帝冠の恋 原作:須賀しのぶ(青春アドベンチャー)

格付:AA
  • 作品 : 帝冠の恋
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AA+
  • 分類 : 歴史時代(海外)
  • 初出 : 2017年1月30日~2月10日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 須賀しのぶ
  • 脚色 : 佐藤ひろみ
  • 音楽 : 山下康介
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 野々すみ花

貴族の令嬢の夢など他愛もないものだ。
「私の夢は、世界一素敵な王子さまと結婚して、世界一美しい宮殿で夢のような暮らしをすること。」
でも、現実には、そんなものは存在しない。
だとしたら、自分の手で作ってみせる。そう、私は「オーストリア」と結婚するためにやってきた。
19世紀初頭。
ハプスブルク帝国の世継ぎとされるカール大公のもとに、南ドイツの新興国・バイエルン王国から一人の王女が嫁いできた。
彼女の名はゾフィー。
人々は彼女の美しさを賞賛したが、彼女は美しいだけの女性ではなかった。
彼女の中には強い決心と覚悟が隠されていたのだ。



脚本・佐藤ひろみ、音楽・山下康介、演出・藤井靖のトリオといえば、名作「ピエタ」。
「ピエタ」と同じ陣容で制作されたという時点で、本作品「帝冠の恋」も良作の予感が漂うのですが、さてその出来はいかに。

少女小説出身の原作者

原作は須賀しのぶさんの小説。
須賀さんは、折りしも昨年「また、桜の国で」(※なんと同じ年の8月に「また、桜の国で」もラジオドラマになりました)で直木賞の候補になられた方ですが、「コバルト・ノベル大賞」を受賞してデビューしたという経歴からもわかるとおり、もともとはいわゆる「少女小説」を書いていらっしゃった方。
本作品の原作も2008年に集英社コバルト文庫から発刊された作品です(2016年に徳間文庫から再刊)。

敬遠する気持ちはわかる

「コバルト文庫」!
正直、もうこれだけで敬遠してしまう方も多いのではないでしょうか。
1976年に創刊したコバルト文庫は、当初は広くSFやライトノベル(当時はこのような言葉はありませんでしたが)を対象にした文庫でしたが、その後、徐々に少女向けの小説に特化。
新井素子さん、久美沙織さん、氷室冴子さん、藤本ひとみさんなどの多くの女流作家の活躍の舞台ともなりました。
少女を主人公に淡い恋愛模様を中心に描く作品が多く、まあ、大人の男性にはなかなか手が出しづらい文庫です。

食わず嫌いは良くない?

ただ、なんでも手を出してしまうNHK-FMのこと、過去にはいくつかのコバルト文庫の作品をラジオドラマ化しています。
具体的には、サウンド夢工房時代の「なんて素敵なジャパネスク」やアドベンチャーロード時代の「サハラの涙」や「いつか猫になる日まで」、カフェテラスのふたりの「星へ行く船」など。
「何事も食わず嫌いは良くない、どんな分野でも良作は良作のハズ」と思い、本作品も聞いてみたのですが…

強い意志、溢れる情熱

なかなか良いではないですか!
まず主人公ゾフィーの行動原理の根本が、「恋」でないのが良い。
いや「恋に流されない主人公」とまではいえず、とても多感な彼女のこと、実際、恋に苦しむことが作品の主要な部分を占めるのですが、恋に溺れても自分と他人を捨てきることができない人物だからこそ、その苦しさが輝く。
そんな魅力的な主人公です。

野々すみ花さんがぴったり

そのゾフィーを演じる野々すみ花さんの、いかにも舞台劇的でありながら適度に濃すぎない演技もイイ。
野々すみ花さんは、本作品の前年の2016年に放送された「雨にもまけず粗茶一服」(吉田努さん演出)が青春アドベンチャー初出演で、この作品でもなかなか好印象でした。
本作品は演出の藤井さんたっての主演要請だった(野々さんのブログ(外部リンク)参照)そうです。
宝塚出身ということを存分に生かした配役ですね。

