職業
- 初出 : 2006年4月15日
- 回数 : 全1回(50分)
- 原作 : 内田幹樹
- 脚色 : 浜田秀哉
- 音楽 : 荻野清子
- 演出 : 大久保篤
- 主演 : 東幹久
昨日は成田のホテルに泊まったのに緊張でほとんど眠れなかった。
機長になって初めてのチェックフライト。
しかも査察機長はよりにもよって、あの氏原だ。
今も、彼の切れ長の目が猛禽類のように見つめている。
やりづらいったらありゃしない。
今日の成田-ニューヨーク間のフライト。
何とか無事にやり遂げないといけない。失敗したら機長の資格は剥奪されてしまうのだから。
冷戦下のパワーゲームでとんでもないものへの着艦を余儀なくされる旅客機を描く「101便着艦せよ」(FMアドベンチャー、1984年)、乗客に正体不明の急病が発生し世界を彷徨うことになる旅客機を描く「着陸拒否」(青春アドベンチャー、1998年)など、NHK-FMのオーディオドラマでは過去、旅客機を舞台にした良作のサスペンス作品が放送されてきました。
FMシアターで放送された本作品「査察機長」はその系譜に連なる航空サスペンスの名作…と見えるのですが、そうではないのです、実は。
サスペンスではない
確かに終盤に航空機が舞台ならではの山場を迎えはします。
しかし全般的には少しユーモアを交えつつ、巨大旅客機のパイロットの仕事の様子が淡々と描かれます。
そういう意味では本作品はサスペンスではなく、あくまでお仕事もの。
機上のパイロットは操縦桿を握る以外にどのよう仕事をしているのか。
彼らはどのような価値観を持ち、何に喜びを感じて仕事に従事しているのか。
そういったことがチェックフライトという行事を通じて丹念に描かれます。
チェックフライトと査察機長
チェックフライトとは現役のパイロットが定期的に課される、実際のフライト舞台にした試験のことで、ここで同乗するチェックキャプテン(=査察機長)に不合格の判定を下されると訓練課程に逆戻りしないといけないというパイロットにとっては過酷な制度。
そういえば「着地拒否」でもチェックキャプテンが同乗し、主人公が緊張するシーンがありましたね。
特に本作の主人公・村井は機長に昇格したばかりで初めてのチェックフライトであるのに加え、チェックキャプテンの氏家はとにかく厳しいとの評判。
人間関係も絡んだサスペンスに展開しそうな設定ですが…冒頭に述べた通り大きな事件は起きません。
リアリティ
でもそれがイイのです。
「後ろを見て飛ぶ」という機長のあるべき姿が自然と伝わってくる気持ちのよいお仕事ものの作品になっています。
この不思議なリアリティの根源ですが、原作者である内田幹樹(うちだもとき)さんは全日空の元パイロットとのこと。
技術的なことは取材すればわかるのでしょうが、コクピットでパイロットが何を美しいと思っているかとか、ベテランの機長ならではのCAさんへの気遣いの仕方とかは、経験者の目をとおさないとわかりづらいですよね。
なお、内田さんは本作品放送の約8か月後に亡くなられているそうです。合掌。
主演は東幹久さん
さて本作品のもう一つの良さは出演者。
主役の新米機長・村井を演じるのは俳優の東幹久さん。
当ブログでは「鷲は舞い降りた」のシュタイナ中佐や、「風の向こうへ駆け抜けろ」の緑川調教師の低音ヴォイスでお馴染みですが、本作品では若手機長役だからかこれらの2作品より若い喋り方で聞きやすいです。
洋画吹き替え風
また、チェックフライトに同乗する2人のパイロット、査察機長の氏家とベテラン大隅を演じた磯部勉さんと石田太郎さんがまたイイ。
磯部勉さんと言えば1980年代の「さらばアフリカの女王」や1990年代の「マドモアゼル・モーツアルト」、2000年代の「あでやかな落日」から2020年代の「ハプスブルクの宝剣」まで長年に亘ってNHK-FMのオーディオドラマに出演されています。
ちなみに「タイムライダーズ」でサリーナを演じていた磯部莉菜子さんは娘さんだそうです(青春アドベンチャーでの親子共演に期待!)
また石田太郎さんも1980年代の「カムイの剣」や「西遊妖猿伝」から、2010年代の「1985年のクラッシュ・ギャルズ」までバイプレイヤーとして大活躍でした。
このおふたりが脇を固めることにより、まるで洋画吹き替えのような良い雰囲気になっています(石田太郎さんは2代目の刑事コロンボの吹き替え担当でもあります)。
石田太郎さんは2013年に亡くなられているため今となっては懐かしいお声だと感じます。
コメント