宝塚女優の多用

宝塚といえば、野々さんは元宝塚歌劇団宙組のトップ娘役(同年放送の「斜陽の国のルスダン」も元トップ娘役の花總まりさん主演)だそうですが、他にもエステルハーツィー夫人役の毬谷友子さん、カロリーネ皇后役の緒月遠麻さん、そしてマリー・ルイーゼ役の朝海ひかるさん(元トップスター!)と、ゾフィーの周りの主要な女性役を宝塚出身の女優さんで固めているのもなかなか凝った配役です。
これだけのたくさんの宝塚出身の女優さんが出演するのは、1990年代の川口泰典さん演出作品以来でしょう。
川口さんは男性役まで宝塚女優で固めた「ベルサイユのばら外伝」などというものを制作しているので別格ではありますが…

メッテルニヒ役の鈴木壮麻さん

また、男性陣では劇団四季出身の鈴木壮麻さんが演じる宰相・メッテルニヒが秀逸。
本作品の登場人物は基本的に皆、実在の歴史上の人物なのですが、中でもメッテルニヒは勢力均衡策を信奉するとびっきりの現実主義者。
しかし、歴史の教科書に載っている散文的な有名人というより、腹に抱える怒りとも付かぬ不穏さが描かれているのが何とも素敵です。
その他、安西慎太郎さん演じるナポレオンの息子であるライヒシュタット公爵・フランツは線の細さとナイーブさでいかにも少女小説の王子様。
この役、20年前だったら松田洋治さんが嵌っただろうなあ、とふと思いました。
…いや宮川一朗太さんかな。

カール大公とプロケシュ

他に主要な男性出演者と言えば、チョウ・ヨンホさん演じるカール大公と、鯨井康介さん演じるプロケシュあたりでしょうか。
カール大公がいいヤツ過ぎて泣かせます。
そんなに物わかり良くなくていいのに…
反対に、プロケシュは当初、堅物の理想主義者として登場したはずなのに、終盤、ゾフィーにとんでもなく無茶な提案を始めます。
カール大公とは逆で、アンタははっちゃけ過ぎだよ…

でもやっぱり女性向け

さて、その「提案」にも絡むのですが、終盤まで聞いていると、やはり本作品は「少女小説」だったとも感じました。
というのも、歴史学的には概ね否定されているらしい、マクシミリアン1世の出生に関わる「噂」を事実として描いています。
そして、その「噂」に関するすべてを、「愛」の名の下に許してしまう展開は、少女というか女性に随分と都合の良い展開です。
ただ、それがあまり嫌みに感じないのは、原作の須賀しのぶさんや脚色の佐藤ひろみさんの上手いところなのでしょう。

歴史のうねりと個人の苦闘

というか、私、こういうコテコテの恋愛もの、結構、嫌いではないのかも知れません。
そういえばこのブログでも「夢みるように愛したい」や「赤と黒」や「プラハの春」なんかに結構、高格付けを付けていますよね。
特に「歴史」と絡まされると、コロッとやられてしまっている気もします。
ゾフィーが子どもたちに望んだ「帝冠と恋を伴に手に入れ、世界を暖かな光で照らす」生涯って、結局、フランツ・ヨーゼフ1世もマクシミリアン1世も達成できたとはいえないよなあ、と思うと感慨深いものがあったりするわけです。

念のため

言っておきますが、決して本作品に青春アドベンチャーでは数少ない「例のシーン」があったから高格付けにしているわけではありませんぞ。
確かに本作品には、「おいしいコーヒーの入れ方Ⅹ~夢のあとさき~」や「ブルボンの封印」、「赤と黒」、「渚にて」くらいにしかなかった「例のシーン」がある訳ですが、そんなことに引きずられて評価はしていませんって。
だいたい、いい年した大人がちょっとした吐息だけで、そんなに簡単に…
すみません、それを含めての評価であります!

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